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第47話 さまざまな説得

「世の中、粘り勝ちって言葉があるよね?」


ルイはしつこく言ってきた。


「もう、あきらめなって」


何を。何をあきらめろと言うのか。


「僕の両親も君の両親もみんな認めてくれてるよ。アンドレア嬢も、マデリーン嬢も、ほかの女を大好きな男なんか要らないって言ってるよ。ダンもサムも応援してくれてる」


ダンとサムとは?


「誰のこと?」


「ダニエル・ハーバートとサミュエル・ブライトン。仲良くなったんだ。ダンの剣の腕はまあまあだよね。サムはお菓子が作れるんだ」


それは初耳だった。


「ケガが治ったら、作ってくれるって。それ持って、ピクニックに行こう!」


「三人で? 四人で?」


サムと一緒なら三人だし、ダンも行くなら四人だろう。


「なに言ってるんだよ。二人で行くに決まってるじゃない。デート用だって言ったら、サムは腕によりをかけて作ってくれるって言ってたよ」


なんか腐ってる。


サミュエルのケガは打ちのめしたからではなく、


「彼、結構ビビりなんだよね。何もしない先から転んでしまって」


腕を折ったと。


「心配でね。お見舞いに何回か行ったよ。そのせいで君との時間が取れなくなっちゃって、すごく残念だったけど。でも、そう言ったら、サムからお菓子を作ってくれるって申し出があって」


そんなお見舞いがあるか。まるで恐喝のようではないか。


あれからダンとサムからは避けられている。


でも、二人はエクスター殿下と知り合いになったらしく、ルイは「友達が増えるのはいいことだよね」って、いつかの私みたいなことを言い出した。

でも、私は、友達というより、適切な言葉を知っているような気がして仕方がなかった。それは、子分とかそんな言葉なんだけど。


この分では、私の方は、男子生徒とは誰とも知り合いになれない気がする。

誰かさんが走って行って、余計な真似をするからだ。



私に選択の余地はないのか。(ないことは知っているけど)



入学早々、訳も分からず見染められ、大掛かりな図書館詐欺に巻き込まれ、さらにはどうしてだかベルビューまで連行された。


ベルビューは捨て身の同情を買う作戦だったような気がしてならない。うっかり捨てられた子犬みたいに思ってしまった。


ルイの言うことは、嘘も言ってないが、本当でもないような……。


ジュディスにもエドワードにも言葉を尽くしてお勧めされ、姉と母はもちろん大喜びで結婚を疑いもしない。そして、父でさえすっかり篭絡(ろうらく)されているのだ。


一度、仕度に手間取って、彼を客間で長いこと待たせてしまったことがある。

母が悪いのだ。着ていくドレスについていろいろと余計な提案をするからだ。

たまたま自宅にいた父が、その間、殿下の相手を務めることになってしまって、その隙に彼に言いくるめられたらしい。


「確かにパワーバランスを考えると、うちあたりが一番いいのかもしれない」


何を言っているんだ、父。



そして、結構手ごわい伏兵に、ウッドハウス家一族郎党がいた。


ウッドハウス家の親族は多い。祖父と高祖父が子だくさんだったからだ。

彼らは、それぞれ結婚し王都に住んでいたり、ジュディスの家みたいに地方に住んでいたりするが、全員がエクスター公爵家との結婚に気を良くしていた。


父の従兄弟の誰かが、この前わざわざ我が家を訪ねてきて、エクスター公爵家との縁談について長々と話して帰った。なんでも、王都のどこかでルイ殿下に会ったらしい。


「羊毛の輸出に興味があると言うお話でね。お若いのに租税についてもお詳しくて感激しましたよ! 殿下は当家の租税については考慮の余地があるとまで言ってくださって。妻の実家の親戚の問題ならって」


誰が妻だ。誰が。

しかも租税免除って、嘘つくな。


エクスター殿下を締め上げに行くと、彼はいかにも嬉しそうに言った。


「君の方から来てくれるだなんて!」


そんな話をしてんじゃない。租税なんか、エクスター家がかかわっていないことを私はよく知っている。


「大丈夫だよ。君の一族なら、君が訂正して歩いてくれるから、言いたい放題だよ」


涼しい顔をして抜かしやがった。


「何言っているの! 私よりあなたを信じるに決まっているじゃない!」


すると、いつもは冷たいくらいの整った顔立ちに、とろけるような微笑みを浮かべて、ルイは言うのだ。


「僕の方を信じてくれるのか。それは良かった。きっとみんなが君に結婚を勧めてくれると思うんだ。利権って強いよね」




エクスター公爵には何回かお目にかかったが、公爵はことのほか私の顔がお気に召したらしい。


「立派な顔じゃな!」


あのー、それ、女性の顔を誉める言葉じゃないと思うんですけど。


「わしは色気満開より厳しいくらいの顔が好きじゃ。それにルイが気に入ったなら、わしはそれでよいと思うぞ!」


ルイの母上の妖艶な顔が脳裏をよぎった。




「僕は気に入った。君の顔も、根性も、成績も」


ルイは公爵家からの帰りの馬車の中で詰め寄った。


「君は何が気に入らないの? どうして、もっとベタベタしてくれないの? 君の姉上に聞いたら、ベタつき方は妹に伝授したって言ってたのに」


あー、あの手紙のことか。


「それになんでもっと好きだって言ってくれないの? ジルのことは何度も好きだって言ってくれたのに」


「好きは好きよ。でも……」


「でも、なに?」


ジルは、別に怖くなかった。でも、ルイは怖い。ちょっと怖い。最近は特に。好きだとか言ったら、なんかヤバくないか。


ルイが勝手に険悪になった。


「誰なら、いいって言うの!」


私は考えた。


「……ジル……かな?」


ルイは息をつめた。

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