船団
オレと月弓の三人、それからラシオンの一頭は護衛するリュウガメ車とともにエイトフィート号に乗り込んでいた。
エイトフィートなんて名前をしているが、もちろん堂々たるでかさを誇った船だ。上甲板にはリュウガメ用の小屋や、車を止めておく設備もある。上甲板から下は三層になっている。
上甲板に立つと思ったより強い砂混じりの風が髪を叩いた。口に入った砂を舌で押し出しながら、オレは風下へと顔を向ける。
「船に乗ると旅って感じがするよな」
サラサラと響く、船底と砂の擦れる音が以外と大きく、それに負けないように声を張る。
オレの言葉にハンガクが不思議そうな顔をした。
「船に乗ったことがあるのか?」
「いや、ない。なんとなくそれっぽいことを言いたかっただけだ」
前世でも船に乗った記憶は数えるほどしかない。今世でももちろん船旅なんてのはしたことがない。
「思ったより大所帯だね」
トヨケが手でひさしを作り、額に当てながら言った。
出港した二十隻の砂海船は五隻✕四列に整列して砂の海を進んでいる。
エイトフィート号は後ろから二番目の列の右端だ。
船同士の距離が大きく取られているので一つ隣より向こうの船の様子はよく見えない。
「二十隻全部で一緒に航海するとは思いませんでした」
日差しを嫌って目深にローブのフードを被ったツルがいった。
「ああ、六隻に分かれて乗るって聞いたから、オレもてっきり六隻の船団なんだと思ってたんだけどさ」
砂海船の航海というのは、十隻や二十隻で船団を組むのが通常らしい。
二十年ほど前までは数隻の船団で航海するのが一般的だったそうだが、砂海に現れる魔物などの脅威に備えるうちに、徐々に船団を構成する船の数が増えていったそうだ。
十隻以上の船団となると、ほとんどの魔物は近付いてさえ来ないらしい。
というような話を、先ほどこのエイトフィート号の船長から聞いたのだ。その事を三人に説明する。
「安心っちゃあ安心だよな。私たちの出番もないだろうから船に乗ってる間はゆっくりしてられるって事だしな」
ハンガクが言い、他の二人も頷いた。
「そういうことなので大船に乗ったつもりでいてくれて構わないぜ。実際に大船だけどよ」
野太い声がした。
振り返ると、ガタイの良い男が立っている。先の話をオレにしてくれた船長だ。
背丈や肩幅などはモリと似たような感じだ。しかし麻のシャツを押あげる胸板や袖を張り詰めさせている二の腕こそ分厚くたくましいが、腹周りにはしっかり贅肉が付いている。
あごひげをたくわえた威厳のある顔立ちの中で目だけは優しげでもある。
「この船の船長のセオだ」
船長が名乗り、トヨケたちもそれぞれが自己紹介をする。
「サラクさんの友人なんでしたっけ」
ハンガクが訊くとセオ船長は首を横に振った。
「それは大船長のタタさんだ。ザカンで一番大きな船商会、メーメイ汽船のオーナーだ。メーメイ汽船はこの航海じゃ全部で十隻の船を出している。タタさん自身はサラクさんと同じフラワーメイデン号に乗ってるぜ」
サラクの食事会で、オレはその大船長とはすでに会っていた。背格好はこのセオ船長とよく似た感じだが歳は一回りほどは上で、頭髪や頬ひげに白髪の混じった年配の男だった。
妙に気難しげな顔立ちをしていたので、挨拶以上の言葉は交わしていなかったが、タタの事を口にした時のセオ船長からはどこか尊敬の念が伺えた。
「タタさんが若い頃は木の化物の大群や砂クジラなんてのも現れたらしいが、今じゃ魔物に遭遇する事自体が稀で、もし出てきても近寄っても来ないんだ。だから護衛のあんたらはゆっくり休んでてくれていいぜ」