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お買い物!(2)

「なんだよシルバー、分かるのか?」


「いいや、さっぱり。鑑定系のスキルも持ってないしね。でも二人のやり取りを見ていたら、これらがかなり良い物なんだなということは分かったよ」


「竜殿も金物かなものにご興味がおありですか?」


 店主がシルバーに向かって訊く。

 興味があるっていうか、こいつ自身が金物かなものみたいなものなんだけどな。


「興味があるというか、僕自身が金物かなものみたいなものだからね」


 おお、オレが思ったことと全く同じことを言っている。


 というか、何となく流しそうになったが、どうしてシルバーと店主が話をしているんだ。

 シルバーは思念伝達テレパシーで会話をするんじゃなかったのか。


思念伝達テレパシーには幾つか使い方があってね。まず特定の相手だけに思念を届ける囁き声(ウィスパー)。自分の周りにいる者たち皆に届けるのが話し声(スピーク)。それから広範囲に渡って伝えるのが大声(アナウンス)。今は話し声(スピーク)を使っているから店長さんにも僕の声が聞こえてるんだよ」


 オレの疑問を読み取ったかのように、シルバーが解説をした。


「私にもお声を届けていただき、ありがとうございます。ところでご自身も金物と仰られたのはやはり……」


「うん、この体はミスリルで出来てるんだよ。なんてったって僕はミスリルドラゴンだからね」


「おお、やはり」


 ミスリルで出来ているのは良いとしても、それならばミスリル自転車ではないのかと思わないでもない。


「そこで提案があるんだけど」


「何でございましょう」


 言葉を続ける代わりにミスリル自転車はくるんくるんとハンドルを左右に回してみせた。

 その拍子にポトリと何かが落ちる。


「これは……」


 店主が言葉に詰まった。


「僕の爪。もちろんミスリルで出来ている」


「いや、それ爪っていうか……」


 オレは思わず口を出した。

 シルバーが落としたそれは爪などではなく、ハンドルに付いているグリップだ。

 ミスリルかどうかという以前に、金属ですらないゴム製である。


「爪だよ」


 シルバーは断言した。

 それからこちらにハンドルを切り、面倒くさそうに言う。


「カズが納得してなさそうだから一応は説明しておくけど、僕の体はどこをとってもミスリルで出来てる。サドルとかタイヤとか場所によっては形状とか質感とか性質に違いはあるけど、それはまあタンパク質で出来てる人間だって髪の毛とか爪とか色々な場所があるようなものだからね」


「まあ何だって良いけど。それでその限りなくゴムグリップに近いミスリルの爪がどうしたって?」


 シルバーはオレのその質問には答えず、再び店主の方に向き直った。


「その鍋やナイフの対価として、爪ではどうかな?」


 シルバーの妙な提案にしかし、店主は驚いた様子もなく一礼をした。


「大変ありがたいご提案なのですが、その御爪のひとつでも、これらの品の十倍ほどの価値はあるかと思います」


「いいよ、僕にとってはただの爪だ」


「そうはまいりません。私共の商売は信用が大事でございます。あの店は十倍の値で商品を売り付けるなどとの評判が立っては死活問題となります」


「じゃあ、その爪をどこかで売り捌いてもらえない? それでそこから手間賃とこの鍋たちの代金を取って欲しいんだ」


「分かりました。近年、ミスリルの採掘量が落ちてると聞き及んでおりますので、おそらく高値で売れることと思います」


 店主は床に落ちていたグリップ二つを拾うと、丁寧に布でくるんだ。


「爪が高値で売れるのは結構な事だけど、それどうするんだよ?」


 オレはシルバーのハンドルを指差す。

 グリップの取れたハンドルの両端はパイプが剥き出しで握る場所がなく、貧相な感じがする。


「爪の表面の鞘を剥がし取れば、その下の層が硬化してくるよ」


「あー、猫の爪研ぎみたいな感じか」


 言ってる側からパイプの先端が膨らんでグリップの形状へと変化してきた。

 今さらだけど本当に摩訶不思議な生物だよな。生物というか自転車だけど。

 あ、でもこれを何度も繰り返せば簡単に大金持ちになれるんじゃないか。


「必要がある時以外は何度もしないからね。面倒くさいし」


 またもやオレの考えを読んだかのようにシルバーはそう言った。

 まあいいか。別に富豪を目指してるわけでもないしな。


「じゃあこれは貰ってくね」


 シルバーが鍋たちの方へと進む。


 手もないのにどうやって持ち上げるんだろうと思って見ていると、シルバーの前カゴが触れるほどに近付いたところで、鍋もナイフもフライパンも次々に消えていった。


異次元収納ポケットのスキルも使えるのですか。流石は竜殿」


 言って、店主が感嘆のため息を吐いた。


「クーニアさんも異次元収納ポケット知ってるんだ」


 オレが訊いた。

 ちなみにクーニアは店主の名前だ。


「もちろんですよ。我々物を扱う商人にとっては憧れのスキルですから」


「たしかに商売するには便利だよな。在庫抱えても倉庫いらないし、運搬だって身一つで行ける。シルバー、オレたちも物流の仕事やってみるか?」


「ふうーん、そういう発想になるんだ。安易だなとか自分では気付けないものなのかな」


「いや別に本気で提案したわけじゃないからな? 何ていうか会話の流れを尊重しただけだからな」


 神様は何でこんな性格に難があるやつにスキルを色々与えてしまうのだろうか。


「物流はともかく、カズの買い物は手伝ってあげるからそろそろ次の店に行こうよ。じゃあね店長さん、ミスリルの事よろしくね」


 シルバーは挨拶もそこそこにさっさと店を出ていった。




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