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第34話 母来る

翌日にはダンスパーティ用の衣装が届いて、寮の私の部屋には、メアリとアリスの他、なんと母が座っていた。狭い。


「お母様! どうしてここへ?」


「娘の一大事ですもの。来るに決まってるじゃありませんか」


父め。黙っていられなかったんだな。


「すごく遠回しなお申し込みって言うから、何かと思ったのに、ずいぶん思い切ったあからさまなお申し込みじゃないの! オズワルドから聞き出すのに三日もかかったわ!」


私は渋い顔をした。三日しか保たなかったのか、父。


「学園内で、エクスター公子のお相手は誰なのかしらって噂になってるところを通りながら、実はフロレンスなのよーって、叫び出したい気分だったわ!」


なんて恐ろしいことを。よかった。まだ、しゃべっていないらしい。


「それにしても、お母様。どうして寮の中まで入って来れたのですか?」


「いやだわ、フロレンスったら。ダンスパーティーは、家族が見にきても構わないのよ?」


「それは明日でしょう。なぜ、今日、ここに入れたのですか?」


つまらないことを気にするのね?と母は肩をすくめたが教えてくれた。


「侍女のふりをしたのよ。明日のパーティーのための着付けで来ましたって、門番に言ったの」


嘘に決まっている。


どこからどう見ても、どこかの貴族の令夫人以外の何者にも見えない。

どこの門番もそんな言い訳には乗らなかっただろう。


「あと、ちょっと握らせただけよ」


逆に、これほどまでに侍女らしくなくて、あからさまに嘘で、どこかの令夫人に間違いなしだと、ダンスパーティーに出る娘が心配と言う点は事実だと認識されて入ってよし!になったのかもしれない。


とにかく私は諦めた。とりあえず部屋に閉じ込めておけば、悪さはしないだろう。


パーティーは夕方からだ。


午前中は成績優良者の表彰がある。ささやかな、本人が出席するだけの式だ。もちろん、家族が見に来てもよかったのだが、貴族たちや裕福な平民は表彰されるほどの成績を取れなかったし、特待生の平民の家族は貧乏で学園に来るだけのお金と暇がなかった。


だが、そんな式でも私は出たかった。自分で勝ち得た成績なのだもの。


「パーティーのお支度が大変だから、それは行かない方がいいわ、フロレンス」


そらきた。


私にとっては、ダンスパーティよりそっちの方が大事なのに。


だから、母が来ると話が面倒になるのだ。


散々ごねて、着脱が簡単な制服で出席することで許してもらったが、アリスが口を滑らせた。


「最高学年の第一位はエクスター殿下でしたよね? それを見に行かれるのでしょう? お嬢様」


母の目がピカリと光ったような気がした。


「まあ、そうだったの! フロレンス! わかったわ。それは、ぜひ行かないといけないわね! あなたってば、意外に抜け目がないのね! 他のご令嬢方の隙を突いて、出し抜くつもりなのね」


違います。

自分が表彰されるために行くのです。それに隙を突いてるわけじゃなくて、他のご令嬢方は参加資格がないから行けないだけです。でなきゃ会場は嬌声で満たされると思う。


だが、よく考えたら、私は、母にもアリスにもその話をしていなかった。自分の成績の話も、参加者が限られる話も。


「私が表彰されるために行くのですよ、成績が優秀だったので……」


母はあまり聞いていなかった。母は関心がない話題の場合、話を聞かない傾向がある。


話は逆戻りし、制服はしまい込まれ、私は二回、ドレスを着替えることになった。


「エクスター殿下とご一緒だなんて! これは、ぜひかわいい美人で行かなきゃね?」


「お母さま、私はかわいらしいタイプではありませんし、表彰式の会場は平民の特待生がほとんどです。派手な格好は浮くだけかと……」


心配になった私は口をはさんだ。ピンクのフリルとか、レース飾りとかゴテゴテ飾られたら、ジルが驚く。


「いやね。傲然たる美女だってことは知っているわよ。こっちの堂々とした真紅のドレスはどうかしら?」


お母さま、それも違うと思うのですが……


とりあえず、紺の地味な服を選んだ。


「パーティの時との差をはっきりさせたいので」


「なるほど! それもそうね。いい考えだと思うわ。ところで表彰会場はどこなの?」


「え?」


母、行く気なの?


「だって、試験の成績発表日なら家族は学校に入れるんでしょう? 表彰式を見るために」


私は呆然としたが、それはその通りだ。あんなに関心がなさそうで、まるで聞いていなかった風だったのに、都合のいいところだけは覚えているんだ。


「でも、よかったわ! エクスター殿下を近くでよく見たことがなかったのよ。とても楽しみだわ」


母はワクワクしている。ああ、それが目的か。なんだか悪い予感がした。

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