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一人目の攻略者

北澤さん視点です

「ああ、本当に連れてきちゃった。どうしよう」

「そんなに心配しなくても大丈夫だって、ヒナ」 


素の口調ではなく、エミとしてのフラットなしゃべり方で隣で青ざめているヒナに話しかける。


私とヒナは市場に来ていた。純粋な好奇心からヒナに連れて来てもらったのだ。もちろん一筋縄ではいかず、稽古中に一回でもヒナに触れられたら私の勝ちというゲームで市場へ行く権利をもぎ取った。



「もし、家にばれたとしてもあいつらは興味がないと思うよ」

「しかしエミ様が誘拐されでもしたら」

「誘拐されると思う?」


くるっと一回転回ると使い回してすっかりぼろぼろになったワンピースが揺れる。顔の平凡さも相まって姿は村人そのものだ。唯一、肌と髪だけはちゃんとお風呂に入っているので綺麗だがそれも布で頭をおおってしまえば分からない。


ヒナはジィ-と私を眺めてため息をついた。


「……はぁ、私から離れないで下さいね」


納得してくれたみたいで何よりだわ。


さて、窓から見える景色からもなんとなく感じていたのだけど、ここは随分と田舎ね。

家は木と藁で出来たような質素なものが多いし、村人も痩せていて裕福とは言えない人達が多いわ。でも、作物はきちんと育ってるし市場は品数は少ないけど生活に必要そうなものはある程度揃っているように見えるのよね。



「ヒナ、物価はこの村は高いの?」

「……実は食料品が品薄で、少々お高いかと」

「来るまでの道のりの畑にはきちんと作物が実っていたけど?」

「そのほとんどは領主のもとへ徴税されるのです」

「つまり私達が食べてるっていうことか」

「エミ様はどうか気にしないで下さい」

「うん。ありがとう、ヒナ」


あいつらはぶくぶく肥えているし、最近はレジーナを訪ねに来た貴族達にご馳走をふるまっているからそれが原因ね。


「ねぇヒナ、この村の特産品は何かあるの?」

「実は化粧品が輸出されているのですが村では全く使われないので運搬費がかさんで対した利益が出ないのです」

「白粉?」


今まで前世のようなアイメイクやチークを塗っている人は見たことがない。

せいぜい白粉をはたいて唇に紅を指すぐらいだ。


「もちろんそれも作っていますが他にも色々あるみたいですよ。まるで画家が使うような様々な色のものがあって不思議なものです。舞を踊る方がつけるものですからエミ様は見たことがないと思いますけど」


勿体ないわね。女性の美に対する関心ほど強いものはないのだからきっと良い商売になるわ。そうね、まず前世のように大人なら誰でも化粧する世の中にして、って、え!?


「エミ様?どこに行くんですか!?裏路地は危険です!」


後ろからヒナの声が聞こえるけれど止まるわけにはいかない。 

確かに今、少年が男達に追いかけられていた。見間違いではないなら男達はナイフを持っていたわよね。


追いかけると行き止まりにぶつかった少年が追い詰められている。


後ろから追いかけてきたヒナも様子に気づいて顔つきが変わった。


「エミ様、ここは私が。どうかお戻り下さい」

「いくらヒナでも男の子を守りながら四人はきついでしょ。私が男の子をここから連れ出すからヒナは思う存分戦って」

「ちょっ、お待ちください。ああ、もう!」


タンっと地面を蹴ってまだこちらに気づいていない男達の間をぬい少年のもとへ駆けつける。


「なんだ!?このガキ!?」


私に気をとられて良いのかしら?


「おい、お前後ろ!」


一人がその場に派手な音を立てて倒れる。ヒナがおもいっきり蹴りをいれたのだ。さすがね。迷いがないわ。


っと、早くここから逃げないといけないわね。


「ついてきて!」


唖然としている少年の手をつかみ、もと来た道に走り出した。


「おい、逃がすな!」

 

ナイフを手に持ってはいるけど傷つけるつもりはないのかもう片方の手を私達に伸ばしてくるがお構い無しに突っ込む。   


手がもう少しで触れるというところでそいつは横に倒れていく。


「エミ様、後で説教ですからね!」

「ごめん、ヒナ!」  


私は少年の手を引いて走り続けた。ようやく裏路地から抜けたので足を止めた。


「ゼェゼェ、全く何なんだ、お前達は」


私達が来るまでにも走り続けていたのだろう少年は息も絶え絶えだった。


「大丈夫?待ってて、今水を持ってくるね」 

「あ、ああ。早くしてくれ」


少年はまるでそれが当然だというように言った。


は?何様のつもりかしら?

それなりに良いご身分のお坊っちゃまなのは間違いないだろう。おそらく追われていたのもその関係だろうし。

 

改めて少年の顔を見る。

金髪に碧色の瞳はこの世界では珍しくないのかもしれないけれどハッと目を見張るような美貌を持っている。あどけなく可愛らしい顔立ちも数年すれば男女共に魅了する美少年に成長するだろう。

何より身に付けているものがデザインや色こそ地味だが生地は上質なものだ。


ここで余計な騒ぎを起こすわけにはいかない。


「もっと早く強いやつが来てくれればこんなに走らないですんだのに」


は?何を言っているの?



頭のなかで何かがぶちっと切れた。







どこまでも主人公より主人公っぽい北澤さんです

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