従魔は街に入れない
「ああ、なんでかオレだけが言葉が分かるんだよ」
「そうなんだ。それってシルバーさんの影響なのかな」
「どうなんだろうな」
ラシオンはトヨケの挨拶にはそれ以上の反応を示さず、ぷいとそっぽを向くようにアンバーの方へと歩いて行った。
「トヨケたちにはあのチビ竜の声はどんなふうに聞こえてるんだ?」
「それほどはっきりと声を出してるわけじゃないけど、強いて言うならきゃうとかぎゃうとか可愛らしい感じかな」
「そうだよな」
予想のできた答えだ。オレにもその鳴き声は聞こえている。
意味のある言葉と鳴き声がオーバーラップしていて、より意識を向けた方がはっきりと聞こえるという感じだ。
オレが話す人間の言葉をラシオンは理解できている。ラシオンの言葉はオレ以外には理解できていない。おそらく、お互いが相手の発する音声を意味のある言葉として解読しているわけではなく、シルバーが持っていた思念伝達のようなスキルが介在してオレたちの会話が成立しているのだろう。
もしそれがラシオンのスキルだとすれば、アンバーや店のオヤジとも会話ができるはずなので、消去法的にオレのスキルということになる。だけどオレはそんなスキルは持っていない。それとも持っている事に気付かずこれまで生きてきただけなのだろうか。
「でもラシオンちゃんは街の中にはいられないよね」
アンバーに懐いている様子の小竜を見ながらトヨケが言う。
その通りだった。獣使いは凶暴な魔物でも完全に使役できるスキルを持っている。それはわりと一般的にも周知されているので、獣使いが連れている魔物を見て怖がる者はあまりいない。
しかし万難を排すために、街や村などでは旅人の従魔の連れ込みは禁止というルールが敷かれている事が多い。入口付近に専用の従魔小屋が用意されている所もあれば、指定の駐車場に止めた馬車に係留することになっている所もある。
このザカンも従魔の連れ込みは禁止だったが、従魔小屋、馬車への係留のどちらの方法も認められていた。従魔小屋は他の従魔との接触がないよう配慮された広々とした建物で、小屋と呼べるような規模のものではなかったし、馬車に係留した場合でも希望して金を払えば、沐浴の道具や大きな毛布など、従魔向けの様々な物をレンタルする事ができた。
砂海船が発着する砂海の玄関口であり、交易都市としての性格上、様々な種の動物や従魔が絶えず訪れるためである。
「他の従魔と同じようにリュウガメ車のところにいさせるって言ってたよ。アンバーのとこのジャドってエルフも街に入りたがらないらしくて、その子が面倒みてるんだってさ」
集いし者の護衛している車にはあまり近付いてなかったので、アンバーがどんな魔物を何頭連れてきているのか正確なところは知らないが、大きな狼やウサギを見たような記憶がある。そこにドラゴンまで加わったらさぞかし賑やかだろう。それにしても獣使い以外が面倒をみてもいい魔物なら、獣使いの存在意義って何なんだろう。
「あんまり一緒に依頼を受けたことがないから、アンバーさんがどんな魔物の面倒をみてるのか知らないんだよね。ラシオンちゃん上手くやれるかな」
「ああ、そうか。新入りイビリとかあるかもしれないもんな」
言われて気付いたが、魔物同士の相性なんてものもあるかもしれない。魔物の新入りイビリとか中々に壮絶そうである。まあ、そうならないために獣使いがいるんだろうけど。
見ているとラシオンはアンバーの背中を登り、肩の上に落ち着いた。いや落ち着くには少しサイズオーバーではあるが、アンバーは首を傾けて好きなようにさせていた。あれだけ懐かれているなら心配はいらなさそうだ。