一週間前
一週間前。
私は国王に呼ばれ、城に来ていた。
案内された部屋に入ると国王とアレクが既に椅子に座っている。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。国王陛下、アレク」
「大丈夫だよ。急に呼び出してごめんね」
「いえ、それで今日はどのようなご用件でしょうか?」
この二年間の間、国王から私宛に依頼がくることは何度かあった。
城の魔方陣に魔力を流すのが主な依頼内容だ。
今回もそれだろうって思ってたんだけど違うみたい。今までは国王がわざわざ顔を出すことは無かった。
だとするとあれか。
今度のお披露目で私と王子の婚約発表をする予定みたいだからその打ち合わせとかかな。
「レジーナはお披露目で発表する魔術は決めたか?」
考えていたことと少しだけずれた質問をアレクにされる。
「はい。お兄様と相談して全ての属性の『球』にすることにしました」
「初級魔術じゃないか。ジオルド様に魔術を教わっているレジーナならもう少しレベルをあげられるだろう?」
「お兄様に全属性ということを示すだけでも充分だ、と言われまして」
私も魔術においてはスパルタのお兄様のことだからお披露目に向けて猛特訓が始まると思ってた。
でもお兄様が提案してきたお披露目用の魔術は始めに習うような簡単な魔術。
拍子抜けしながらも喜んだものだ。
そこで国王が話に入ってきた。
「ジオルドは彼自身のお披露目の時のこと反省しているのかもね」
「お兄様のお披露目、ですか?」
国王は苦笑いしていた。
まさかお兄様が私みたいに魔力量を誤って暴走させたとか?
つい先日訓練所の壁に風穴を開けたら怒られたんだけど。
ジオルドは基本的には私に甘いけど間違えた時には容赦なく叱られる。そりゃあ、もうニコニコの笑顔でネチネチと。
よしっ。ジオルドの弱味を握るチャンスだ。
国王の話に耳を傾ける。
「そうだよ。ジオルドはお披露目で雪を降らせたんだ。真夏の晴れた日にね」
「雪、ですか。お兄様なら出来るでしょうね。それの何が問題なんですか?」
「会場の範囲だけとはいえ、天候を操る魔術を一人で発動するなんて異常だ」
「アレクのいう通り誰もがジオルドの話題で持ちきりになったんだ。ジオルドの次の番だった私の娘が可哀想だったよ」
お兄様と同い年の姫、というとお兄様の元婚約者だった方だろうか?
今は隣の国に嫁いでいってしまったらしいが。
それにしても、お兄様は女性に紳士だ。女たらしだけど。
そんな彼が婚約者に恥をかかせてしまうとは。
彼にも若い時期があったのだと思うと感慨深い。
「そうなのですね。では今日は私が規格外な魔術を使って後に控えるアレクに恥をかかせないようにするために呼ばれたんでしょうか?」
「レジーナ、その言い方は俺に対して失礼だ。やめろ」
「あ、申し訳ございません」
「次に気を付ければいい」
素直に謝った私にアレクは慣れた様子で頷く。
「……君たちの関係って本当に不思議だよね?」
国王は複雑そうだった。
私たちの関係はビジネスパートナー。
そう割りきったら案外上手くいっている。
アレクの俺様の偉そうな態度も、先輩、もしくは上司のようなものだと思えば気にならない。
アレクも私が同年代へのコミュニケーション能力が欠けていると気づいたらしい。数々の失礼な発言も悪気はないと理解してくれた。
たまに意図的に意地悪するとすぐにばれるのは何でなんでだ。
まぁ、基本的には私の発言を嫌だと思えば指摘してくれるようになった。ありがたい。
私とアレクがビジネスパートナーだと知っているのはカイディンとお兄様だけだ。
カイディンは私とアレク、両方と仲がいいため隠すのは不可能だった。
お兄様は何故か気づいてたみたいでカマをかけられ、見事に引っ掛かった。
国王は知らない。なんだか面白がってる気がするけど。
アレクが会話を戻した。
「レジーナは王族がお披露目で使う魔術を知っているか?」
「いえ、知りません。決まっているのですか?」
「ああ、光の球を空に向かって放ち、その後、破裂させる光属性魔術を王族はお披露目で発表すると代々決まっている。あくまで光属性をもつ王族だけだがな」
花火みたいな感じだろうか。
王位継承権は光属性を持つものにしか与えられない。
だから王位継承権を持っていることを証明するための伝統なのだろう。
「では、アレクもその魔術を使うのですね」
「いや、エリーゼお姉様はジオルド様の雪のせいでその魔術は出来なかったんだ。だから俺はその魔術を使うわけにはいかない」
「何故ですか?」
「エリーゼはわざと古い習慣を無くして、違う魔術を発動したってことにしちゃったんだよね~。出来なかった、なんて言えないでしょ。幸い、エリーゼが代わりに唱えた魔術は本来やるはずだった魔術よりも高位の光属性魔術だったし」
「そんな簡単に伝統を無くして良いものなのですか?」
「んー、まぁ、いいんじゃない?後で上位貴族たちに嫌味言われただけだよ」
国王、軽いな!
それ、絶対お怒りですって。
「それは置いといて。ジオルドのせいでどんな魔術をお披露目で使っても大したことないって風潮があるんだよねぇ」
「王位継承権第一位の俺が同じように思われるわけにはいかないんだ」
なるほど。つまり世の中ではお兄様がずば抜けた功績を残してしまったせいで、「凄かったけどジオルドには叶わないね」って感じになってしまっているらしい。
それはアレクも例外じゃない。
威厳が薄れてしまうだろう。
ああ、だからお兄様は私に同じことをさせないために簡単な魔術を勧めていたのか。
やけにニコニコしていたお兄様を思い出す。
納得だ。
でも例え私がごく簡単な魔術にしたところで問題が解決したわけでは無いだろう。
「それではアレクはお兄様を越える魔術を使わなくてはいけないのですか?」
……無理だと思う。
王子の属性は光と風と火の三つ。
五属性のジオルドには及ばない。
魔力量も普通よりは多いらしいけどトップクラスではない。
「無理だな」
さすがにそれを素直に言うのは思いとどまっていたらアレクが自分から認めた。
それじゃあどうすんだろう、と思っていると国王がビシッと私に指を向けた。
そしてとんでもないことを言い始めた。
「レジーナ、君がジオルドを越えればいい」
そんな君に決めたっ!ってノリで言われましても。
確かに私は属性も魔力量も間違いなく国内トップらしいけど。
「え!?私ですか!?」
「うん。レジーナも天候は変えられるでしょ」
「一応出来ますけど、雪は無理です」
雪を降らせるのは繊細な魔力コントロールが必要なのだ。
「それじゃあ何なら出来る?」
「雨とか竜巻とか長時間広範囲は無理ですが嵐も出来ると思います」
その辺はひたすら魔力を使うごり押しでいける。
「嵐!いいね、それ」
「え、いや、本末転倒な気がするんですけど。アレクはどうするんですか?」
「そのあと晴らすことは出来るか?」
アレクに無視されて違う質問をされた。
しぶしぶ答える。
「出来ますけど。完全に雲を晴らすまでは出来ないかもしれません」
「いや、それぐらいは問題ない」
「うんうん。やっぱりこうしよう。まずはレジーナが嵐をおこす」
「え、被害が出てしまいますよ」
「それはあらかじめ魔方陣をひいて対策しとくよ」
え、なんか大規模になってくんだけど。
頭の中で王宮魔術師であるお父様の怒声が聞こえた。
「そのあとに颯爽と現れるアレク。嵐という災害を魔術で晴らす。まぁ、ここはこそっとレジーナにも協力してもらって最後にアレクが光属性魔術で空から光を降らせれば完璧だね」
え、それって八百長、。
「そうすれば俺は嵐という危機から人々を救ったということになり、国民からの支持を得られますね」
「ええ!?それ、私は嵐を呼んだ悪者じゃないですか!?」
「演出だから大丈夫、大丈夫」
何も安心できない。
「アレクはそれでいいの!?」
「この国のために必要なことだ。俺に助けられたと感じてくれれば俺を支持するものは増えるだろう」
うわっ、貴族社会こわっ!
「えっと、そのこの辺じゃ練習もできませんし」
断りたくて適当に理由を言ってみる。
「そうだね。それじゃあ近いうちにどこか森に行ってやってみようか?」
「は!?」
「それじゃあ、早速護衛といざというときのための魔術師を手配しなきゃ。あ、でもヴィルフは城の警護に当たってほしいかなぁ。ジオルドに頼めばいっか。もとはといえばジオルドのせいだし。」
「え、え?」
あっという間に話が進み私には止めることは無理でした。
意外とジオルドも規格外なタイプ。
国王もちょっとおかしいタイプ。




