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第46話 エクスター殿下による説得

帰ってからと言うもの、エクスター殿下は毎日、私の家、ウッドハウス伯爵邸へやって来た。


「あのう、どうして、当家へ毎日来られるのですか?」


彼は真面目くさって、こう答えた。


「君がそう言ったろう。僕が本気で君を好きだってことを、周りに理解してもらいたいと。で、まずは君のご両親から」


「理解していただきたい周りの方とは、お父様の公爵やご親戚とか他の貴族の皆様方とか、そう言う方々のことで……」


そう言った方々は、この家にはおりませんし、うちの両親は、もう十分知っておりますわ、などと言ってみたが、彼は無視した。


「それより、これを君に」


壮絶な色気で彼は花を手渡した。アウレジアの花だった。


「僕の目の色だ。受け取って欲しい」


何言ってるんだ、この色ボケ。私は少々ヤケ気味で花を受け取った。この前は、紅薔薇で、その前はスイトピーだった。その時のセリフは「愛の証だ」と「可憐な君へ」だった。花言葉なのかどうかよく知らない。多分、即席のセリフだろう。


アリスとジュディスはキャーと言い、後日この話を聞いたエドワードは開き直ってますなと論評した。


確かにルイ殿下はカッコいい。だけど、ここまでわざとらしいと、イヤミな気がする。


もらう側としては、そんな言葉は恥ずかしいのでやめて欲しい。


「今後は是非、人目につかないところでお願いします」


すると、彼は目を丸くしてみせた。


「本気なの?」


「もちろん」


「人目に立たない空き教室とか、図書館の隅っことか、僕の家の静かな客間とか」


「?」


「僕の家は今は僕しかいない。人目に立たない。そういうことなら歓迎だ。招待したい。さあ、馬車へ」


手をぐいっと引っ張られて、私は悲鳴を上げた。


「あ、人目についていただいて構いません! 全っ然、構いません!」






学校が始まると、出来るだけ目立つところで、彼は口説き出した。


大体、食堂が舞台に選ばれた。


取り巻きを連れてエクスター殿下は食堂へ現れ、私を見かけるとあっという間にそばに寄って隣に腰かけた。授業が終わると迎えにやってくる。


「やり過ぎでは? わざわざ目立つようにしてますよね?」


「君の希望を取り入れている」


嫌がらせじゃないだろうか。


「もう、後戻りが出来ないところまで追い詰める」


なんか怖いこと言い出した。


とてもめんどくさいので、彼の好きなようにさせていた。彼は、隣で自分が話したいことを好き放題にしゃべりまくっていたが、突然、黙り込む。


どうしたのかな?と思って、顔を上げて彼を見ると、誰だって勘違いのしようがない表情を浮かべて黙ってじっと私の目を見つめている。


これには参ってしまって、すっかりまごついて、そしてマズイことに真っ赤になってしまうのが止められなかった。


最初はエクスター殿下が食堂で腰を落ち着けるのを見かけると、私と公子の間に割り込んで座り、話に食い込んでいたアンドレア嬢やマデリーン嬢だったけれど、


「マデリーン嬢と違って、フロウは数学得意だよね?」


とか、


「あ、じゃあ今度、アンドレア嬢オススメのそのカフェに行ってみない、フロウ? 二人で」


とか、わりと情け容赦ない合いの手が返ってくるので、心折れて去って行った。


その手腕は認めよう。

なんだか、アンドレア嬢が気の毒になってきたし、マデリーン嬢には申し訳ない気分になったけれども。



巻き毛がかわいいサミュエル・ブライトンや騎士団長の息子で体育会系のダニエル・ハーバートは、同学年なので同じ授業を取ることが多かった。どういう訳か、学校の例のパーティ以来、話す機会が増えた。


しなくていいと言っているのに、ダニエルは私のカバンを持って教室移動してくれる。一度、エクスター殿下とすれ違ったことがあったが、なぜだかその時、彼はこちらをにらみつけてきた。


私は学習しない人間ではない。

ダニエルがどうしてカバンを持ってくれるのか、サミュエルがどうして私を見ると嬉しそうに話しかけて来るのか、理由はわかっていた。でも、止められるわけじゃない。


表向き、友達が増えるのは良いことだと言うしかなかったが、そのうちエクスター殿下が脳筋ハーバートの家庭教師を買ってでたと言う噂を耳にした。


「確か学年一位は自分じゃないと言っていたはずだけど……」


だが、よく考えてみると、学費免除の規定は二十位まで。ということは、平民の特待生は二十人しかいないはず。ルイは自分で大体二十番目くらいと言っていたから、おそらく貴族の中ではトップだ。ダニエル・ハーバートの家庭教師くらいなら全然務まる。


ダニエルの一家は恐縮し、ルイは優雅な殿下スマイルで「ランチの時にそんな話になっただけですから」とか、とぼけているらしい。


ランチの時は、ルイはいつも私の隣にへばりついていた。ダニエルと一緒になったことはない筈だ。だって、私はダニエルとランチを一緒に取ったことなんか一度もないんだから。

でも、事実がどうであれ、殿下がお友達として出入りしたがったら、どこの家も絶対断らないだろう。二歳年下のお友達の家庭教師をタダでしてくれるなんて、なんて親切なんだ。


普段なら勉強ができないことをむしろ自慢しているダニエルだったが、山のような宿題を出したのがエクスター殿下とあっては、やらないわけにはいかず、地獄を見ていると聞いた。ひそかに別な家庭教師を雇って、殿下の宿題対策をしているらしい。

妹のフランチェスカが、勉強中の兄と殿下の部屋にお茶を持っていったと聞いたアンドレア嬢が食堂で彼女を締め上げているのを目撃したが、経緯が良く分からなかったので救出できなかった。それ以来ダニエルから声がかからなくなった。



サミュエル・ブライトンには剣の稽古をつけてやると言ったそうだ。


「剣の腕は平凡でね……」


確かそう言っていたはずだが、数日後、サミュエルはケガをしたとかで学校を休んでいた。


どうも成り行きがおかしいので、さすがに心配になって剣の先生に聞いてみた。


「剣の腕ですか? エクスター殿下はかなりの腕ですよ?」


「ご本人は平凡な腕しかないとおっしゃっていましたが?」


私が聞くと、意外そうな声で返事があった。


「平凡……。まあ、何をもって平凡と言うかですが……まあ、剣豪にはなれないでしょうけど、学年でトーナメントがあったら、誰が勝つかなあ? 殿下かなあ? ダニエル・ハーバートかなあ? 学生としてなら、大したものですよ。騎士になるつもりはないでしょうけど。惜しい腕ですが」


私はサミュエル・ブライトンの身の上が心配になってきた。


「ちなみにですね、サミュエル・ブライトンという、かわいらしい男の子が同学年にいるのですが……」


剣の先生は顔をしかめた。思い出せなかったらしい。


「ああ。剣の科目は、必須の初級だけ受けてた少年ですね?」


「ルイ殿下とどっちがお強いでしょう? もし、やり合ったらですが」


なんか自分で言ってて、むなしい質問だと思った。


「止めた方がいいでしょうね。ケガをすると思いますよ? まさか練習試合でもするって言うんですか? 話にならないでしょう、やめさせてください」


先生は割とマジだった。私は言葉を濁して逃げた。

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