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第70話 ルイ殿下をたぶらかす悪女

ルイ殿下が私に楽し気に説明してくれた。


「君と結婚することで、王妃に、僕が王位に関心がないことを信じてもらえたよ」


「ルイ殿下!」


私は叫んだ。


「あなたが王位を継ぐのに、私が邪魔になるかもしれないなら……」


「違うよ」


ルイ殿下は私の頬に指で触れながら言った。


「僕は王位に関心はない。でも、誰も信じてくれない。王になる心配がある限り、王妃派から僕は命を狙われるだろう。君は僕の命を守る妻になるんだ」


「え?」


意味がわからない。


「臣下の娘の君と結婚すれば王位継承は考えられない。王妃は安心する」


私との結婚は、ルイ殿下の地位を引き下げ、王位継承権を失わせるとでも?


今度は、私の髪をなでながら彼は言葉をつづけた。


「王座に何の魅力があると言うのだ。ここへ連れて来られた時から、ずっとそう思っていた」


ルイは王太子が死んだ五年前に、ベルビューからここへ来た。


「人から期待された通りの貴公子を演じすぎてしまった。僕も子供だったし、そこまで考えていなかったからね。それが、こんなことになるだなんて思ってなかった。好きに生きられない。王妃は僕を疑っている。毒殺でもされかねない。もっとも彼女の一族は力が弱いからね。何も仕掛けてこないかもしれないな。だが、王家の姫君ではない、自国の格下の貴族の令嬢と結婚すれば、王位など望めないから王妃は安心する」


「それでいいのですか? あなたは?」


ルイは微笑んだ。


「それが望みだ」


彼が顎を引き上げてキスした。何回目のキスかしら。そのたびに何も考えられなくなってしまう。


「でも、今度は別の心配が始まってしまってね」


ルイは微笑みながら続けた。


「僕を王位につけたい勢力と言うものも一定存在する」


それはわかる。


「その一派にとって、僕をたぶらかす君は邪魔者だ。悪女だ」


私はびっくり仰天した。


「君は色気で僕を誘惑したのだ」


「してませんけど」


「だれもそんな言い訳は聞かない」


イヤー。ちょっと止めて。


「殿下、私……」


「体を使って誘惑したとか……」


してません、してません、そんなこと。


「エクスター公子をドロドロにしたとか」


ドロドロになったのは、勝手に自分でなったんじゃありませんか。


「学園では目撃者がたくさんいる。違法な媚薬を用いたとか」


「媚薬が欲しいっておっしゃったのは、ご自分でしょう!」


「そんなわけで、悪女の君は他家には嫁にいけない。フィッツジェラルド家なんか夢のまた夢だ……まあ、それは冗談として」


「冗談なんですか?」


涙目で私は殿下に聞いた。ひどい。ひどすぎる。


「いや、ほんとに一部ではそんな噂は流れているらしい。それより、連中にとっての問題は僕が本気で君と結婚するつもりだって点なんだ。ウッドハウス家では心配なので、公爵家の本邸に移ってもらう」


「え?」


「ウッドハウス家より、こちらの方が警備は厳重だ。結婚できないよう、花嫁を拉致されたり傷物にされたりしては、僕が悲しむ」


真面目な話なのか、私は疑った。


「本気だとも」


彼は優しく言った。


「だから家には帰さない。学園も当分行ってはダメだ。本来は母に頼むべきだが、母はあの通りだから、ハンナを頼んだ。彼女は長らくイビス王家に仕えてきた。王家の人間を護るのに彼女はうってつけだ」


*************


運命が変わってしまった。


私の部屋は公爵家の本城の二階の一室と定められた。


「伯爵家から侍女をこちらによこしてもらう方がよろしいでしょう。知った顔の方が安心できますし、新しい侍女などは付け入られるだけです」


アリスが衣装や当面必要な下着などと一緒にやって来た。


ハンナは厳しい目つきで彼女を眺めた。アリスは震え上がっていた。


「まあよろしいでしょう。お身の回りの世話は任せましょう。ここは女手が少ないので」


聞くと殿下は議会にも王妃の元にも足しげく通っているらしかった。


「ルイ殿下はお小さいころから、ぎすぎすした宮廷の生活がお嫌いでした。それはご両親の影響もあったと思うのですが。でも、坊ちゃまは、ご両親と違って、一本芯が通っていらっしゃいます」


ハンナがたまに情報を教えてくれた。


「結婚は早まるかもしれません。ウッドハウス家も了承されましたし」


私は必要な礼儀作法や、古風な刺繍や、一族の歴史を勉強したり、楽器の練習やダンスの練習をさせられた。


「ピアノが弾けるのは結構なことです。あまりお上手とは言えませんが。ダンスはどんなに練習してもし過ぎると言うことはないでしょう。食事の作法は監督いたします。一族の歴史の覚えは大変によろしい。国内の貴族の親戚関係、縁戚関係はすべて記憶されるといいでしょう」


どれだけの量になる事やら。


「王妃様も完全に殿下を信じられるようになったようです。これで一応は結婚までの道筋が付きました」


「ハンナ……ハンナ様」


「ハンナとお呼びくださいませ」


「本当にこれでいいのかしら。公爵閣下や公爵夫人は納得されていないのではないでしょうか」


厳めしい正食堂でハンナは口元をほころばせた。


「公爵閣下は何もおっしゃらないでしょう。公爵夫人は反対でしょう。息子の殿下に王位について欲しいのだと思います。そのためにも、もっと名のある王家の一族から嫁を迎え入れたいでしょう」


私はうなだれた。


「でも、おぼっちゃまがご自分で選び取られた道なのです。あなたを(めと)り、王位につかない。それが望みだと。だからハンナは付いてまいります。あなた様も、殿下を愛しておられるなら、殿下に従っていくしかございませんでしょう。すでにあなたは坊ちゃまの手駒の一つになっておいでですから」


手駒か。


「もう殿下はあなたなしの生活は考えられないのでしょう。あなただけは守りたいのだと思います」


手駒じゃないのか……

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