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いつの間にか全方向から包囲されて、どうしても結婚にまで巻き込まれた気の毒な令嬢の物語  作者: buchi


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第40話 ジルとルイ

私はきれいなカフェの椅子の片隅にしょんぼりと腰かけ、出されたお菓子やお茶には手を付けずに、蛇に睨まれたカエルよろしくエドワードの向かいに座っていた。


「エクスター殿下にとって、なによりショックだったのが、あなたが殿下に向かって『いや』だと言ったこと」


「殿下はおモテになりますわ。私なんかものの数にも入っていません」


「違います。殿下が気にしているのはあなた一人だけ。あなたは頑固だな。私がこんなに説明しているのに」


「でも、ジルは、エクスター殿下として認めて欲しかったのだと思いますわ」


エドワードは腕組をしたまま、私の顔を見ていた。


「エクスター殿下として?とは?」


「そう。本の中のジルじゃなくて。頭脳も権力もあるエクスター殿下として。私はジルを好きだけれど、それはジルも知っているけれど、エクスター殿下は、きっとエクスター殿下として好きになって欲しいのではないかと」


「あー」


エドワードは視線を上にやった。


「なるほどねー。そうかもしないな。ルイも自分の気持ちをそこまで分析していなかったかもだな」


「そして、私はエクスター殿下を好きになれそうもない」


エドワード様は、ちょっと目つきが鋭くなって、私を見つめた。


「どうして、好きになれないなんて言うんです? 今のあなたの地位はどこの令嬢にとっても、喜んで有頂天になるような境遇なのですよ? あのエクスター殿下から声がかかっているのです。彼は公爵家の御曹司だ。若くて優秀で文句のつけようがない。あなたがどんな宝石やドレスを欲しがっても、彼なら応えられる。女性ならそう言ったことだって大事でしょう?」


有頂天になれる令嬢って、頭が弱いんじゃないだろうか。

私は貴族社会に詳しいわけではないが、エクスター殿下がお花畑に住んでいるわけじゃないってことは、殿下の態度から薄々感じていた。


「だって、エクスター殿下は前から怖かったのですもの。だから、近づかなかった。それなのに、本の中で親しくなったジルなんだって言って、いきなり親し気にするのですよ? 無理がありますわ。言うことも違うんですもの」


「はあ? 同じ人ですよ?」


「だって、エクスター殿下は平然と気に入らない先生なんか辞めさせるとか言うのですよ?」


「エクスター殿下じゃなくて、それはジルでしょう。あなたに対してだけですよ、そんなこと言うのは。エクスター殿下は、いい子を演じてますからね。絶対先生をクビにしろだなんて言いません。そんなこと、言おうものなら、その先生の首が下手すると物理で飛ぶことがわかってますからね」


「ジルは殺したいけど、無理だからって言いました」


「誰? その先生?」


エドワード様は逆に興味を持ってしまった。私は黙っていた。実はピンカートン教授のことだ。ジルも相当イラっとしたらしい。


「話が逸れましたけど、彼はこれまで女性に対して異常なくらい冷淡でした。学園ではモテてたようですが、やってくる女性のことは無視していました。みんないい子達だと私は思うのですけどね」


アンドレア嬢のことか。別にいい人だとは思わないけど。


「なのに突然その中であなたを選んだ。エクスター殿下は、自分の身分や立場をわきまえています。あなただって本の世界だけで生きていくわけにもいかないでしょう? いずれは結婚しなくてはならない。エクスター殿下と言う選択肢は全くないのですか?」


エドワード様は私を諭すように言った。大人の理屈だった。


「ですから、無理じゃないかと思うので」


「無責任な奴だな。やれそうなのに」


無責任て、どういう意味だろう。


「無責任?」


「いまさら、あのルイ殿下を無理だなんて……」


エドワード様はつぶやくように言ったが、声を大きくして続けた。


「やれそうですよね? あなた。公爵夫人でも。実は顔もそんなだし」


「この傲慢そうな顔のこと言っているんですか?」


「誰がそんなうまいこと言ったんですか? そう言われればそうかもしれないが。私は美人だって言いたかったんですけど」


エドワードは頬を崩してちょっと笑った。


「傲慢な顔は権力者の妻にうってつけですよね?」


やかましい。内心で私は毒づいた。


「成績もいいしね。いろいろ考えてるみたいだし、結局、あなたが覚悟を決めるかどうかなんですよね」


最後の方は独り言のようだった。


「それからですね、ルイが頑張らなくちゃいけないんですよね。結論出ました」


私はエドワードの顔を見た。

何言っているんだ。

何の結論も出ていない。


「じゃあ、帰りましょう」


なんて勝手な男なんだ。この前ハドソン夫人のところでドレスを作る時にカフェに寄ったが、その時もベアトリス嬢に会いたいからって、無理やり残りのお菓子を食べさせられた。


「今日はお茶だけ飲んでください。残りは包ませましょう」


もし、私が公爵夫人になったら不倶戴天の敵を作ったと思え。


「あ、それから、ほかに持ち帰りのマカロンとかタルトとか欲しかったら、なんでも言ってくださいね?」


え? 何買ってもいいの? ちょっと、いいやつかも。


「エクスター殿下から費用は預かって来てますんで」


そんな風に思った私が甘かった。


帰り際にエドワード様は言った。


「フロレンス嬢、ルイをなめない方がいいですよ」

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