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動物好き

 結果的に揉め事というほどの揉め事にならずに済み、オレたちを囲んでいた人垣は早々に解散した。

 とりあえずトヨケたちの所へ戻ろうと歩き出したところで、ラシオンが言った。


「あちし、あんたたちと一緒に行くわよ」


 そうなるだろうなという気はしていた。だけどやはり気が進まない。

 めんどくさそうな気がしているのもあるが、何よりシルバーが戻ってきた場合、ミスリルドラゴンが二頭もいるとなれば悪目立ちが過ぎる。そんな状態では、貴人に変に興味を持たれてしまうかもしれない。ペンディエンテは特に貴人の支配力が強い街なのだ。かといって、流浪の民となるのもまっぴらゴメンだ。

 ここは他の二人が竜の言葉を分からないのを良いことにスルーしておくのが得策だろう。

 ところが、


「ラシアンは一緒に来たそうだな」


 アンバーが言った。

 言葉も分からないのになんで分かるんだよ。ムツゴロウさんかよ。


 こちらも言われた事が分かるのか、あるいは動物好きを看過する嗅覚でもあるのか、ラシアンはするすると獣使い(ビーストテイマー)の所まで行くと、キャウと一声鳴いてから足に擦り寄った。仕草がただの猫だ。竜って誇り高い種族だとか何とかシルバーは言ってなかっただろうか。


 しかし考えてみれば、ラシアンがアンバーの従魔になった場合はオレが困ることなど特にはないのだ。アガトもついているので、きっと餌代に困ることもないだろう。そもそも街の外に放すっていってたのはアンバーだし、そのあたりの判断は任せてしまっても良いかもしれない。そういえば、シルバーはキャベツが好きだったが、一般的にミスリルドラゴンというのは何を食べるのだろう。


「大丈夫だった?」


 野次馬が離れていく様子から揉め事が解決したと判断したのだろう。トヨケたちもこちらに向かって歩いてきていた。


「ああ、大丈夫。アンバーが妙なドラゴンに懐かれてる以外は特に問題はないよ」


「ドラゴンって、まるで小さなシルバーさんみたいね。何があったの?」


 ラシアンの姿に気付いたトヨケは目を丸くしてそう言った。

 一般市民とは違い、ドラゴンの希少性を理解している冒険者からすれば、街中に紛れ込んできたというだけでも驚きの事態なのだ。

 オレは事の顛末を説明した。

 トヨケたち三人はうんうんと頷いて聞いていたが、話しが終わると口々に「アンバーさん優しい」「でも気前よく代金を肩代わりしたアガトも良い人」などと各々が感想を述べた。あれ、おかしいなオレを褒める言葉だけが聞こえてこなかった気がする。

 アンバーはやはり人間と接するのが苦手らしく、せっかく美女たちが話しかけてるというのに、消え入りそうな声で「ああ」とか「うむ」とか返事をしているだけだった。


「この()たちは誰だわよ」


 心なしか、ラシオンの声に緊張が含まれているような気がした。


「そういえばオレたちの事はまだ説明してなかったな」


 自分たちが隊商の一団である事や、ペンデイエンテから来てミトノを目指している事、ミトノに着いたらまたペンディエンテに帰る予定である事などをかいつまんで説明する。


「で、オレやアンバー、それとこの三人なんかは冒険者という職業をやっていて、隊商を護衛する役割で同行してるんだよ」


「なるほどだわよ」


 その様子を見ていたトヨケが興味津々の眼差しでラシオンの前にしゃがみこんだ。


「はじめまして。私はトヨケといいます」


 だけどラシオンは不思議そうに小首を傾げるばかりだ。


「ああ、ラシオンは人間の言葉は分からないんだよ」


「え、でも今カズさん話してなかった?」

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