カイディンの過ち 前半
攻略対象のカイディン視点です
「カイディン様、明日は大切な儀式がごさいます。ここ、ブルクベルーで行いますから他の貴族と違い、移動はありませんが訓練はほどほどになさってください」
メイドにそう言われるがまだ今日の分のノルマが終わっていない。素振りを続けながら答えた。
「もうそろそろ終わるから気にしなくていい」
「分かりました。湯呑みの用意をしておきます」
「ああ」
401回402回。
駄目だ。もっと鋭く重く。
父上に会うまでもう時間がない。それまでにもっと強くならなくては。
我がサンダーズ家は三歳から八歳まで親元を離れて訓練をする。
もちろん年に一度は会えるがせいぜい一週間程度。
それでも俺は両親が好きだった。
騎士団の団長として国を第一線で守るとても強くも正しい父。
優しいがその実、過去に鬼軍曹と言われたほどの実力を持っている美しい母。
しかし彼らと一緒に過ごすには俺がサンダーズ家の子として認められるほど強さがなくてはならない。
そういう決まりなのだ。
だが、やはりそろそろ終わりにしなくてはならないだろう。
体を壊すわけにはいかない。
部屋に戻ろうと腕を落とした時、森からただ事ではない音が聞こえた。
木が凪ぎ落とされるような音。
嫌な予感がした。俺の勘は当たる。
だから今まで振っていた真剣を手に家から飛び出した。
途中で俺の護衛である騎士に止められたが避けるだけなら出来る。森に行く俺とそれを追いかけるわが家の騎士達。
今、ここにはたくさんの貴族が滞在しているため警備は町の中に集中していて森の方の警備は手薄だ。
だからか、俺に付いてきたのは二人だけだった。
森に行くと騎士達も森のどこか異常な様子に気づいたのだろう。
「カイディン様、一度戻って援軍を呼んできましょう。ですからカイディン様はどうか部屋にお戻り下さい」
「そんなことしている内に手遅れになったらどうする!?それにここで俺が大人しく待っていたらきっと父上は俺を叱るだろう」
くっ、しかし、音がした方はどちらだったか。
それなりに遠かった気がする。
とにかく走っていると体に熱風が当たった。見ればなんと、火柱の魔術が空に向かって放たれているではないか。
魔術はまだ習っていないがあれはよっぽどの魔力がないと使えないもののはずだ。
それほどの魔術師がいるのに助けを求めるように上に打たれた魔術。
非常事態に違いない。俺は足を速めた。後ろから騎士達が何かを言っているが構っている暇はない。
俺はきっと浮かれていたのだ。
ここで手柄を立てれば父上に誉めて貰えるだろう、と。
周りに大人しかいないが俺は時々修行しにくる年若い騎士に勝つこともある。きっと同年代よりは強いだろう、と。
森が開けたところにその一団はいた。
狼の姿をした魔物に襲われている。
あの、魔物はたしかフォーコウルフだ。
この森では毎年この時期に出現するそうだがそんなに強い魔物ではないと聞いた。
俺と騎士が協力すれば倒せるだろう。
しかし、よく見ると既に数体やられている。
また木が何かによって燃やし尽くされ、道を作っている。その道の中央には明らかにフォーコウルフより大きいと思われる魔物の下半身だけが存在していた。
やったのはきっとさっき見た火柱の使い手だろう。
しかし、肝心の魔術師の姿が見当たらない。
不思議に思いつつも、そろそろ収拾も着きそうな状況に俺はそっと肩を落とした。
向こうの護衛は四人いて一人は女だがめちゃくちゃ強い。
一人で二体を相手している。ふむ。そちらに助太刀すればいいか。だが既に一体は瀕死だ。
それに速すぎて俺がいったところで追い付けないだろう。
「俺はあの嬢ちゃんのところに行ってくる。どうやら後ろにいる貴族二人を庇っているように戦っているからやりにくそうだ。パトリックはカイディン様と」
「ああ」
俺についてきた騎士二人はそんな会話をしている。
だがあの強い女にはそんな素振りはない。
なんのことかと思い、もう一度辺りを見渡すと俺と同じぐらいの年の少女がフォーコウルフと戦っている。
三体の魔物が近くにいる場所からその少女は少し離れた位置にいたので気がつかなかった。
少女の剣筋は型通りの綺麗な振りで戦い方も定石に従っているように見える。
しかし、反応が一歩遅い。
反射神経やそれに伴う筋肉量がないのだろう。
よし。俺の方が強いな。
「俺も行くぞ」
「お待ちください!」
「くっ、離せ!」
羽交い締めにされる。後ろからこう捕まえられたらまだ体格差があるため逃れられない。
俺がもう少し大きくなればすぐに抜けられるのに!
ジタバタとしている内に少女と戦っているフォーコウルフはまんまると太っている大人二人の元へ駆けていった。
「おい、離せと言っているのが聞こえないのか!?早くしないと死んでしまう!」
「私達が今、ここで最優先すべきはカイディン様です!」
この、わからず屋め!
足技も使って拘束を抜けようとすれば今度は二人かがりで押さえ付けられる。
だが、そうしている内にも少女はナイフを投げフォーコウルフの動きを失速させる。
ナイフも、もう一本持っているようだ。
肩が落ちたのは安心からか。それとも別の何か。
だが次の瞬間、そんな思いは消え失せた。
少女は一瞬周りを確認するように視線を動かした。
焦った顔をして少女はフォーコウルフと別方向へと走る。
その動作はスムーズなものだった。
当然、フォーコウルフはそのまま大人二人に襲いかかるわけで。
体の力が抜けた。
「うわぁぁ、いっ、痛い、痛い、だ、誰か助けてくれ!」
「やめてぇ!お願い、な、なんでもするから。あ、あぁぁぁ!!」
絶叫が耳を木霊する。
目をそらせば少女が別のフォーコウルフと戦っていた。骨が砕ける嫌な音がするが気にする様子はなくフォーコウルフの目にナイフをさし、淡々と獲物を倒していく。
その場にへたりこんでしまった俺に二人もそばにいる必要は無い。
パトリックは俺から離れ、血にまみれた最後のフォーコウルフを殺した。
「私はシハーク家に仕えるメイドのヒナと申します。貴方達はどのようなお方でしょうか」
「私はウィリアム・パトリックと申します。王に忠誠を誓う騎士でありますが、今はサンダーズ家の領地にて修行の身であり、サンダーズ家の領地ブルクベルーの警備員として、現在働いております」
「ああ、領主様の。この度は助太刀していただき、ありがとうございます」
俺たち三人は全員顔を俯かせた。
だって着いたときにはまだ生きていたのだ。
あの貴族二人は。だが俺の浅はかな考えによって死んだ。
俺に付いてきた二人も俺を捕らえていなければもっと早くに助けにいけた。
死ぬことは無かったのだ。
「い、いえ。私達が来るのは遅すぎました。ここはブルクベルーの管轄の森でもあります。申し訳ない」
パトリックは頭を下げた。俺たち三人分の謝罪だった。
「いいえ、守れなかったのは護衛として付いていたこちら側の不覚です。お気になさらず」
ヒナという少女は無表情でパトリックの謝罪を断った。
その時、この場では場違いにも思える少女の声が発せられた。
「それでは少し手助けをしてもらっても良いですか?」
魔術や魔物の名前を考えるのが大変です。
こんな感じで大丈夫でしょうか?




