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完璧美少女と冴えない少女は乙女ゲームの世界へ~悪役令嬢とモブでした!~  作者: 柊らん
貴族院一年生~アレクサンダー編~
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魔術テスト

遅れてすみません!


今回は三人称です。

貴族院において主に騎士教育の授業で使われるグラウンドが今日は様子が違う。


ラインがあちらこちらに引かれ、的が設置されている。

本日は一年生の魔術テストが貴族院では行われているのだ。


イベントが少ない貴族院では大きな行事であり、体育祭の立ち位置として定着している魔術のテスト。


「次の測定まで時間あるよな?俺、あっちを見に行きたいんだが一緒に行かないか?」

「ああ。俺も気になる」


例年、良い結果を残す生徒には見物客が集まる。

しかし今年はその規模は半端ない。


自分の測定の順番待ちをしている生徒全員が二人の女子生徒の周りに集まる。

今から彼女たちが行おうとしているのは動く木の板にどんな魔術でもいいから攻撃を当てるというものだ。

的には『追風(テェィルウィンド)』の魔法陣が描かれている。


「このテスト今年もあるのね。嫌だわ」

「動く的に当てるなんて難しすぎるのよ。近年追加された項目だけど未だにパーフェクトなのはジオルド先生だけなのでしょう」

「ええ、いくらここまで好成績である彼女でもさすがに無理よ」


生徒は勝手な推測をたてる。

そもそも動く的に当てるという訓練を出来る機会はそうない。

だからこそ難易度が上がっている。


そんな高難易度のテストに次に行うのは噂の中心人物、グレッシェル・レジーナと貴族院で唯一平民であるソフィアだ。

まずはレジーナから。

レジーナは魔術で有名なグレッシェル家の令嬢であり、お披露目では大規模な魔術で人々を圧倒したことで知られている。


どんな繊細な魔術を見せてくれるのか、期待が集まる。

レジーナは期待に応えるかのように一度天使の微笑みと影で囁かれている笑顔を浮かべた。


「レジーナ様、可愛いすぎだろ」

「くっ、僕はソフィアさんを裏切るわけにはいかない!」

「なんだと、お前ソフィア派か!?レジーナさんは家柄も成績も文句のつけようがない完璧な令嬢だろ。何よりもあの美しさ、天使じゃないか」

「可愛さならソフィアさんも負けていないさ。それに平民なのに一生懸命頑張っている姿が応援したくなるんだ。それにレジーナ様はもう王子という婚約者がいるじゃないか」

「それを言うな!」


貴族院ではレジーナ派とソフィア派の二つの対立が出来ている。


レジーナは公爵令嬢として洗練された美しい動作と誰もが見惚れる容姿、教室で一人で佇む姿の神聖さから『天使』と呼ばれている。

一方ソフィアはその愛らしい見た目と誰にでも優しい性格、花をよく愛でている様子から『妖精』と呼ばれる。


友達がレジーナ派ではなくソフィア派だったら絶交もあり得るとか、あり得ないとか……。

レジーナが知ったら呆れて発狂しそうな内容だが幸い周りに教えてくれる人はいない。

ソフィアは当然、確信犯である。


「そこ、静かにしろ」


周りのざわめきを先生たちが諌め、静かになった頃、レジーナは魔術を発動した。


(ファイアー)


レジーナが発動したのは初級魔術もいいところだった。

ただ火をだすだけの魔術。

火属性を持っている者なら誰でも使える魔術だ。

魔術を習いたての子供がお遊びで発動するような簡単な、それ。


期待の眼差しを向けていた人たちは肩すかしをくらった。

落胆の声を漏らしたその時。


()()()()()


音もなく爆発がおきたのかと、思うほど大きな炎が……。


前の方にいた人が熱さで反射的に目をつぶった隙に的である木の板は消し炭になっていた。

レジーナは動いている範囲全てを燃やしたのだ。


「これでパーフェクトですか?」

「うん。もちろん」


他の先生は未だにポカンとしている中、ジオルドだけは笑顔で返事をする。


「ソフィアの分の的を用意してっと、はい、次はソフィアの番だよ」


ジオルドは箱の中から木の板を取り出し魔力を込め、ソフィアに声をかけた。

ソフィアの表情は硬い。

ゆっくりとレジーナと場所を交換する。

ソフィアは一呼吸すると魔術を唱えた。


風圧(エアプレス)火球(ファイアボール)


「あら、混合魔術なんて平民のくせに」

「みて、でも五つ中三つしか的に当たってないわ」


ソフィアが使ったのは二つの魔術名を唱えることで同時に使うことができる一種の混合魔術だった。

しかし的を「風圧(エアプレス)」で抑えきることが出来ずにパーフェクトではない。

平民でありながらピオニーのメンバーであり、王子にも気安く話しかけるソフィアを妬む者は少なからずいる。

その一部がパーフェクトではなかったソフィアを馬鹿にする言葉を浴びせたがソフィアに気にしている様子はない。

ソフィアのただ内面ではレジーナの憎み口のオンパレードがあるだけだ。


「今回は私の勝ちね」

「うう。負けちゃいました。でも次は勝ちますよ。私も全属性持ちなんですから」

「ええ。正々堂々とどっちが強力な全属性持ちか決めましょう」


そのスポーツマンシップとも言える二人の会話に歓声が沸いた。

もちろん二人とも心中はそんな爽やかなものではない。


そもそもどうしてレジーナとソフィアが対決をしているかというと、話は数時間前に遡る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

グラウンドに集められた生徒たちは重い空気をまとっていた。

原因は学院長の長話である。


一学年全員が集まる機会というのはそう多くない。

ここぞとばかりに普段は何をしているかも不明な学院長がやってきた。


「えー、本日の魔術テストは成績に反映されますが、目的としてまずは自らの実力を知りましょう。このテストは三年間行うものですから今よりも来年、再来年、成長できるよう今日のテストの結果をバネにし、」


天気の話や聞きたくもない学院長の近況報告に十分近く時間を費やしてようやく今日の話題に移った。


「学院長の話の長さは相変わらずですね。なんだか懐かしいなぁ」

「ジオルド先生、何をのんきなことをおっしゃっているんですか!?あまりの長さに待たされることに慣れていない生徒たちの中には怒り出す者が例年いるのをお忘れですか?」


教師の列の後ろの方ではコソコソと会話が行われていた。

魔術担当の新任教師と三年目の数学担当の男性教師である。


「いえ、覚えていますよ。その度に生徒代表で前にだされて挨拶させられましたし」

「ジオルド君が前にでると生徒の士気が上がるのよね。女子生徒が盛り上がれば男子生徒もやる気をだすもの。そういうわけで行ってきてちょうだい」


唐突に話に割り込んできたのはベテランの女性教師である。担当は令嬢教育だ。

彼女はジオルドと同じぐらいの年の子供がいるためにジオルドに色めかない貴重な女性だ。

ジオルドは学生時代はよく彼女に怒られたものである。

彼女はジオルドを顎でつかう強者だ。


「クリスティーヌ先生、あなたにお願い事されたら僕が断れるはずないじゃないですか」

「あら、私がかつて君の担任だったから?」

「僕だけではなく先生に逆らえる男はいませんよ」


ジオルドは楽しげに軽口をたたきつつ、了承した。

学院長のもとに足を進める。


「絶対僕はまね出来ないな……」

「しないでちょうだい」


残された二人の会話はジオルドが学院長を説得し、場所を奪ったことであがった黄色い声にかき消された。


「僕からはお知らせを二つお伝えします。一つ目はそれぞれ属性の数や違いはありますがそれらを考慮した上で今日の結果から最優秀賞の受賞者を一人決めます。受賞した生徒には一つの属性の潜在能力を上げる効果を持つ魔石が進呈されますので頑張ってください」


例年よりも豪華な景品にどよめきが広がるがすぐに落ち着く。

誰もが受賞するのは全属性持ちであるレジーナだと諦めている。


「もう一つの国からのものですが、夏に訪問する隣国デルラリア王国の歓迎会に出席する権利を魔術テストの成果から与えるとのことです。こちらは複数名選ばれるので、そのつもりで。しかし貴重な全属性持ちである生徒を一人は確実に出席してほしいとのことでした」


生徒は皆、頭にレジーナを思い浮かべる。

生徒はレジーナのことをどうしてジオルドがそのように回りくどい言い方をするのか、不思議そうにする。


「そして今年の貴族院には神の導きか、全属性持ちは二人在籍している」


そこで再びざわめきが起きた。

あとのもう一人は誰なのか、辺りを見回す生徒。

そんな生徒たちに期待に応えるかのようにジオルドは口を開く。


「一人はグレッシェル・レジーナ。……もう一人はソフィア。二人には今回のテストでは対立という形で行ってもらいどちらかが全属性持ちとして歓迎会に出席してもらいます」


そうしてレジーナとソフィアの対決が始まった。






所々出てくる魔術におけるグレッシェル家の規格外さ……。

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