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ヒナの腕前

廊下へ出ると北澤さんは無言で私の手を掴んだ。


「え、あの、怒ってますか?」

「さぁ」


北澤さんはそう言いながらも険しい顔で私を引っ張りながらどんどん進んでいく。


着いたのは私の部屋だった。


連れ込まれガチャンと扉が閉まったのを確認する北澤さんを目を白黒させてただ眺めていると頬をギュムと挟まれた。


「い、いしゃいです」 

「どうして私のことを持ち出したの?その前に貴方はブラッドリーから手を出される寸前だったんだからあそこは一旦引くべきでしょう?」


逃れられない視線は真っ直ぐ私へと向いている。

北澤さんから向けられたことのない視線にびくりと肩を思わず揺らしてしまった。


呆れと静かな苛立ち、それから焦燥、だろうか。


あ、え、もしかして、嫌われた?

交渉一つ満足に出来ない私に呆れてしまったんだろうか。


そっか、そう、だよね。私は多分北澤さんに言われたことの半分も出来て無かったし、呆れられても当然だ。


心なしか呼吸が浅くなっている気がする。

顔まで青白くなってたのかもしれない。

北澤さんが顔をしかめている。あ、何か言わなきゃ。これ以上嫌われたくない、のに。


ふわり。


いつか嗅いだいい臭いが鼻を掠める。北澤さんが抱きついているのだと理解するのに数秒かかった。

背中をゆっくりと撫でられ慈愛に満ちた優しい声が耳を満たす。


「大丈夫、大丈夫よ。貴方のことが心配でつい乱暴にしてしまったの。ごめんなさいね。怖かったでしょう。大の大人に攻められて、それから私に理不尽に怒られて」 

「き、嫌いになったのではないんですか?」

「なるわけないでしょう。つい、心配だっただけなの」


安心して力が抜けた。北澤さんに寄りかかる形になるが優しく受け止めてくれた。


「ねぇ、私が文字がかけることや一通りの礼儀作法が出来ることは内緒にしてね。ブラッドリーは私に優秀になってほしくないのよ。しつけ、と言う名の苛める正統性が無くなってしまうから私には無知でいてほしいのよ、彼らは」

「え?」


言われたことを考える前に北澤さんは私から離れていき、いつも通りの様子で話し始める。


「それにしてもヒナって強いのかしら。関わるようになったのは私はここ最近だけど剣なんて使えるように見えないわ」


私もそれは同感だ。ヒナはちょっとしたドジぐらいならよくあるし、ほのぼのした雰囲気も到底運動が出来るとは思えない。


だが、私達の疑問は一時間後には消えた。




シハーク家のテニスコートほどの広さの庭で男女が向かい合い木刀を構える。門番とヒナだ。

ヒナは普段のレトロのロング丈のメイド服ではなく男がきるような簡素なズボンにシャツという一応は動きやすそうな格好だが、防御力は低そうな軽装。


一方で男の方は鎧をつけているわけでないが日本の警察のようなチョッキを着ていて服もそこそこ防御力がありそうなデザインだ。


そもそも屈強そうな男と小柄な女との勝負は目に見えてる。


というか男物なのだろうその服は彼シャツ感がある。薄手なので胸も強調されエロい。


「馬鹿なこと考えてそうな顔ね。早く合図をしてあげなさい」


小声で北澤さんがいう。

ギクッとした私は慌てて開始の声かけをする。 


「よ、よーいはじめ!」

 

それは一瞬だった。私が瞬きをして目を開ければダンッという音とともに木刀が宙を舞い門番の男は剣を突きつけられていた。


辺りが静まり返り、宙を何回転かした木刀が地面に落ちる音がよく聞こえる。


何も言えない私達にお構いなしにヒナはへらりと笑った。


「えっと、こんな感じのことをやってもらいたいです」

「む、いたっ」


無理って即答しようとしたら北澤さんに足を踏まれた。そうだ、貴族の子女は無理という言葉を言ってはいけないのだった。


「すごかった~!実は私、本当にヒナが強いのか疑ってたの。ごめんね」


北澤さんは軽く拍手をする。


「いえいえ、お気にならさず。エミ様。それも私の武器ですから」

「おい、ヒナ、はやくどけ。いつまでもお嬢様達にこんな姿見せられねぇよ。くそっ、だからやだったのに。無理やり連れてきやがって」


押し倒されている門番は苦々しそうに言う。


ヒナは体をどけ、手を差し出して門番を起こすと二人はフランクに話し始めた。


「アハハ、ごめんね。でもパウロは前より強くなったんじゃない」

「開始一秒で決着つけたやつが何言ってんだよ。もういいか、まさか俺にもお嬢様達に剣を教えろって言うのか?」

「言わないよ。付き合ってくれてありがとう」

「へいへい」


なんか意外な一面だな。私に対してはメイドとして接してるからこんな風に友達と話すような姿は新鮮だ。


門番はこちらを一瞬見て何かを言いかけたけど口をつぐんでしまい、一礼して去っていった。

私も一礼をする。北澤さんもだ。



「あの、どうか何も挨拶が無かったことをお許し下さい。パウロ、彼は門番でお二人に接するための言葉遣いを知らないのです」


ヒナは先程とは違いかしこまった様子でお願いしてきた。


「気にしてないよ。それにしてもすごかったわ」

「ありがとうございます。レジーナ様」

「ねぇ、本当に私も訓練を受けていいの?」

「あまり、良くはないでしょう。旦那様はエミ様が優秀になることを懸念されています。双子で生まれてきてしまった分、お金が二倍にかかることを嫌がっているのです。下手に優秀さを見せれば回りから教育を受けさせないことを批判されますから。ですから旦那様はエミ様に無知でいてほしいのです。文字が書けることなどは言わない方がいいかと」

「うっ、ごめんなさい」


控えめなのは私に対する注意だからだろう。

あと、そういう理由だったんだ。なんか、さっき北澤さんが言っていたことと微妙に違う気がするけどヒナの説明の方が理解はしやすい。

それにしても私に対するあのバカみたいなお金のかけ方を止めれば良いのに。


一方で北澤さんは今の説明を受けて、納得のいかない顔をしている


「じゃあなんで私も動きやすい格好に着替えさせらてるの?」

「教えるからですよ。しかし、エミ様にはボロボロになるまで鍛えていただきたいのです。ボロボロの姿になればご主人様は何も言わないと思います。むしろもっとやるように言うかもしれません」


悲しそうにでも真っ直ぐにエミに向かってヒナは言った。エミはというとわりととんでもないことを言われたと思うがその表情は楽しそうだ。


「良い考えだね。私も強くなれるし名案だよ」

「ふふっ。ビシバシいきますよ」


なんだか意気投合している。ちょっと仲間外れの気分だ。


「ヒナ、私に対してももっと砕けた態度でも良いのよ?」

「え、そんなにエミ様に対して親しげだったでしょうか?申し訳ありません。直します」

「別にそのままでいいよ」

「ほら、そういうところよ」


私に話しかけるとなると急にヒナは言葉遣いが畏まる。これではいつになっても距離が縮まらない気がする。

ジーとヒナを見つめるとヒナは視線を忙しなく動かして目を合わせようとしない。


「その、決してエミ様を軽んじているわけではないのですがレジーナ様には恐れおおくて自然にそうなってしまうのかもしれません」


どんどん声が小さくなっていく。


「アハハ。レジーナ、私は前に同じ台詞を聞いたことあるけど」


珍しくというか初めてレベルで北澤さんがこんなに笑うのを見たかもしれない。

ヒナは私が北澤さんに抱いていたのと同じ感情を私にもっているそうだけど、北澤さんに比べて私は中身は大したことないのだから諦めない。


「ヒナ、その調子で思ってることをどんどんいってほしいの」

「あ、なるほど。はい、頑張ります」

「アハハ」


北澤さんはまだ笑っている。 

むーっ、何だというのか。プイッと顔を背けて話を変える。


「ヒナ、そろそろはじめないかしら?」

「そうですね。ではまずエミ様には腕立てをやっていただきたいです。レジーナ様は受け身の練習をしましょうか?」


その後の二時間、北澤さんはひたすら体力と筋力を鍛えるトレーニングをしていた。一方私はというと一時間ほどひたすら受け身でごろんと転がり、その後はボールを使った遊びのような反射神経を鍛えるものをやった。

 


そして私は久しぶりに体を動かした気持ちよさで気分よくお風呂へと向かい、北澤さんは生まれたての小鹿のような足取りで部屋へと向かった。



ヒナはエミに対して本当に厳しく指導していて新たな一面が見れた。



ちっちゃくて可愛いのに強い女の子っていいですよね

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