第14話 変人自慢
寮の自室に帰ったら、アリスが神妙な顔をして待っていた。
そして、手紙を渡された。
「あ……」
差出人の名前を読まなくても、家族からの手紙だと筆跡でわかった。
多分ジュディスが、エクスター殿下からダンスパートナーのお申し込みがあったと知らせたのだ。
姉からは叱咤激励だった。そこそこ長文だったが、要旨は下記の通りだ。
「チャンスよ、チャンス。私のころはルイ・エクスターは、まだ細っこい背も低いお子様だったのよ。女の子なんかどうでもよさそうだったわ。見た目、神経質そうでひ弱そうだったけど、あれでなかなか策士らしいわよ。あなたでどうにか出来るのかわからないけど、頑張んなさいよ? フィッツジェラルド侯爵令嬢なんか、メじゃないわ、あなたの方がずっと美人よ」
そのほか、ダンスパーティに赴くときの令嬢の作法から手練手管、胸の見せ方とか、ため息のつき方とか、細かいしぐさの指南がぎっちり書き込まれていた。おおむね読み飛ばした。不要な情報である。
母からは便せん5枚に細かい字でぎっしり公爵家に嫁ぐ場合の心得について書いてきた。
「……公爵家ともなれば、作法は一層厳しくなります。現エクスター公爵の母上は、隣国の王家の孫娘に当たられ、ルイ殿下の母上はイビス王家の出身です。礼儀作法にはおおらかだと言う噂ですが……」
ダンスパーティのお相手に誘われただけなのに、気が早すぎる。結婚後の注意事項なんか要らない。おおむね読み飛ばした。
父からは、簡潔にエクスター公家の現状が述べられていた。
「万一、王家に嫁ぐと言うなら、それ相応の覚悟が必要と思われる。エクスター公爵家には領地がなく、王家からの歳費で賄われているが、その額は莫大である。ご子息のエクスター公子は、チザム伯爵の爵位およびその領地を所有している。チザム伯領は東部に所在し、その面積はおよそ……」
父の話は有用と思われた。まあ、情報としては、である。ダンスパーティーの相手に誘われただけで結婚の申し込みを受けたわけではないので、読みとばした。ただ殿下は金持ちらしい。
誰がどんな情報をもたらしたのだろう。みんな、誤解している。
やっぱりジュディスだろうか。ジュディスは惜しがっていた。こんないいお話に乗らない令嬢なんかいないと、あの後も散々説教された。先にエドワード・ハーヴェスト様をどうにかしないといけないんだけど。
でも、エドワード・ハーヴェスト様がダンスパートナーを降りることをOKしても、私から殿下に申し込みし直さないとならない。その頃には、殿下にはお相手が決まっているんではないかな。そして、見苦しく売れ残ることになるくらいなら、今のままの方が平穏無事じゃなかろうか。
仕方がないので、全員に向かって同じ文面を書くことにした。
「そのような心配は不要でございます。エクスター殿下のお相手には、フィッツジェラルド侯爵令嬢が取り沙汰されております」
寮の部屋では、アリスが手紙の返事の検閲をしていた。
「お嬢様、ダンスパーティのお相手に誘われたのは、フィッツジェラルド侯爵令嬢ではなくて、お嬢様でございますよ?」
「断らざるを得なかったのよ。二度と誘われないわ」
アリスは拳を握りしめて悔しがった。
「エドワード・ハーヴェストさえいなければ!」
エドワード様、呼び捨て? そして、いなければって、エドワード・バーヴェスト様を抹殺する気?
「大事なダンスパートナーなんだから、変なマネしないでもらえる? 迷惑がかかってしまったら申し訳ないわ。それに次を探すのがより一層大変になると思うの」
ダンスパートナーを抹殺した令嬢なんて、どんな男だろうが寄ってこないと思う。それに私ときたら、それらしい顔だもん、訂正が効かないと思うわ。
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