砂海港
「壮観だな」
港の光景を見て思わず声が漏れた。
砂の上に帆船が一列に並んでいるのだ。二十隻はあるだろうか。
砂の上を走るらしいのでもっと特殊な工夫がされているのかと思ったのだが、砂海船の見た目ほとんどそのまま帆船だ。強いて違いを上げるとすれば、なんとなくイメージしていた帆船よりも少し背が高いぐらいだろうか。
砂が掛かって判然とはしないが、並んだ船の手前までは石畳が敷かれ、砂漠とは段差が作られているようだ。
舗装された場所には、アーチ橋を半分に切ったような形の移動式のタラップが設えられている。
砂船の港としている。
近くには、倉庫、両替商、渡航に必要な雑貨を売る雑貨屋や、宿屋、酒場などが並んでいる。
荷物を運んでタラップを行き来する者や、石畳の砂を掃き出す者、雑貨屋の呼び込みなどでごった返していて、まさに港町らしい賑わいだ。
「で、どれに乗るんだ?」
風になびいて顔にかかるサラサラの髪を掻き分けているアガトに訊く。
「一番奥に停泊している三本マストの船から並びの六隻が、サラクさんがチャーターした船です」
「六隻も?」
「リュウガメ車と鳥車が船一隻に対して一台までしか乗れないらしいですね」
「スペース的には全然余裕がありそうだけどな」
「重量の問題ですよ。水の海と違って、砂の海は一度沈むと浮力なんて働かないですからね。あの船も海の船とは違って、底は真っ平になっているんですよ」
「詳しいな。砂海は初めてみたいな事言ってなかったか?」
「言ってませんよ。まあ何度も来たわけではないですが」
「それに本物の海についてもよく知ってそうだな」
「まあ交易商人なので。船で海を渡る経験も何度かはしてますね」
「そうだ、竜の郷って知ってるか?」
ふと思い付いて訊いてみた。
あちこちを旅している商人なら知っているかもしれない。情報を得たからといって、どうしようというのでもないのだが。
「竜の郷ですか?」
ところがアガトは首を傾げてみせた。
「名前からすると、竜が集まってる土地のようですが、私は聞いたこともありません。トヨケから聞いた、カズの相棒のドラゴンの出身地ですか?」
「詳しい事は聞いてないんだけどな」
「今はどちらかへ行かれてると聞いてたんですが、その竜の郷への里帰りでしたか」
「どうなんだろうな。気まぐれなヤツだから」
「もしかすると、そのラシオンの出身地でもあるかもしれませんね」
アガトが目線を下げてオレの足元にいる小竜を見た。
「そうそう同郷がいるとも思えないけどな」
注目を浴びたラシオンは我関せずといった風に、地面の巣穴に逃げ込んだ虫を捕まえようと、爪で地面を掘り返している。
「やっぱりラシオンはカズと一緒ですか」
「めんどくさいけど、アンバーに頼まれちまったしな」
結局、ラシオンはアンバーの従魔と上手くいかなかった。だが新入りイビリをされたわけではなく、従魔の方が怯えてしまったらしいのだ。大きな狼やウサギがこんな小さな竜を怖がるのも不思議だが、種族による格の違いというのがあるのかもしれない。
何よりも従魔を愛するアンバーは、従魔にストレスを与え続けることはできないと、ラシオンの面倒をオレに頼んできたのだった。
言葉が分かるめんどくささはあるが、考えてみればラシオンはシルバーよりは万倍マシな性格をしているので、そこまでストレスになることもなさそうだと思い、オレは快く引き受けることにした。あのジャドという綺麗なエルフの少女の前でされたお願いだったから、良いカッコをしようとしたわけでは、断じてない。
「そろそろ順番みたいですよ」
アガトが言った。
タラップの数が限られているため、荷物の積み込みの順番を待っていたのだが、先にアガトが示した六隻の船の前にタラップが運ばれようとしていた。