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第59話 これは二股と言うのでは

「エドワード、お前はなあ!」


翌日の朝早く、殿下は自邸にエドワードを呼びつけた。


「お前のとこのフィリップはとんでもない肉食野郎だ」


「おや、何かあったんですか?」


「お前は見てなかったろうけど、えぐい野郎だ。えぐすぎる」


「あ、そうそう。殿下、そのフィリップから伝言があります」


「何? 伝言? まさか婚約者のすげ替えを提案してくるとかじゃないだろうなあ」


エドワードは笑い出さないように、真面目な顔を作るのに必死だった。ルイ殿下が本気で怒っている。めずらしい。


「違います。殿下の力不足について、ご指摘がありました」


「なんだとう?」


「私もいい提案だと思いました」


「なんだ、お前ら、フィッツジェラルドの連中はそろいもそろって、人の邪魔しやがって。フィリップはなあ、夕べ、フロレンスを抱きしめて踊って、しかも暗闇に連れ込んで、キスしてやがった。手が早すぎる」


「大人ですからねえ」


「アホかー。絶対に安全だって言ってたじゃないか。全然安全じゃない」


「ええと、殿下、フィリップからの提案を聞いてくださいよ。殿下がベタベタにキスしたらどうかと言われました」


「え?」


「なんでも、どこかで殿下は彼女にキスしたことがあるそうで……」


途端に殿下が具合悪そうに黙った。横を向いてキスくらいいいじゃないかと言いだした。


「ええ、キスくらい、いいんじゃないですか? もっとベタベタされたらいいでしょうとの見立てです」


「それが、あの畜生の見立てか! てか、なんでそんなことを知ってんだ。フロレンスから聞き出したのか。死ねばいいのに、あの野郎」


「キスなんかしてないって言ってましたよ」


ルイ殿下はぐるりと振り返った。


「僕は見てたんだ。証人は僕だ。隅っこの方へ誘いこんで……」


「ルイ殿下に制裁されるのは嫌だから、真似だけしてみたそうです。彼女、あなたに怒られるって、ビクビクしてたそうです。だけど、反応は悪くなかったから、殿下が遠慮し過ぎじゃないかって言ってましたよ」


「反応が悪くなかった……て……」


「もっとビシバシ迫った方がいいらしいですよ。よかったですね、結論が出て。私は知り合いだからそんな真似できないし、フィリップなら知らない人間だし、殿下に負けず劣らずのイケメンだから反応を計れますからね。殿下、がんばって彼女を大人にしてあげてくださいね」



*******************


私は本当に困った。


フィリップ様はたぶん面白がって私を誘いに来ている。


あの仮面舞踏会のことを殿下にばらすと脅してくるのだ。


仕方なく目立たないカフェだとか、馬車で遠乗りと称して人のいない景色のいいところなどを一緒に歩いたりした。



一方で、学園では殿下に困らされていた。


ルイ殿下は、いつも同様、昼食の時も授業後もやってくる。


しかし、最近、ちょっと妙なのだ。

何か言いかけて黙ってみたり、私の顔をじろじろ見てため息をついたりしている。


その都度、私はドキドキしている。ときめいているわけではなくて、ビビっているのだ。

これは二股と言うのだろうか、もしかして。


絶対バレていませんよとフィリップ様が保証するので、バレていない筈なのだが、気のせいか殿下の目がなんとなく恨みがましい色を浮かべている気がする。この間なんて、「放し飼いをしていたらとんでもないことに……」などと言っていた。心当たりがありすぎるので、確認したかったが怖くてできなかった。


どうもフィリップ様は、妹のアンドレア嬢のことをほんの子どもだと思っているらしかった。でも、それなら、アンドレア嬢と同い年の私のことはどう思っているのだろう。


ちょっと怖すぎて、両親にもフィリップ様のことは相談できなかった。

これ、他人から客観的に見ると、完全に二股でしょ?


紹介してきたエドワード様に、どういうつもりなのか聞きたいくらいだったが、エドワード様と連絡を取る方法がないことに今更ながら気が付いた。向こうは学園に来さえすれば、好きな時に私に会えるのだから不公平だ。


「フロウ、今度、僕の家に来ないか?」


ルイ殿下が招待してきた。


「母と一緒に伺いましょうか?」


なんとなく一人で行くのは外聞が悪そうだったので、提案してみた。だって、公爵家の別邸は公爵とソフィア様がお二人で住んでいるけど、本邸の方は、ルイ殿下が一人住まいをしているのだ。


「前も招待したのに。ノリが悪い。ほかの男とだったら行くのかな?」


なんだか引きつってしまった。心臓に悪い。悪いことをしているのかしら。誰か助けて。



フィリップ様は、本当に顔立ちがいい。殿下もきれいな顔をしているけれど、それとはまた違う。そして同じようになにか考えていることがわからない。逆にいつも私の表情は読まれているような気がする。


「脅すだなんて人聞きの悪い。殿下に伝えて構わないじゃないですか。多少怒るのかもしれませんが、そんなに真剣に怒る訳ないでしょう。一緒に出掛けているだけなんだし」


私がもう一緒に行かないと言いだすと、フィリップ様は、なぜと聞いてきた。


「でも、フィリップ様」


私は言った。


「あなたが、私を誘い出すわけがわかりませんわ」

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