悪役令嬢とは
今回はソフィア視点です。
もう、ホント魔物っていつ見ても気持ち悪い!
て言うかあのフード被った奴だれ!?
こんなキャラ、ゲーム内ではいなかったのに。
ブラックホールかのような暗闇から出てきた数体もの魔物をフードを被った謎の人物が次々と倒していってる。
もちろんヴィルフリートやジオルド、王宮魔術師も魔物と戦っているのけど、なにしろ城の中であり安易に魔術でぶっ飛ばすわけにはいかない。
騎士団は避難誘導の方を優先的に行っている。
そんな中でフードを被った人物は驚異的な身体能力で長くしなやかな剣一本で魔物の急所を確実についていく。
「っ!よし、最後!」
現れた魔物はついに最後一体となり、それも謎の人物に剣に貫かれて床に伏せた。
「よしゃあ!」
「怪我人いません!全員無事です」
え、ウソ!?確かゲーム内では死者が数人出るはずじゃん!
そのせいで落ち込んだ王子を慰めて王子の完全攻略になるはずなのにどうしてくれるのよ!
でも私にはすぐ犯人が分かった。
こんなゲームと違う展開に出来るのは一人しかいない。同じ転生者のレジーナね。
無駄なのに悪あがきしないでよね。
私がむくれたところで展開は変わらない。
とりあえずこのまま進むしかないか。
前を見据えれば、小さく、黒く角の生えた影。そいつが再び姿を現す。今度は机の上にあぐらをかいて座っていた。
『なんだと!?我が召喚した使い魔どもがこんなに早くやられるとは……。しょうがない。せめて聖女の末裔だけは排除して帰るか』
「させない!『光羅』」
何かまた不穏な魔力が一度遠くに保護されていたアレクに向かう。
それを止める。
私はまた一つだけ属性の力を増幅させる魔石を握りしめながら魔術を発動し、アレクの前に光の雨を降らした。
『ちっ、面倒くさい。だがこれぐらいの威力なら痛くもない』
「え!?なんで……?」
黒い影は首をブルブル振って煩しそうに舌打ちをする。しかし対した効果はなさそうであった。
ゲーム内では瀕死状態まで追い込むことが出来たのだ。
あ、ちょっと待った!
そもそもこの後って偶然居合わせたレジーナがショボい光属性魔術でとどめをさすんじゃなかった?
レジーナが私のこと邪魔する気ならゲーム通りに進めるはずがない。
え、じゃあこいつどうすんの?
魔王の仮の姿だからこのままじゃヤバイんじゃ……。
サァと頭から血の気が引いていく。
『今さら怖じけついたか。だがもう遅い。我に歯向かったのだから覚悟はあるのだろう?』
今度は私に魔力の塊が向いた。
いやいや、ないない!
ちょっ、誰でもいいから助けてよ!
辺りを見回す。
ジオルドは光属性魔術持ってないし。あ、王子は今さら慌ててポーション飲んでる。
間に合わないって!
『光槍』
ぎゅっと目をつぶった私は突然唱えられた光属性魔術におそるおそる目を開ける。
なんと一メートル以上はある大きな槍が影に突き刺さっていた。
槍は魔力で創られたものでバチバチと光を纏っている。
『くそっ、誰だ?……しょうがない。今日のところは勘弁してやろう』
あ、この台詞はゲームで聞いたな。
やっぱりレジーナがきたのか。でももうちょいショボい魔術でとどめをさしてなかったっけ?
これじゃあ私のさっきの魔術がかすんじゃう。
不満の気持ちを表しながら入り口の方に目を向けるとレジーナは確かにそこにいた。
でもレジーナはカイディンに守られるように彼の後ろにいる。
さらにその一歩前にいるはずのない人物がいた。ドレス姿のエミだ。
でもエミだって分かるのに数秒かかった。
多分、大きな原因は化粧なんだろうけど雰囲気も全然違う。
いつもはもうちょい周りに溶け込むような薄い気配なくせに今はなんか、オーラっていうものがある気がする。
それは後ろにいる公爵令嬢であり、絶世の美少女のレジーナ(私の方が可愛いはず……)にも劣らず人目をひく何かがあった。
それに手には何か魔方陣がかかれたハンカチが握られている。
エミは土属性しか持ってないから魔方陣を使ってさっきの『光槍』を発動したに違いない。
自分が持っている属性以外の魔術は魔方陣に描けないから誰かに描いてもらったはずだ。
でも例え描いてもらったとしても属性が違う魔方陣は使うのはとても難しくて出来るのはこの国では片手で数えるほどしかいないと聞いた。
どうしてそんな難しいことを所詮はモブのエミが出来るんだろう?
「あら、こんな小さな魔物に翻弄されていらっしゃったの?私の魔術で一発だったわね」
黒い影が溶けるように消えていき、それと同時に光の槍も空気に溶けていく。
それを眺めながらクスッと笑うエミの台詞はレジーナが言う台詞のはずのものだ。
「あのご令嬢はどちらの方ですの?」
「ほら、シハーク家の最年少男爵家になった例の子だよ」
「まぁ、私、シハーク家のお菓子が大好きですのよ」
「事業においては優秀なようだな。それと同等に魔術も優れているのか……」
王宮魔術師の中からエミを讃える声が聞こえる。
え、エミってそんな凄い人なの?
確かにいつも忙しそうだし、成績も魔術も学年一位だったけど所詮はゲームに出てないモブでしょ。
私は納得がいかない。
「エミ。どうしてここに?体調は大丈夫なのかい?それにさっきの魔術も……」
ジオルドがエミに問いかける。
ジオルドはずっと警戒してたからか言い方がやや鋭い。
だがエミは気にすることなく今まで私が見たことないような笑顔をジオルドに見せた。
「ええ。大丈夫ですわ。それよりもソフィアとパートナーになるなんて。ソフィアとジオルド先生では釣り合いませんわ。……私、それに今回のこの騒動もソフィアの仕業じゃないかと思いますの。ほら、平民だから皆さまの前で評価をあげたかったんじゃないかしら?」
「え、エミ?何を言ってるんだい?」
もたれ掛かるようにジオルドに近づくエミにジオルドが驚いたように目を見開く。
やっぱりそうだ!エミが悪役令嬢役にチェンジしたんだ!
本来の悪役令嬢であるレジーナがなんかの手違いで転生者だったからきっと修正が働いたのね!
だったら私はゲーム通りに進めばいいだけじゃない。
「そんな、私そんなことしてないです!」
誰かを犯人にしたがっている人たちに疑いの目を向けられ始めた時点で私は首を大きく横にふる。
そこからはゲーム通りにことが進んでいった。
まずは王子が私の見方をしてくれる。
「そうだ。エミ、どうしちゃったんだ?ソフィアにそんなこと出来るわけないだろう」
「私よりもソフィアの味方をするのですね」
エミは私を睨む。
「……許さない」
ボソッと呟いたのを私は確かに聞こえた。
「今はその話をしてる場合じゃないだろう。全員落ち着け!」
ジオルドの言葉に一度言い争いは終わり、私たちは魔物たちの襲撃であちこちが破壊された現状に向き合うことになった。
その後事情聴取を、されたので怪しくない範囲で答えたけどこれがすごく面倒くさかった。
ゲームみたいにいらないところはなくなっちゃえばいいのに。
フードを被った人についても聞かれたけどそれは私は本当に知らなかった。
いつの間にかいなくなってたし何だったんだろ?




