ドレスの染み
最後だけ三人称です。
デルラリア王国の一行が全員会場いりしたところで一度それぞれの国の代表者の挨拶が行われた。
ジェラルド王国の代表者は現、国王シルヴァリル、デルラリア王国代表者は第一王子であり、エリーゼの夫にあたる人だ。
両方お互いに親交を深めましょう、みたいな感じだ。
第一王子はお兄様より年上で30代ぐらいに見える。
雰囲気がやり手若手社長だ。
形式的な挨拶が終わり、乾杯を終えるといよいよ本格的な歓迎会の始まり。
まず対談の時間となる。
アレクの婚約者として、そして今日は全属性持ちとして「お互いの国のために尽力を尽くしますわ」とかなんとか言ってると一旦出し物に入った。
あ、カイディン。見ないと思ったらそうだ、彼は武芸を披露するんだった。
あら、リリアーネもいる。リリアーネがだした水の球を華麗なる動きでカイディンがさばいていった。
なかなかの迫力だ。拍手が巻き起こる。
途中目が合ったので手をふったらそこから勢いがました気がするのはなぜだろう?
カイディンは出番が終わるとアレクがカイディンの元に嬉しそうに駆け寄っていった。
私は集中して見ていたら喉が渇いてしまったので一旦、さっきから私の周りをウロウロしているウェイターが持っているグラスを一つもらう。
口に運び一口飲むとちょっと癖のある不思議な味わいのものだった。
多分葡萄のジュースとかだと思うんだけど何を混ぜているんだろう?
舌の上で液体をなめていると突然手から力が抜けた。
「あ、」
「きゃあ!」
大袈裟なまでの叫びが会場に響きあたる。
私は落としたグラスは不幸なことにソフィアのドレスにかかってしまった。
は!?なんで、こんなことが!?
今までグラスを落とすことなんてなかったのに。
急に手の力が抜けたのだ。
今は手を開いて閉じてを繰り返しても問題はない。
しかし落としてしてしまったものは今更どうしようもなかった。
葡萄で作られた液体がソフィアのドレスにじわじわと広がる。
まるで少しずつ侵略していくかのように……。
とりあえず謝らないと。
ソフィアがよく響く高い声で叫んでしまったせいで注目を集めてしまっている。
「申し訳ご」
「ご、ごめんなさい」
「え?」
謝ろうとした私の声を遮ってソフィアが平謝りしてきた。
涙目で上目遣いをしてくるその表情は見るものに庇護心を誘う、それ。
前の食堂の時とパターンが一緒なんだが!?
悪役令嬢じゃなくて自分が悪いんですって言いたいわけ!?
「私はレジーナ様のお兄様であるジオルド先生とパートナーだから怒らせてしまったんですよね」
案の定ソフィアはそんなことを言ってきた。
わお、私の予想ってば大正解。
予知の才能まであるのかしら?
いや、そんな才能あったら今頃こんなことになっていないわ。
魔術でそういうのないのかな?
せめてソフィア探知機でもあれば大分マシになる気がするんだけど……。
「まぁ、なんて醜いのかしら。美しいのは見た目だけね。嫉妬で人をいじめるなんて」
「あんな真っ黒な服を着て、いかにも性格悪そうじゃない。王子も厄介な女に捕まったものね」
コソコソ聞こえてくる婦人たちの声に、だから嫌だっていったのに!と心の中で叫ぶ。
さて、どうやって収拾をつけようか。
ソフィアのドレスを魔術で丸洗いでもする?
あ、意外といい案かも。
魔術を唱えようと口を開いた。
「レジーナ、ストップ!僕がやるから大丈夫だよ。それよりもレジーナ、手を見せて。……ほら、やっぱり手から血がでている。医務室に行っておいで」
少し離れた位置にいたお兄様だが騒ぎを聞いて駆けつけてきたようだ。
焦った顔で唱えかけた魔術を止められ、さっきグラスで切ってしまった手をとられる。
そこでようやく私も血がでていることに気が付いた。
でも、もう血は止まっているし、痛くもない。
「え、ああ、本当だ。でもこれぐらい大丈夫よ」
「いいから。全く、昔からレジーナはお転婆なんだから。先週もドアに自分の指はさんだばっかりでしょ」
「ちょ、お兄様!あれは寝ぼけて!」
それはつい最近のこと。まだ皆が寝ている早朝、目が覚めてしまって水でも飲もうと部屋から出るときに小指がドアに挟まったのだ。
あまりの痛さに叫んでしまい、家族全員起こしてしまったのは苦い思い出である。
お兄様とお父様にいたっては「身体強化」で私の元に駆けつけてきた。
「レジーナはこの前も……」
「ああもう、分かりました!医務室に行ってくるのでこれ以上は勘弁してください!」
「うん、いい子だね」
なんだろう、すごい恥ずかしい。
「レジーナ様の頬を赤らめている姿も可愛いな」
「クスクス、ジオルド様もレジーナ様の前ではいいお兄様ですのね」
家族の会話に生暖かい目が向けられる。
顔から火が出そうで逃げるように私はパタパタとその場から去った。
あ、アレクに何も言わないで来ちゃった。
まぁ、ちょっと騒ぎになっちゃってたし何があったかはどうせすぐ分かるでしょう。
どうせ医務室には来ないだろうな。
アレクはまだ挨拶しなきゃいけない人がいっぱいいるからそっちが優先だろう。
……もう止め、止め!
アレクのことなんてもう考えるだけ無駄、無駄!
向こうが謝らない限り許してなんてあげない。
私は別に悪くないもん。
むしゃくしゃしつつも医務室に向かっていると後ろから声をかけられた。
「すみません、シハーク・レジーナ様ですよね」
「え、ええ。そうでっ、ち、違います!」
肯定しそうになって慌てて否定する。
私はシハーク・レジーナではない。
なんでその名前で私を……。
頭がガンガンする。
さっきのドリンクもしかしてお酒だった?
でも一口しか飲んでないのに。
「ああ、やっと会えたね、僕の天使」
視界がぼやけ、薄れていく意識の中でそんな声を聞いた気がした。
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「あ、あのジオルド先生。ごめんなさい。ドレス汚してしまって」
ソフィアが戸惑いつつもジオルドにそう声をかける。
ジオルドは返事をすることもなく突然魔術を唱えた。
『|洗濯』
唱えられた直後、ソフィアの汚れてしまったドレスがふわりと舞い上がり水に覆われる。
「ひゃ!」
ソフィアは突然の魔術に驚いたように声をあげる。
ドレスが水を吸って重くなったのは一瞬。すぐに温風が水を蒸発させあっという間にドレスの汚れはとれ、元通りになった。
「すごい」
ポカンとした顔でそう呟くのはリリアーネ。
彼女はジオルドがレジーナに話かけはじめた時から事に気付き何かあったらすぐに動けるようにそばで待機していたのだ。
そんな彼女はお披露目で乾かす工程だけの魔術を披露している。
それはジオルドの父であるヴィルフリートが開発した魔術であり、難易度は高い混同魔術だ。
しかしジオルドが今使った魔術は乾かす工程だけの魔術と難易度が比較にならないだろう。
どれほどの繊細な魔力コントロールが必要なのか。
この場にいるのは魔力の高い上級貴族ばかりだ。
その価値はきちんと分かっている。
高難易度の魔術にざわめきが会場に広がった。
「もう、ジオルド先生。突然でびっくりしたじゃないですか!?」
ただ一人ソフィアだけがむくれている。
そんな彼女にジオルドは普段女性をたらしめている甘いマスクのままこう言った。
「今のわざとだよね?妹に手を出すつもりなら容赦しないから」
「え、あ、ごめんなさい」
ソフィアはひどく驚いた顔をしてそう返事をする他なかった。
レジーナが『洗濯』の魔術を使えばソフィア以外にも近くにいる人五人ぐらいは丸洗い出来ます。
ていうか対象を一人に絞ることが出来ません。
そんなわけでジオルドは慌てて止めました。




