代金
「キャ、キャベツか。そういえば竜乳草のイモムシはその上の段のやつじゃったかもしれんな」
店主は妙に目を泳がせている。さては吹っ掛ける気でいたようだ。
改めてみると、木の板と棒をロープで括り合わせただけの簡素な商品台に並べられているのは、イモムシの他には枝についたたままの何かの実や、乾燥した葉や木の実など。他に錆の浮いたナイフやフチの欠けた陶製の食器などもある。
それほど高価な品物を置いているような店には見えない。
オレとアンバーのやり取りから、店主は小竜の知能が高いことに気が付いたのだろう。しかも食った物の味もしっかり分かるグルメときている。
まあ、知能が高いんなら売り物を勝手に食うような真似はするなって話なんだが。
「それにしたって代金は払うべきだよな。ラシオンはこのオヤジさんときちんと話をするんだぞ。もし揉めるようなら商人ギルドか街の領主さんに間に入ってもらえばいいから」
そう言い含めてオレは腰を上げる。
ところが、ラシオンとアンバーの双方から同時に声があがった。
「わちしは人間の言葉なんて分からないわよ」
「交渉するにもその竜の言葉が分かる者が必要だろう」
いわれてみればそうだ。この流れだと益々オレが介入しなければならなくなる。墓穴を掘ったかもしれない。
というか、ラシオンの方も人間の言葉が分からないのか。
「分かりました。その代金は私が出しましょう」
そう言ったのはアガトだった。
「見ず知らずのドラゴンにそこまでしてやらなくても」
別に反対するわけではないが、極力関わりを避けたいオレは思わずそう口にした。
アガトは何も言わず、ただオレに向かってウインクをしてみせた。いや、それどういう意味だよ。
「いくらでしょうか?」
「そうだな、750000ニナってとこか」
少し試案する素振りをみせてから、店主は答えた。
「ななじゅ、高っ」
桁数の多さに、思わず言葉が出てしまった。オレはそれからルデロに直したら幾らぐらいだろうかと考える。
だいたい5000とか6000ルデロぐらいだろう。それでも高い。
もちろん吹っ掛けられているのだ。しかしアガトは「分かりました」と頷いて、腰に下げたポーチへと手を伸ばした。
見ず知らずのドラゴンのために金を出そうというだけならまだしも、値切りもせずに相手の言い値そのままの金額を払おうとするなんて、商人の風上にも置けないやつだ。
「良かったな、竜よ」
アンバーが言った。
そもそもこいつが見ず知らずの竜のトラブルに首を突っ込んだのだ。
そろいもそろってお人好しなのだろうか。
「ラシオン、っていうらしいぞ。そいつの名前」
「名前があるとは、さすがの上位竜だな」
アンバーは頷いた。
「行こう、ラシオン。城壁の外まで連れて行ってやろう」
そう言ったアンバーの嬉しそうな顔を見て、もしこの魔物好きとパーティーを組んだりなんかしたら、トラブルだらけになるんだろうなとオレは思った。