北澤円香と一緒に神様に会いました
私の人生は地味で目立たず冴えないものだ。
しかしそれはきっとこの好機にすべての運を使いきったためだろう。
夏休み明けの二学期。
席替えした私の席は北澤円香の隣だった。
私は一つしか机が下がらなかった。
よってすぐに移動が終わる。
普通なら騒がしいはずの席替えはこのクラスでは静寂に包まれる。
一人の少女の挙動を固唾をのんで見守っているのだ。
私は今回、一番後ろの窓際から二番目になった。
たとえ彼女がどこの席にいても見ることが出来るこの位置に喜ぶ。
それでも少しでも近くにならないかと願い、盗み見るように彼女を横目で眺める。
どうやら彼女は後ろの席のようだ。
担任の意向で机はそのままで人だけが移動するシステムの席替え。
机を移動する際の混雑はない。
彼女は何にも邪魔されず背筋を伸ばし、気品をもって歩く。
一番後ろまでくると彼女は右を向いて歩き始めた。
168cmという長身に加えすらりと伸びた長い足が座った私の目線からちょうど見えてしまう。
慌てて前を向いた。
だんだんと近づいてきている気がする。
いや、待て。落ち着けそんなはずがない。
必死に期待しそうな自分を抑える。
フワッと後ろから良い臭いがした。
ガタッと机に座る音が横から聞こえる。
恐る恐る隣を見る。
そこに北澤さんはいた。
窓際の方を眺める北澤さんは頬杖をついて長い黒髪を手で後ろへ放った。
はらはらと落ちる黒髪と対照的な陶器のような白い肌。
唯一色を指す薄紅色の唇。
横からだからか余計に彼女のスッと通った鼻筋が目立った。
勉強、スポーツ、音楽、料理、すべてにおいて完璧な美少女、それが北澤円香だった。
これからずっと隣にいれるなんてもう、死んでもい。
いや、死ねない。北澤さんを見れなくなってしまう。
ああ、神様ありがとうございます。
どうやら本当に私はこれで運を使い果たしたらしい。
私は何故か天国にいた。
「何故か、じゃなくて死んだからここにいるんですよ」
「……心が読めるんですか」
「神ですから」
「ねぇ、さっさと要件を言ってくれるかしら?じろじろ見てくるのも失礼よ」
神話に出てくるような白い布を体にまいた金髪に蒼い瞳の神は美しく微笑む。
一方で仁王立ちで余裕そうに微笑む神にも負けない美貌の北澤さん。
間の私は思わず正座する。
そう、天国には北澤さんもいた。
死んだ瞬間のことはよく思い出せないのだけれどどうやら北澤と一緒に死んだらしい。
ふむ。それなら我が人生に後悔はない。
「それは失礼。我ながら美しくできたなぁと感心してたんですよ。
貴方を創るためにどれだけの力を込めたか。北澤円香は私の涙苦しい努力の結晶です」
涙ぐみながら言う神に私たちは一歩距離を置いた。神は慌てて首をぶんぶん振り言い訳を始める。
「すみません。つい。ずっと見守って居たものですから。そんな目で見ないでください。助けてあげたこともあるじゃないですか」
「知らないわ。もしかして私がじゃんけんやサイコロなんかの運ゲームに負けたことがないのは貴方が関係しているのかしら?」
「ええ。しかし人間に手を貸すことは天界では禁止されていることなのです。ですから北澤円香は若くして死んでしまいました」
なんて理不尽なやつだ。こんなやつが神だから世の中には救いようのないような人間がいるのだろう。
というか神ごときが北澤さんを殺していいはずがないだろう。
ついでに私の話は出てこないけど何で私が死んだというのか?
「ああ、そっちの貴方は巻き込まれただけです。
しかしいろいろと今回は特別なパターンでして。貴女たちには転生してもらいます。
まぁ、ぶっちゃけるとせっかくこんなに綺麗に出来たのに壊しちゃうのはもったいなくて。
あ、円香のことですよ。
貴女は自動的に勝手につくられたごく普通の人間、ではないですね。人よりも基本的に劣っている可哀想な人間です」
私ディスられてませんか?
「……神が創った?私の美しさは私のものよ。ああ、でも転生っていうのは面白そうね。こんな退屈な日々もちょっとは変わるのかしら?」
「そりゃあもう、スリル満点な日々が待っていますよ。頑張って下さいね」
いや、だから何で私にもスリル与えられるんですか?
私はもう思い残すこととかやりたいことはあまりないから、転生に興味は無いんだけど。
神は慈悲に満ちた表情でこう言った。
「どうか善き人生を」
本当にこいつは神なんだと思うぐらいには優しく、美しい表情だった。
……見とれていたんだと思う。
気づいたら足元の雲のような地面を私達はすり抜けていった。
目が回るほどの早さで虹色の不思議な空間を突っ走ってく体、ではなく魂。
頭に神の声が響く。
『北澤円香には努力を。◯◯には才能を。さぁ、おゆきなさい。前世では無いものを得、得たものを失う。それもまた運命です』
ついにはじめてしまいました
長い連載になりそうです
楽しんでいただいたら嬉しいです