和解
前回お知らせしましたがこれからは二日に一度の更新となります。
次回は明後日、5月6日の午前8時過ぎです!
いいきってから随分と私も決意がかたくなったものだと驚く。
前までは出来ないことは諦めていたのに。
どうしてこんなにも頑張りたいと思えるのか?
北澤さんと会った時に褒められたいから?魔物に襲われたあの時私は守られることしか出来なかったから?
多分両方。
カイディンも関係しているかもしれない。カイディンの家族は私にとって暖かいものだった。両親の呪縛から解いてくれた。
「……僕は君を心配しているんだ。現に二回も魔力切れで倒れているんでしょう。聞いたよ。魔術以外にも出来ることはある」
その優しそうな顔も腹が立つ。優しさを真っ直ぐ信じられるほど平和な性格はしていない。
「自分のときは魔力ぐらいすぐにコントロール出来たのに。こいつは出来ないのか。いくら全属性で魔力量が多くても母親の病気を治せるぐらいの魔術師になれるわけがないな。私は結構ひねくれているからあなたはそんなことを考えていると思っちゃうんですけど違いますか?」
ようやくあの作り笑いを消して驚愕からか目を見張った。
「……お母様のこと知ってたの?」
「まぁ、私が嫌いなくせに優しそうなふりをして近づいてくるので」
「嫌いじゃ」
「名前も呼ばないくせに」
「っ。それは、……。君はお父様の隠し子だから。その名前はお父様がつけたのか、はたまたどっかのお母様以外の女がつけたのかそういうことを考えたら」
「私は隠し子じゃないですよ」
「え?」
やっぱり誤解されてた。いや、分かってた。嫌われている理由はそれだろうなっていうのは。でも自分から違うって言っても信じてもらえないだろうし。だいたい愛人の子供なんて八歳の子供が言うのもどうよ?
そういえばお父様には言ったわ。
でもせっかく向こうから聞いてくれたので誤解を解きたい。
「私の旧姓はシハーク・レジーナです。田舎の領地の男爵家でした」
「シハーク?聞いたことある気がするな。なんだっけ?」
「別に思い出さなくていいですよ」
あれだ、『天使を売っている商人』のことだと思う。
「えっと、それじゃあ僕は勘違いしてたってこと?」
「そうですね」
「そう、だったのか。ごめんね。最初に会ったときにひどいことを言った」
「私を殺さないって約束してくれるなら許してあげます」
「殺すって、そこまで考えていたわけじゃ」
実際に私はジオルドのせいで死んでしまう可能性だってあるんだから念には念を入れよ、だ。
「私が死ぬことになるような行動も駄目ですよ」
「何をそんなに怯えて、わかった。レジーナを何があっても死なせないと誓うよ」
それを聞いて私は安心した。ゲームの強制力がどこまで及ぶのかは分からないけれど今はジオルドに悪意の感情はない。
「それとレジーナに魔力制御の仕方を教えようと思う」
「急にどうしたんですか?」
「単純に力になりたいだけだよ。酷いこと言ったお詫びでもある。レジーナがたとえお父様の隠し子だとしてもレジーナに罪はないのにね」
罪滅ぼしだと言いたいのか。でも一つ言いたい。
「私は隠し子じゃないっていってるじゃないですか!」
「分かってる。本当はお父様に女っ毛がないのは僕はよく知ってる。お父様は第二夫人も持ってもいい立場だし、見た目もイケメンだし、魔術の腕は国一番だ。未だにお父様に憧れている人も多いし。だというのに未だに第二夫人は面倒臭いからってとらないような男が浮気なんてするはずない。よく考えれば分かることだったよ」
べた褒めだった。
もしかしたらジオルドは父に認めてもらえない悲しさからわざと父に冷たい態度をとっているのかもしれない。
アイラとヒナいい、ヴィルフリート様とジオルドといい、お互いに思いあってるくせに何でこうなるんだ。
我慢出来なくて叫んでしまった。
「ああー、もう!君たち親子は見ていてイライラします!時間をつくって三人で一度腹を割って話してみて下さい!」
「三人?」
「あなたとヴィルフリート様とあなたのお母様です」
「お父様が僕と一緒にお母様のところに行くわけがない」
「私がヴィルフリート様を説得しますから」
気づいたらそう宣言していた。
あ、つい勢いで。……どうしよう。
部屋に戻ってからも嫌な想像も頭によぎる。もしこれでさらにジオルドとお父様との間に溝が出来たら、。
ヤバい、色々考えたら二の足を踏んでしまいそうだ。
ああ、もう、元は急げ!
その夜お勤めから帰ってきたお父様の部屋に直撃した。
「お父様、今お時間よろしいですか?」
「レジーナか。ああ。入りなさい」
「失礼いたします」
初めて入ったお父様の部屋は書籍のように本棚に大量の本が置かれていた。
大抵は魔術関連のようだ。
あれ?光魔法の本が多い。確か、お父様も光属性ではないんじゃ。ああ、そっか。妻を助けるために調べてたのか。
「今日は二回目の魔術授業だっただろう。前回は急な募集だったにも関わらず貴族院の先生が応募してくれたからそのまま任せてしまった。あんなことになって申し訳ない」
「いえ。私の魔力が暴走しなければああはならなかったはずですから」
ヒルシュール先生に問題がなかったとは言わない。
けれど貴族院の教師の仕事を辞めさせられ、慰謝料として多額なお金も奪われたらしい彼女には同情する。
「代わりの先生をどうしようかと思っていたんだがジオルドなら今は魔術研究の手助けを仕事にしていて時間がある。それにあいつは魔術に関しては優秀だ。あと数年すれば私を追い越すほどの魔術師になるだろう。」
自慢気にお父様は仰った。ほんとに、もう。この親子は。
「そういうのはジオルド様に仰って下さい。以前私は言いましたよね?思ったことを直接伝えるだけでいいのでは?って」
「う、そうだが、いざとなると言えなくて」
「私も人のことを言えないからこの前は黙ってました。今回のこれは完全に八つ当たりです。ごめんなさい。先に謝ります」
「え?」
「お父様、奥様のお見舞いにジオルド様と一緒に行ってくださいませ」
そこでお父様は表情を変えた。苦虫を噛み潰したような顔。
「この前、話しただろう。私は……」
「ええ。よく分かります。誰かと深く関わるのはつらい。もし最悪な答えが返ってきたらと怯えて何も聞けない。でも私から見たお父様とジオルド様はすれ違っているだけに見えるんです。そんなの放っておけるわけ、ないじゃないですか」
どうか、そうであって欲しいというただの私の願望かもしれない。
もしかしたらジオルドは実際にはお父様のことを憎んでいるかもしれない。もう手遅れかもしれない。
それでも、賭けてみたかった。
親は、子供は、無条件にお互いを大切に思ってくれるものなのだと信じたい。
「そうだな。何でも言いなさいって言ったからな。それにレジーナはもう家族だ。妻にレジーナのことを紹介しようじゃないか」
安心しろ、とでも言いたげな笑みだった。
ヴィルフリート様は本当に立派だとおもう。理想の父親だ。
だけど彼にも欠点というか短所はあるのを私は知っている。
「ちゃんと説明してくださいね?この前みたいな言い方だと私は完全に隠し子ですから。ジオルド様にも誤解されてましたし」
メイド達の間でも言われてたって聞いたしね。
でも別にアイラ以外のメイドさん達もよく私のところに仕事をしてきてくれるし、そこまで悪意は感じない。
公爵家の当主として愛人の一人や二人ぐらい当然だったりするのだろうか。
「以前レジーナに言われた後にすぐ、使用人が大勢集まっている中できちんと説明したぞ。ジオルドにもそこから伝わると思ったんだが」
なんと、誤解は解いてくれたらしい。これで私が横暴に振る舞わらない限り使用人たちに陥れられることは回避できるかもしれない。ただ一つ言わせてほしい。
「ですから直接お伝えください」
「うっ、すまない」
案外ちょっと抜けているぐらいが父親というのは接しやすいのかもしれない。
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何かに怯えている少女は小さかった。
いや、何かじゃない。僕に怯えているんだ。
こんな、子供にかつて僕は何を言った?彼女は何も悪くなかったのに。
自分が馬鹿馬鹿しい。
「レジーナを何があっても死なせないと誓うよ」
実際に自分が死んでしまう原因になるかもしれない相手と関わるのは恐怖でしかない、と思って書きました。
それでも突き進むのがレジーナです。




