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第78話 結婚式だけでは終わらない。物語は続く。

そして、私はその後まもなく、王宮付属の礼拝堂で、王族や自分の親族に囲まれ、借り物のウェディングドレスとティアラ、ベールで結婚した。


ウェディングドレスやそのほかの衣装は、殿下の母上のもので、少し形を直しただけだった。

しかし、さすがイビス王家からのものだけあって、厚絹に地模様の白の衣装は驚くほど上質できれいだった。これだけのものを準備することは出来ないだろう。ティアラも伯爵家などが準備できるようなものではなかった。それはダイヤモンドと真珠で作られたもので、見ているだけで心が震えてくるようだった。

しかし圧巻だったのはベールで、薄地の白絹だったが、全面に刺繍が施され、縁には繊細なみごとなレースが付いていて、トレーンより長く引いていた。


母は泣いていた。姉もだ。父は緊張していたし、兄と兄嫁は事の次第にびっくり仰天していた。まさか自分の妹が、こんな大層な結婚式を挙げるとは思っていなかっただろう。


王妃は上機嫌で、幼い王女が裾を持つと言う程の好意の示しようだった。


公爵夫人は自分のドレスが伯爵家の娘ごときに使われるのが不満で、公爵はソフィア様をこの晴れの式に出席させられないことが不満だった。


「気にするな。母は関係ない」


ルイ殿下はささやいた。


ゆらゆらとろうそくの灯が揺らめき、豪華な僧衣に身を包んだ白いヒゲの大司教が、荘厳な祭壇の前で結婚の誓いを誓わせて式は終わった。まるで、夢の中の一幕のようだった。







新婚旅行には、ベルビューへ行った。


「君になぞり返して欲しいんだ。ベルビューにいい思い出はないから」


何のことだかわからなかったが、ルイが指を絡ませて真剣に言うので私はついて行くことにした。



一番豪華なホテルの続き部屋が用意されていて、支配人自らが御用をうかがいに来ていた。


「おしのびなので話を広めないように」


そう。王族の誰かが滞在中と言うことはホテルにとっては宣伝になるのだ。


「うるさいことがないように注意したよ。さあ、フロレンス、この前買い損ねた宝石を見に行こう。今度は拒否らせないよ。夫が妻に買うのだからね?」


例の宝石屋には無理矢理連行されて、例の碧い石の宝石を買わされた。そのほかにも何点か買いこんだ。


「これほどまでにお美しい奥様なればこそですね。本当に宝石がよくお似合いです」


宝石屋の店員が感心したように手放しでほめると、ルイはダイヤの首飾りの掛かった首元を熱心に見つめながら言った。


「いいね。宝石類は公爵邸の方に大部分を置いてきてしまったから、不自由だ。いいものがあれば見せてもらうよ」


それを聞いた宝石店の店員は、さらに口を極めて褒め称えたが、そりゃそうだろう。

支払が父じゃなくてよかった。

破産しそうだ。


「本当に美しい」


そして、毎晩着飾って、ベルビューにいくつかある高級ホテルのサロンへ、今回は全部出向いた。


話をしたのもコルドー卿とリーン夫人だけなどと言うことはなかった。


彼はかなりの人たちと実は知り合いだったらしく、今度の旅行では覚えきれないほどの人と会った。

ハンナに無理矢理記憶させられた系図が役立った。



「おや!」


コルドー卿が、ある晩彼を見つけた。リーン夫人は一緒ではなかった。


「これは、これは! この前の令嬢かな? 雰囲気がだいぶ違っているけれど」


私は新たに仕立てたドレスを着ていた。この前の乙女らしいかわいらしいドレスではなくて、公爵夫人にふさわしい圧倒的に高価な、宝石などがきらめくスタイルで夜会に参加していた。

私は細いけれども背があって目立ってしまう。その上高い鼻と大きな目のせいで、ものすごくゴージャズ路線が似合うのだ。


大抵の人物は三度見する。私のほかに殿下のことも、見てしまうからだ。



「もちろん同じ人ですよ」


ルイの答えを聞くと、コルドー卿は私には聞こえないように小声で言った。


「王妃に押しつけられた政略結婚だと聞いたが、違うようだな! 彼女を連れ回していたのは、そのずっと前だ、私の記憶が正しければ」


「何ヶ月か前ですね」


ルイはあっさり肯定した。


「元々相思相愛じゃないか! 王妃様が嫌がらせで結婚を勧めたって聞いたけど、嫌がらせになってないな! 王妃が知ったら、どんな顔をするだろう!」


「知られない方がいいですね。王妃様には、ぜひ満足していて欲しいですからね。あなたさえ黙っていてくだされば」


「なんだって? おお! いいとも。黙っているとも。私に出来ることがあれば、何でも言ってくれ」


コルドー卿は、目を輝かせてワクワクしたように答えた。




宿泊しているホテルに戻ってから、私はルイに尋ねた。


「あれはどういう猿芝居?」


「猿芝居って、ひどいな! 相変わらずだな。エドワードより口が悪いな」


だが、彼は笑っていた。


「だって、あの方、絶対黙っていないでしょう?」


「もちろんだとも。彼は秘密を守れないタイプだからな。僕の、公爵家の秘密を知ったと思ったら全部しゃべって歩くだろう。何ヵ月かかるかわからないが、あの王妃の耳にも入るといいな。僕が本懐を遂げたと理解してもらえると、少しうれしいんだ」


「何を狙っているの?」


絶対、ロクでもないことだ。


「今、僕は報せを待っている」


私はビクッとした。


「陛下が亡くなったと言う報せだ。葬儀と即位の式には出るが、ベルビューに戻ってきたら、母の館に二人で暮らそう。母は干渉してこないだろう。僕たちがベルビューに永住すると言えば、みんな安心するだろう」


みんなとは誰を指すのか、私にはわかる気がした。ルイはうなずいた。


「そうだ。王妃を安心させるためだ。いずれにしろ、そう長いことじゃない。医者の見立てでは陛下は後一月も保たない。だからその前に急いで結婚して、新婚旅行と言う名目で国外のベルビューに避難したのだ」


「あなたは私に説明はすると言う条件で結婚しましたわよね? きっと誰かの死んだ理由になりたくないのね」


アリバイ作りだ。ルイは薄笑いを浮かべて頷いた。


「それだけじゃない。王太子が即位したあと、天下を取った王妃が何を仕出かすにしても、僕は無実だ。関係ない。新婚旅行中で、ベルビューで君にうつつを抜かしているんだ。大勢の人がその様子を見ている。毎晩、夜会に出ているからね」


「そう言うところで私を使わないでちょうだい」


「事実だ。王妃が何をするかに、僕は自分の国の安寧を賭けている。ほかの誰とも同じように」


「それでしょっちゅう手紙が来るのね?」


「もちろん友達から手紙が来る。新婚のお祝いの手紙だ。ごく自然なことだ」


私はこの時点であきらめた。着々と水面下で何事かが企まれている。


ルイは思うとおりに物事を進めないではいられないのだ。


まるで、何かの種類の爬虫類のようだった。死んだように見せかけて辛抱強くチャンスを待つ。起死回生のチャンスを。


何もかも、すべて自分の思うとおりに動かすつもりなのだ。

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