七歳になりました
私と北澤さんは七歳を過ぎた。
最近はさらに忙しい。なぜならこの世界では八歳になる年に貴族は魔力の属性を調べる儀式があるのだ。そして十歳になる年には王都に集められ、自分の得意な魔術を披露するらしい。
属性は六つ存在する。『火、水、土、風、光、闇』だ。加えて魔力を持つものなら誰でも使える無属性魔術と言われるものも数多くある。
しかし、属性が多ければ多いほど魔術の幅は広がるため重要だ。
「ふふっ、レジーナは何の属性があるのか楽しみだわ」
「私たちの娘だから火と土はあるだろうな」
最近の夕飯の時間ではレジーナとエミの両親にあたるこの人達は属性の話題で持ちきりだ。
私が生まれてから減ることがなく増え続けている二人の体重はとうに普通の椅子では耐えられなくて、特別製のものに変わった。
昔はまだ愛嬌のある顔だと言われたお母様の顔は今では見る影もない。灰色の髪はまるで悪い魔女のように広がっている。そんな母の属性は土だがせいぜい小さな花を咲かせるのが限界だ。
お父様の顔は脂ぎっていて清潔感がなく頭も最近では、はげてきている。父の属性は火だがコントロールが出来ないため下手に使えば火事になってしまうらしい。
はぁ、こいつらのグズ具合には拍車がかかっている気がする。エミは儀式のために最近ようやくマナーを教えてもらえるようになったけれど教師はいい加減でまともな人ではないらしい。
私だけを溺愛してる彼らだけどそれは私が相変わらず営業しているからだ。慣れてきたものの最近の客は以前よりもいっそう悪そうな人たちで両親は危ないことに手を出すのにそう時間がかからないだろう。娘を売るのも放置するのも危ないことでないとしたら。
「そうだ。レジーナの服を新調しなきゃダメね。お父様、私も新しい服が欲しいのよ」
「そうだね。また作りに来てもらおうか」
はぁとため息をつきたいのを我慢して私は無言で口に食事を運ぶ。二人と別メニューの私の食事は北澤さんがこっそりと料理法を教えたこともあって前世の食事によく似た美味しいものだった。
夕飯の後、お風呂に入って部屋へ戻ると北澤さんはなにやら顔にパックのようなものを貼っていた。この世界にも化粧品が存在するらしく、北澤さんは色々試している。前世での私の顔がましになってきているのは北澤さんの努力の結晶と内からにじみ出る美しさからだと思う。
私は北澤さんに質問する。
「そういえば北澤さんは私の属性を知っていますか?」
「確か、ヒロインと同じで全属性持ちだったわ」
「え!?全属性って伝説の勇者並みに珍しいって聞いたんですけど?」
「ヒロインの凄さを出すための設定ではないかしら。悪役令嬢である貴方はまるでラスボスのような扱いだったから全属性持ちなのだと思うわ」
「目立たないで平穏に過ごす作戦はダメそうですね」
「今すぐそれは諦めなさい」
半目で見られた。
それにしても、魔術、か。興味無いんだよね。素質があったとしても使いこなせる気がしない。
それに下手に魔術を使えちゃったら将来は社会の鬼畜の道まっしぐらだ。この世界では属性が3つあった時点で職に困らないし4つあれば国の重役として重宝されるらしい。
「どうしたら北澤さんのそばにずっといられるんでしょうね?」
「無理に決まってるでしょう」
あっ、声に出ちゃった。でも無理ってどういうこと?
「あなたは絶対にこの先、良くも悪くも目立っていくわ」
「ええ、私なんかがそんなわけないじゃないですか!」
「あのね、その体はあなたの大好きな私の体なのよ」
「……あ」
横を見れば鏡に映った私の姿がある。
光を弾いて艶めく黒髪に抜けるような白い肌。吸い込まれそうな夜空をそのまま映したかのような瞳。
子供らしい丸みを帯びた輪郭はあどけなく愛らしい。きっと一目見たらそのまま魅了されるであろう天使のような少女。
私は知っている。この少女は将来、女神のような美しさを手に入れることを。
「見た目だけじゃないわ。きっと勉強も運動も勘が良く、すぐに出来るようになるわ」
確かにこの体は一度言われたことを決して忘れない。体は動かしやすく木刀で素振りをすれば筋が良いとヒナに驚かれた。
「わかりました、北澤さん!私はこの体に恥じないように生きていきます!」
「ふふっ、あなたが実は努力家なのは知ってるわ。だからきっとすぐに優秀になる。でも、私は負けず嫌いなの。あなたに負けないように私はあなたを追いかける。絶対に負けないわよ」
その瞬間、ゾクッとした。体中に何かが駆け巡る。
北澤さんの視線に私がずっと映る?なんだそれ、最高かよ。
北澤さんにとって私はきっと前世では他大勢の守る対象だった。
後ろにいるちっぽけな存在だった。
そんなのはもう嫌だ。
私の新たな目標が出来た。『北澤さんのライバルになる』
自分でも無謀な挑戦だと思う。でも、目標は大きくいかないと私はきっと諦めてしまうから。




