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王子との出会い

一歩前に出る。少年は怯えたように一歩後ろに下がった。もう一歩足を踏み出す。少年も後ろへ下がった。何度かそれを繰り返せばついに少年は壁に背中をぶつけたので私と少年との距離は随分と縮まった。


少年の顔は強張っている。

なんでそんなに怯える必要があるの?私、笑っているわよね?


「ねぇ、あなた助けてもらったことにお礼の一つも言えないのかしら?」

「な、俺を助けるのは当然だろう!俺は王子だぞ!」

「知らないわよ。そんなもん」


吐き捨てる。相手が貴族だっていうのは分かってたことだもの。だから、なんだというのかしら?


「あなたは私達が助けなかったらあのままどこかへ連れて行かれたでしょうね。そこでどんな目に合うのか想像した?そうね、着ている服は売るために全部脱がされるわ。誘拐犯なんて理性がないものよ。少しでもイライラしたら腹いせにあなたを殴るかもしれないわ。ああ、あなたの顔は綺麗だから遊ばれるかもしれないわね」


最後のはまだ意味は分からないだろうし、内容も随分とソフトなものを言ったつもりなのに少年、いえ、王子は顔を真っ青にしてしまった。


それでも強がりなのだろう。王子は口をひらく。


「で、でも俺は大切だから傷つかずに守られるべきだって言われたんだ!」


貴族としてはご立派ね。もちろん私はそういう意味では失格だけれど。

でも、その理論の真意をこの王子は分かっていない。


「あなたが守られるのはあなたが皆を守る立場にあるからよ!あなたがいなければ自分たちが幸せになれない、この国はまわらない、この国が崩れるとそう言われる者に将来成るものだから守られるのよ!」


ふぅと一息ついてから今度は静かにいい放つ。


「守られるのは当然ではないわ。守りたいとそう思われる人になりなさい。必要とされなさい。守られた何倍も守りなさい。昔、私が言われた言葉よ」


私は生まれ持った美しさだけで守られていた。けれど圧倒的に攻撃の手の方が多くてそれだけでは足りなかった。そんなときに言われた言葉だ。


「分かんねぇよ。俺、どうすればいいんだよ」


根は素直なのね。ちゃんと私の言葉が届いてる。

途方にくれた様子で王子は自分の小さい手を見ていた。


私は今度はちゃんとニコッと笑った。


「とりあえず笑顔でありがとうと言えばいいんじゃないかしら?私はそれで十分嬉しいわ。笑顔が見たくて人は誰かを助けることもあるのよ」

「え?なんだよ、それ。さっきと言ってることがおかしくないか」

「ふふっ。さっきは貴族なんかの守られる立場にあるものの話よ。これは人間の話」


頭にはてなマークを浮かべている王子は先程までの偉そうな態度ではない。


あら、迎えがきたみたいね。


「それじゃあ、私はもう行くわ。さようなら」

「お、おい、待てよ」


追いかけてきそうな雰囲気なので、走って逃げる。


「ありがとうー!」


後ろから大きな声が聞こえた。振り返りはしないけどきっと笑っていることだろう。


元の市場に戻るとヒナが私を探していた。


「エミ様!探しましたよ。あんな無茶はもうしないで下さい!もう、二度と連れてきませんからね。大体エミ様は」


私はヒナの説教を遮ってこう言う。


「ヒナ、ありがとう」

「うぅー、そんな笑顔で言われたら何も言えないじゃないですか」 

「アハハ。それでヒナ、あいつらはどうしたの?」

「なんか国の人が来たので任せて来ちゃいました。エミ様、あの男の子は?」

「私も一緒だよ。迎えが来てたから面倒なことになる前に逃げてきちゃった」


ヒナは不思議そうに首を傾げた。


「それにしてもあの男の子は一体何者でしょうか?貴族で間違い無さそうですけど」

「王子らしいよ」

「……は」

「は?」


ヒナは随分とためてから叫んだ。



「はぁぁぁぁ!?なんでそんな人がこの村に!?えっ、それじゃあ、あの人達は王家の者?うわぁ、逃げるためにちょっと乱暴しちゃった」

「ヒナ、声が大きいよ」

「あ、すみません。ってなんでエミ様はそんなに冷静なのですか?」


冷静ではないのよね。王子は攻略対象の一人だもの。そして王子の乙女ゲームでの立場はメインヒーロー。王子ルートはレジーナの婚約者でありながらヒロインに心変わりして、ヒロインをいじめるレジーナに婚約破棄を言い渡していた。

レジーナが死刑にされたり国から追放されたり奴隷になったりというのはどれも王子の息がかかっているものだった。


でも、王子のキャラって堂々と自信満々に周りを従わせるそれなりに王子としての器がなっていたものだった気がするのよね。

あの偉そうな態度が堂々とした態度に繋がったのか、それともヒロイン修正がかかっていたのか。


ああ、でも攻略対象としてはいわゆる、俺様キャラだった。そう考えると確かにそうだった。

彼は間違いなくここ、ジェラルド王国の第一王子

エドワーズ・アレクサンダーだ。


「エミ様、帰りますよ」

「え、まだ全然見てないよ」

「あんなことあったのにまだ懲りないのですか?ほら、行きますよ」

「えぇーーー」




レジーナに家に帰ってから今日のことを伝えると王子のことはそっち抜けで私の心配でいっぱいいっぱいのようだった。

レジーナはもう少し自分のことにも興味を持った方がいいと思うけど今日は大人しく心配するレジーナに抱き締められていた。



北澤さんは前世で格闘技経験があるため普通に強いです。


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