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ここでの生活

私達は五歳になった。


ここまで長かった。

五歳になれば謎だらけだったここでの生活は分かるようになるわけで。


「レジーナ様、お食事の時間ですよ」  

「分かったわ」


メイドが部屋に豪華な食事を持ってきた。

そう、私が生まれ変わったのは男爵家の娘であり、所詮貴族だ。

名前をシハーク・レジーナという。

しかし、男爵家といっても田舎の村の領主なだけであり、位は低いものだ。


お金もただの平民よりかは全然持っているがブイブイいわせてる商人よりかは劣る、はずだった。


しかし、私の前に置かれるホカホカと湯気をたててる食事はこの家には不釣り合いだ。


この国の食文化は前世の日本での生活に比べれば数段落ちる。


しかし、野菜をふんだんに使ったスープ(コンソメのようなものがなく間が抜けている)や鳥の丸焼き(香辛料が充分に使われていない)はどれも平民の家ではご馳走と言われるものだ。


また、私が着ている服は子供らしくフリルが全身にあしらわれたワンピース。いや、ドレスだ。

肌触りがよく生地も良いものだろう。


「また、こんなに豪華なものを。お父様には困ったものね」

 

頬に手をあてて眉をはの字にする。さんざん北澤さんに教え込まれたので今では随分と自然に出来るようになった。  


「レジーナ様が稼がれていますから」

 

困った顔で私付きのメイドはそんなことをいう。

彼女の名前はヒナであり、勤めて半年になるのだが私がこの家で北澤さん以外に唯一信頼を置いている人物といえる。 


まだ若いー15歳と聞いた、のと、可愛い。この世界ではそう珍しくない紫の髪の毛を三編みにしていて一見大人しそうな印象なのに胸は全然大人しくない。

身長も低くて童顔なのに。太陽のような橙色の瞳だけが利発的な印象も与える。


「エミ、食べきれないわ。一緒に食べましょう」


部屋の隅で私が書いたノートを見ているエミこと、北澤さんに声をかける。

ノートはこの世界の文字を練習したものだ。ノートといってもただの紙の束だが。


言葉は日本語で通じるのだが文字は違う。この辺は神とやらの気まぐれかなにかだろう。


「ああ。もうそんな時間なの」


北澤さんは私の隣に座った。私達は食事をはじめる。


「あの、レジーナ様。リビングで食べなくてよろしいのですか?あちらの方が広いですし」


私は一週間前から自分の部屋で食事をとるようになた。

それからというもの毎日のように進言してくるがそれは純粋な好意からだ。私もいつもの返事を返す。


「一人なのにリビングは広すぎるます。それにエミがあれだけしか食事を食べれてないなんて知らなかったわ。リビングだと分けてあげられないもの」

「そんなにひどかったのですか?」

「レジーナもヒナもそんなに気にしなくていいから。生きれるだけのご飯はあったし。まあ、もらえるならこっちをもらうけど」


北澤さんはそう言ってるけどカチカチのパンを味の薄いミルクに浸して食べてるのを見たときは驚いた。

こちらもまた私と反対の意味で男爵令嬢の食事ではない。

使用人より酷いかもしれない。

殺意がわくっていうのはあのことをいうのだと初めて分かった。

 

「そんなことよりもレジーナは今日は何時まで拘束されるの、ヒナ」

「ええっと、2時から四人同時にいらっしゃって6時までですね」

「うぇ」


思わず顔をしかめる。


「レジーナ様、怒られますよ」

「ごめんなさい、つい。それでエミは私に今日は何かあるの?」

「ああ、午前中マナーの授業をやったんだよね。教えてくれる?」 

「分かったわ。夕飯を食べ終わったら教えるわね」


そう。この家でエミの扱いはひどい。食事から始まり、部屋や服装は質素なもので教育も授業料がもったいないからとつけさせて貰えてない。


だから北澤さんも口調を変えている。怪しまれないように。いっそめちゃくちゃ綺麗な言葉遣いであいつらをギャフンと言わせてしまえばいいのに。



今まで私たちは別々で行動することが多かった。なかなか会わせてくれなかったのだ。会えるのは寝る前にこっそりと北澤さんが訪ねてくるときのみ。


そこでは私が何を今日したかということを話すばかりで北澤さん自身のことはあまり教えてくれなかった。


だから会えないのは、お世話をするのに二人幼児がいたのでは大変だからかなと思っていたのだがそうではなかった。


私が優秀過ぎたのだ。勉強もこの頭ではすぐに入ってくるし、仕草やしゃべり方も夜寝る前にこっそりと北澤さんに教え込まれてきた。

そしてこの美しさについては言うまでもない。だって北澤さんの体なのだから。


そうしてエミはこの家で期待されない存在になってしまった。


しかし、北澤さんは私にこのまま完璧を演じろという。自分はこちらの方が動きやすいからと。


「エミ様は本当に熱心ですね。でも、失礼なのですがどうして普段から言葉遣いを改めないのですが?あ、いえ、決して怒ってるわけではなくてですね」

「ヒナはなんとなく分かってるでしょ」

「……はい」


気まずそうにヒナは目を伏せてる。

私にはよく分からない。

北澤さんは()()()()なんかに見下される存在では決してないのに。

だが北澤さんの考えがあってのことだろう。


そんなことを考えながら黙々と食事を食べているとヒナが言った。


「レジーナ様、そろそろ用意をしなくては間に合いません」

「はぁ、分かったわ。」  



最後のスープを飲み干して身だしなみを整えて応接間へと向かう。

ヒナが扉を開けようとするのを袖を掴んで一度止める。

ヒナはしゃがみこんで抱き締めてくれた。あたたかい。太陽のように暖かい光を帯びているヒナの橙色色の瞳を見上げる。


「レジーナ様は賢いのですね。大人が自分をどのように見ているのか理解されてる。……力及ばず旦那様を止められなくてごめんなさい」

「大丈夫。分かってるわ。それで今、我が家が成り立っていることも。ヒナを雇えていることも」


私は意を決して自分で扉を開けた。


「初めまして。シハーク・レジーナと申します。本日はお会いできて嬉しいです」


ニコッと笑う。目の前の豚どもが鼻息を荒くした。席に座ると隣の豚が猫なで声で話しかけてきて手を触ってくる。触るだけだ。私はまだ幼いから。   

ああ、キモチワルイ。この世界で私は男がどんなに醜いか知った。前まではそういう目線で見られたことがなかったからこんなに気持ち悪いものだなんて知らなかった。


心がどんどん冷めきっていく。




シハーク家はこう言われている。



天使を売っている商人。


もちろん私はまだ五歳にもなっていない幼子だ。

お話しているだけである。

彼らは様々な目的で私を買う。


彼らの子供への婚約者にと考えている者、将来隣国の王子までも魅了するであろう美貌に今から気に入られようとする者。


当然ロリコンと言われる人も大勢くる。


今日はそういう者たちのようだ。 

だが私がするべきことは一つ。彼らの望む純粋で無垢な天使を演じ、彼らを楽しませること。

 

気持ち悪いのに嫌なのに彼らを完全に嫌いになれないのは前世で私は出来損ないだったからだろうか。


彼らを仕方がないと受け止めつつ、かわいそうと思っている自分がいる。




何はともあれ彼らはこのシハーク家に決して少なくはないお金を落としていくのだった。









今日は一気に三話投稿です。

明日からはストックがきれるまで毎日投稿頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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