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第17話 調査

そしてこの二人は、おずおずとダンスのパートナーを申し込んでいるのだ。


「まあ、とても残念ですわ。もう少し早ければ! どなたからも全くお申込みが頂けなくて、友人にお願いしてなんとか相手を務めてくださる方にやっと承諾していただいたところですの」


とても気持ちよく断ることが出来た。先約ありと言うわけだ。


「その方のことをお好きなのですか?」


やや沈黙があって、それからダニエル君の方が確認してきた。


「まさか」


私は快活に、するっと本音を言ってしまった。しまった。こないだエクスター殿下相手に同じような失敗をしでかしたばかりなのに。


「いえ、もちろんありがたいことだと思っております。こんな私の相手をして下さるだなんて」


一生懸命フォローする。


「僕は真剣です。その方の名前は?」


誰の名前?


「ダンスのお相手のお名前ですよ? どこかでお知り合いだったのですか?」


「いえ。知り合いが紹介してくださったので、実はあまりよく存じ上げないのですが」


「今からでも、僕と知り合いになってみませんか? フロレンス嬢?」


え? なんかうまいな、この誘い方。ちょっと感心しかかったが、そう言う場面じゃない。


こんな威風堂々とした人相でもよろしいのでしょうか。美人らしいけど。


説得の結果、ダンスパートナーの変更は出来ないし、知り合いになる話も婉曲にお断りを入れることが出来た。パートナーが決まっているのに、ほかの男を試すのはおかしいだろう。素晴らしい理屈だ。



しかし、人でいっぱいの食堂内ではなく、程よく人のいない木陰の食事は、パートナー不足に頭を悩ませる男子生徒にとって、格好のチャレンジ場所らしく、私はこの手の襲撃を立て続けに受けた。


私は学習しない人間ではない。食堂の方が絶対マシだ。





「本当にダンスパートナーを先に決めておいてよかったわ。ジュディス、ありがとう。先約があるって言えば、全員、納得して帰ってくれるもん」


ジュディスに寮の個室で会った時、私は上機嫌でその話をした。


「嫌味で言っているの?」


ジュディスは暗い顔で私に向かって言った。


「え?」


私はあっけにとられた。


「もっといいお話がいっぱいあったのに、エドワード・ハーヴェストでダンスパートナーが決まったことよ。私のせいで」


とんでもない。ジュディスの言っている意味が分からない。学内では見かけたことがないが、ハーヴェスト様のおかげで私は面倒を回避できている。


エドワード・ハーヴェスト様! 素晴らしい方だ。ちょっと正体が知れないけど。


「それより、ジュディス、あの話、どうなった?」


私はエドワード・バーヴェスト様のもっと細かい履歴を教えて欲しいと頼んだのだ。ジュディスが具合悪そうに答えた。


「リチャードに聞いてみたの。でも、リチャードもハーヴェスト様のことはよく知らないって言うの」


「え? お友達じゃなかったの?」


「彼の知り合いではないと言うのよ。おかしな話だわ。リチャードは父上から頼まれたと言うの」


「財務卿自らの頼みなの?」


私はちょっと驚いてジュディスに聞いた。


どうして、学園のダンスパーティ、子どもの遊びに忙しい財務卿がかかわるのだろう?


「そうなの。リチャードは、父の財務卿の頼みだから、おかしな話ではないだろうと言うの。見た通り、エドワード・ハーヴェスト様は愛想のよい礼儀正しい方で、どう見ても貴族の出身だわ」


それは間違いない。

私は、愛想がよくて目元に笑いじわが刻まれたエドワード・ハーヴェスト様の姿を思い起こした。

癖のある黒髪は気の利いた格好にまとめられ、青い目は表情が豊かだった。着ている服は上質だったが、どこかきちんとしすぎていて学生が好むタイプの服ではなかった。何かが違っていた。


「私も気になって、調べたの。リチャードはお父様に詮索(せんさく)するなと言われたそうだけど、私が調べるのは構わないと思うの。だって、あなたにあのハーヴェスト様を紹介したのは私だし、伯爵家の人たちに恨まれたら困るもの」


ジュディスは幼馴染だし、父親同士は従兄弟でとても親しい。だが、娘の超・優良縁談(私へのエクスター殿下のダンスの申し込みのことだ)を、ジュディスが潰してしまったと言われるのは困るのだろう。


ジュディスが真剣な顔になった。


「エドワード・ハーヴェストと言う人は生徒にはいなかったの」


「え?」


私は驚いた。


「在学生の一覧は、図書館で見ることが出来るの。先生に教えてもらったの」


何てことだ。全然知らなかった。あんなに毎日図書館に通い詰めていたのに。


「そして、在校生の一覧の中にその名前はなかった。生徒じゃなかったのよ」


「では、ダンスの相手がいなくて困るなんて嘘だったのね?」


「そう言うことになるわね」


私たちは黙った。

エドワード・ハーヴェスト様は、何の必要があって、私のダンスパートナーなど務めるのだろう?

しかも財務卿まで引き入れて。


「あのダンスパーティは外部の参加ができたわよね?」


私はいろいろな可能性を考えながら、ジュディスに言った。


「婚約者がいる場合とかね。ほかのパートナーと踊るわけにはいかないので、婚約者を呼ぶことができるわ。踊らないで済ます場合が多いけど」


「だったら、ジュディス、それはまずいわ。だって、在学生でないなら、私は婚約者でもない外部の人と踊ることになるのよ?」


ジュディスはとても困った様子だった。


「ねえ、エドワード・ハーヴェスト様って、本名なのかしら?」


「そうだわ! ジュディス、これから図書館に行かない?」


「え? 何しに?」


「生徒の名簿があるのでしょう? 卒業生の名簿もあると思うわ。探してみましょうよ!」


ジュディスはあっけにとられた様子だったが、私には確信があった。


絶対、図書館に記録がある。私はジュディスを引っ張って、学舎の片隅に立つ図書館へ一緒に走り出した。

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