表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/125

小竜

 行きかう人々をかき分けるでもなく、オレはちんたらと進む。

 くそっ、なんでオレがアガトの加勢に行かなければならないんだ。

 アガトはただの商人だし、獣使い(ビーストテイマー)は使役するモンスター連れたままでは街中に入れないはずだ。だからもしもケンカ沙汰になれば、オレが矢面に立つしかない。そしてボコボコにされたうえに、またツルにちくちくと嫌味を言われることになるんだ。

 オレが到着するより先に衛兵か何かが止めに入らないかな。とか考えているうちにも、すぐに人垣に到着してしまう。

 人垣が強固でなかなか輪の内側に入れないフリをしようかと思ったのだが、オレを関係者と見て取った人垣構成者たちの不要な気遣いにより、さっと通り道ができてしまう。


「おぬしは」


 獣使ビーストテイマーのアンバーが驚いた声を出した。とはいっても細く小さな声だ。モンスターに指示を出す時はもっと朗々とした声だった気がする。


「カズ、来てくれたんですね」


 アガトがオレに微笑みを向ける。

 違うからな。オレはお前のために来たんじゃないからな。友情とか育みたくねえからな。


「ちょっと野次馬根性で見に来ただけだよ」


 と言ったが、何だかツンデレっぽいなと我ながら思ってしまう。

 アガトが何も言わずに頷き返してるのがまた居心地の悪さに拍車をかける。


「で、どうしたんだよ」


 問いながらも、すでにオレの目にはトラブルの元が写っていた。


「ええ、こちらの小竜が騒ぎの元です」


 アガトが掌で示しつつ答えた。

 その先には猫ぐらいのサイズの銀色の竜。そしてその向こうで渋い顔をしている露天商の店主のおじさん。


「自分とこのモンスターが食った物の代金を払うのは当然のことじゃろがいっ」


 真っ黒に日焼けした店主は、顔の真っ白の長い口髭を激しく動かしながらそう言った。


「だからこれは私のドラゴンではないのです」


 アンバーの小さな声はまわりの喧騒にかき消されてしまう。

 どうやら人間と話すのが苦手なようだ。人付き合いが苦手で獣使い(ビーストテイマー)になったクチか。中性系イケメンなのにもったいない話だ。


「なんで見ず知らずのドラゴンの揉め事に巻き込まれてるんだ? だいたいこのドラゴンは何を食ったんだ?」


 尋ねながらも、ドラゴンという符号に何となく落ち着かないものを感じる。


「このドラゴンは竜乳ラターチ草を食べて育ったイモムシを喰っちまったんじゃいっ」


 店主が唾を飛ばす。


竜乳ラターチ草? 高い草なのか?」


 訊くと、店主は唾を飛ばしてがなり立てた。


竜乳ラターチ草は万病に効くだけじゃなく、万病を防ぐんじゃいっ。それだけでも目ん玉飛び出るぐらい高い薬草じゃが、それを喰って育ったイモムシじゃから、同じ重さのミスリルと同じぐらいの金額にはなるわなっ」


「そんなにか」


 詳しいことは分からないが、一般的にミスリルは金の十倍ほどの値で取引されるという。


「でもこのドラゴンはお前の使い魔じゃないんだよな」


 今度はアンバーに向かってそう訊いた。


「むろん私の竜ではない。だが街に銀竜(シルバードラゴン)が入り込んでるのだから放ってはおけない」


 意外と流暢に喋る。

 アンバーが人間嫌い(コミュ障)だと思ったのは早合点だったか。それともオレが人間枠に入れられてないのか。


「それで、どうするんだ?」


「保護して、街の外に逃がす」


「物好きだな」


銀竜(シルバードラゴン)というのは上位竜なのだ。街の者は無頓着だが領主などに知られたら面倒な事になる。もっともおぬしには言うまでもないことかもしれぬが」


 どんな面倒事なのかは、それこそ面倒な事になりそうなので聞かずにおくとしよう。


「でも代金支払えんだろ」


「なーにが竜乳ラターチ草だわよ。こんなのただのキャベツ畑イモムシだったわよ」


 オレとアンバーの会話に割り込むように、小さな女の子のそれのような舌っ足らずの声がした。

 驚いて声の先を見ると、小竜と店のおやじ。

 まあ店のおやじではないだろう。となると声の主は小竜の方だが、アンバーが全く反応していないのが気にかかる。


「それにあちしは銀竜(シルバードラゴン)なんてパンピーじゃないわよ。魔法銀竜ミスリルドラゴンのラシオンとはあちしのことわよ」


 今度ははっきりと小竜が喋っていた。しかも自分が魔法銀竜ミスリルドラゴンだと主張している。

 これはもう黄色信号だ。何とか関わりを避けてこの場を去らなければならない。


 そこで小竜は不思議そうにじりじりと後ずさるオレの顔を見上げた。


「あんた、わちしの言葉が理解できてるわよね?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ