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第27話 ジル3

ジル……は好きだった。きっとジルはどこかの、そう、エドワードのような身分の貴族の息子だと思っていた。ちっとも偉そうじゃなかったし、話が面白かった。それだけで私はきっと実際に会ったら、いや、会う前から好きになっていた。

ジルがいない、その喪失感は大きかった。


「これを……」


ジルは豪奢な上着のポケットから、小さな包みを取り出してきた。


「君が言ってたろう? 好きな人からのプレゼントなら嬉しいかもって。ジルからのプレゼントだよ。開けて欲しい」


白ビロードの高そうな箱には、公爵家の紋章が金で押されていた。開けるよう促され、中を見ると、ジルのプレゼントは碧い石のイヤリングだった。


「付けて出て欲しい」


まだ、OKしていないのに。


「エドワード様は? どうなるの?」


「エドワードのことはよく知ってる。優秀なので、学生時代、僕の家庭教師をしてくれていた。貧乏だったからな」


「エドワードは私を彼の虫よけに使いたいと言っていたわ。本命の令嬢と結婚したいのだけれど、申し込む条件が整う前に、別な家から縁談を持ち込まれたので、時間稼ぎのためにダンスパートナーのふりをしてほしいと言っていたわ? でも、それも全部あなたが仕組んだ嘘の話なの?」


「いや、違うよ。仕組んだわけじゃない。エドワードはダリッジ家からの縁談を断る理由を探していたし、僕にとっても都合がよかった。だからエドワードをダンス相手に仕立て上げた」


私は呆気に取られた。そして、尋ねた。


「僕にとっても都合がいいですって? どう言う意味?」


「僕がダンスパートナーを頼んでも断られることはわかってた。君はエクスター公子という身分が嫌なんだ。アンドレア嬢や有象無象から嫌がらせを受けるからね。僕のことを知りもしなければ、知りたいとも思わない。でも、ほっとけば誰かが君と踊りたがるだろう」


「そうかしら?」


私は首をひねった。少し、変人の引き込もり……それが私だった。


「じゃあ、誰からも申し込みが来なかったと言うの?」


ジルはジロリと私を見た。


「いえ。何人か……でも、エドワードが言ったわ。伯爵家の財産や地位が目当ての人たちだから気にしないようにって」


「……エドワードには、そう言わせたのさ……」


ジルが小さな声で言った。


「エドワードにパートナーの代役を頼んだのは僕だ。ほかの男からの誘いを全部断らせるために」


「え?」


「僕の申し込みがOKされるまでの間の虫よけだよ」


「だって、エクスター殿下は私のダンスパートナーの名前を全然知らなかったみたいだったわ」


制服を止めて、食堂でエクスター殿下にダンスを申し込まれた時のことを思い出して、私は言った。目の前のエクスター殿下はちょっと気まずそうに笑った。


「だって、僕の誘いを断るのだもの。そうしなきゃいけなくなった。君は本当はパートナーなんか誰でも良かった。僕の差金だとばれたら、君はエドワードとの約束を守らなくなるでしょ? そうしたら、絶対誰かが君にダンスパートナーを頼みに行く。君は承諾する」


その通りだ。なんて正しい読みなんだ! だけど、あれは全部芝居だったの?!


エドワードのことを知っているのにわざわざ名前を聞いたり、エドワードを好きかどうかしつこく確認したり? 何の必要があったと言うの?


「好きな人がいたら困るなあって、思っただけさ。確認したかったんだ」


なにか背中が寒くなった。ジルは、好きな女の子を逃さないために準備を重ねていると書いていたが、それがこれか! 用意周到過ぎないか?


「それに、君がOKしてくれれば、エドワードの望みはかなう」


「どういうこと?」


「僕から父に頼んで、エクスター公爵がフィッツジェラルド侯爵にエドワードを推薦すればいいだろう。エクスター公爵家が彼の味方だとわかれば、その一言で彼はベアトリス嬢に手が届く」


エクスター公爵家の権力はすごい。ていうか、エドワード様の演技力も相当だ。

あんな話をまことしやかに私に語って。実はダンスパートナーなんかしなくたって、エクスター殿下の一言で、どうにかなった話だったんじゃないか。

だまされた。


「嘘じゃないよ。実際、ダリッジから申し込みを受けていたしね。少なくとも、そこの部分は嘘じゃない。だけど、そんなことより……」


エクスター殿下は私の顔をのぞき込んだ。


「ねえ、返事を聞いてないよ。パートナーになってくれない?」


そんな権力者とダンスを踊るだなんて。

それは怖い。ジルの違う側面を見てしまった。彼は、それまで、そんな素振りを全く見せなかったと言うのに。


「誰にも指一本触れさせない。だいじょうぶだ」


え? やっぱりアンドレア嬢たちが黙っていないってことなのかしら。

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