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第79話 自分勝手極まる

なんて、欲深い人間だろう。


私は彼にそう言った。


「意外なことを言うよね。もう、とっくに知っていると思っていたよ。でも、欲深いという表現は間違っている」


「あら、違うの?」


「違うよ。好きな生活がしたいだけなんだ。君と安心して暮らせる、好きなことができる世界を作りたいだけなんだ」


「それが欲深いと言うのよ! 誰がそんなことを出来ると思っているの? 世界を変えてしまおうだなんて。そんなことが出来る人なんて……」



私は彼に向き直った。


幾筋か頬に垂れ下がっているキラキラしたきれいな直毛と、見つめている碧い目と薄い唇。


やりかねない。なんだか知らないけどやりかねない。


最初はむしろ軽薄な感じの貴公子だと思っていた。だが、今では違う。正装している時にふと見ると、ハッとする位すてきな人だけれど、それ以外の時は彼は考えている人だった。


「ウッドハウスの縞瑪瑙……」


ルイはホテルの部屋で私の頬に触れた。目に柔らかい光が揺れた。


「何と神秘的で美しい。君を守りきるために出来ることすべてを行うだけだ。ささやかなこの望みを誰が傲慢だと言うだろうか」


いやいや。

めっちゃ傲慢だし、過剰防衛なのでは?



その後、王は亡くなり一歳の王子が即位した。摂政は王弟の公爵だったが、王妃がなにかと口をはさむので、めんどくさくなった公爵はソフィア様のいる台所に戻って腰を据えてしまった。



殿下の予想通り、王妃に摂政は無理だった。

国内勢力同士で対立した時、中立派のフィッツジェラルド侯爵が議会で大演説して風向きを変えたことや、エドワードが半日でウマを飛ばしてその知らせを持ち込んだ時のこと、フィリップ様がイビス国内で王妃反対勢力をまとめ上げたことや、メイフィールド子爵が王妃一族の財源を徐々に干上がらせた事件などが立て続けに起きた。

抜け目のない商売人として有名なメイフィールド子爵だったが、儲けを度外視して、王妃と王妃一族の没落を採算度外視で執念深く狙った。


「だからね、フィッツジェラルド侯爵と和解することは重要だったんだよ」


ルイは公爵邸に戻る馬車の中で言った。


「メイフィールド子爵だって、恨むべきは前の王太子で、後妻の王妃なんかじゃない。だけど、前の王太子のおかげで王位につけたと言う王妃の一言が子爵には許せなかった。フィッツジェラルド侯爵だって、出来ることなら、フィリップに結婚してほしかった」


「フィリップ様ならすてきな奥様が嫁いで来られますわ」


「君が好きだそうだ」


プイと外に視線を移してルイは言った。


「何をしたんだ」


「私はあなたが好きですわ。フィリップさまだって、きっといつか心許せる方を見つけますわ」


私たちは、秘密裏に馬車を走らせて国に帰るところだ。


一昨日、王は退位し、王妃は亡命先にサヴィーヤ国を選んだ。王の婚約者がいるからと言う理由で。

議会は王なんか要らないと結論を出したが、メイフィールド子爵がどういう訳か率先して存続を申し立てたそうだ。エクスター公子を王に立てよと。


「どうしても王と言う象徴を欲しがる町民や農民は存在する。メイフィールド子爵自身は、王権なんか本気でどうでもいいだろうし、いい思い出なんかない。だけど、王がいた方がいいと言う民衆の気持ちだけは、変えられない。だから、その気持ちに他国の縁続きの誰かに付け込まれることを思ったら、僕を呼んだ方がまだましだと思っているんだ」


「あなたを?」


もしかしたら、ルイは最初からこれを狙っていたのだろうか?


「メイフィールド子爵は、もし、武力紛争でも起きたらたまらんと思っているだろう。国境線が封鎖でもされたら、彼の商売にとっては大打撃だ」


「あなたは王になんかなりたくなかったのでは?」


「今だって、嫌だよ。だけど、メイフィールド子爵と言う古くからの貴族ではない有力者が王家の存続を求めると言うのは説得力がある。君の父やフィッツジェラルド侯爵が、王家の存続を求めたら、反発を食うだろう。僕らは、今、メイフィールド子爵の招聘しょうへいに応じているんだ」


ルイは勝手なことを言う。どうせ王政に最も強硬に反対していたメイフィールド子爵が王位復活に走ったのもルイのせいだろう。


「僕はセレモニー担当の王を演る」


「うそでしょ?」


私は冷たく言った。


「メイフィールド子爵だって、半分はわかっているはずだわ。あなたはそんな一筋縄でいく人物ではないわ。メイフィールド子爵たち、商人たちの言いなりになんか絶対にならない」


わざとらしくルイは驚いて見せた。


「何言っているんだ! 僕はセレモニー担当の傀儡の王を見事に演じて見せると言っているのに。これで君も故郷に帰れるし、両親にも会える。そして僕は好きな生活を楽しむ」


「望んでいたことなの? 王になるのよ?」


「これで特に不満はない。望みは変わるものだ。新しい望みが出て来たときは、また考えるさ。学園ではおとなしく貴公子を演じていたんだ。今は王様らしい王様を演じておくさ、王妃様」

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