庭遊びとスパルタ魔王
「サーちゃん、こっち」
僕たち二人は基本的に屋敷からあまり離れない、所謂庭先でよく遊んでいた。
とはいえ、遊び道具なんてないから基本的に庭先にある物で遊ぶんだけど、殆どが草花や土、小さな虫を相手にしていた。
「にぃに、ちょちょ」
「あ、ちょうちょがふたつ」
「にぃに、あてぃんこ」
「あ、ありんこがいっぱい」
「にぃに、どんこ」
「どろんこあそび?」
僕は妹にせがまれて約束を破り、こっそりと魔法を使うのだった。
◆
「え? 駄々漏れって……それって大丈夫なの?」
「まあ、今の方法を採っている内は大丈夫だろうけど、詠唱に魔力を乗せようとしたら危険だろうね」
マさんの言葉に愕然としながらも、でもと僕は疑問を口にした。
「学校に入った時も魔法学院に入った時もだったんだけど、こうなるのは新天地に来た一年間が一番酷いんだ。二年目以降は日によるけど普通に魔法を使える時もあるんだよね。それに、大丈夫かと思って魔法を使おうとして暴走する事もあるから、授業とかで使えなかったんだ。じゃあどうして魔法が普通に使える時があるんだろうって、考えても分からなくって……」
今まで担当してくれた教師はその問題に消極的だった。
魔法に精通した学院の教師なら、と期待したんだけども、それはことごとく裏切られた。
これが他の属性の魔法士なら積極的に対策法を模索してくれたんだろうけど、土魔法士なら取り敢えず使えているのだから問題なかろうと見捨てられたんだ。
「ほう。問題なく使える時もある、と。益々面白いな、それは。よし、その条件を二人で見付け出そうか。早速魔力を乗せて使ってみてくれないか」
「いや、それ危険だしっ! 小さい頃に暴走して一緒にいた妹が怪我をして、今も傷痕が残っているんだからっ!」
再び肩に手を置いて魔法を促すマさんを止める。
妹が怪我をした時も僕に触れていたからだ。
ここ最近に基地でわざと起こした魔力暴走は、暴走の規模を予測逆算して人と距離を置いた上で起こしていた。
その為、怪我をする人は皆無で、精々飛び散った土や泥を被った程度だ。
しかし直近で、それも触れた状態であれば何が起こるか分からない。
妹のように負傷必至だと思う。
「心配するな、ちゃんと防御魔法は発動しておく。そう簡単に破れる防御魔法ではないから安心してぶっ放してみるがいい」
「ええっ!?」
自信満々のマさんに圧されて、僕は小さい頃に使っていた泥の魔法を使う事にした。
僕の知っている魔法の中で一番規模の小さなものだ。
万一暴走しても爆発は規模の小さなもので済むからね。
僕は泥のイメージを頭に浮かべると、魔力を僅かに流して魔法を発動しようとする。
「お? おお? おおお!?」
マさんが変な唸り声を上げる中…………ボム!
無事に(?)魔力暴走で爆発が起きた。
「マさん、大丈夫!?」
小規模とはいえ魔力暴走をさせたのだ、肩に手を置いていたマさんが心配で振り向くと……。
「おおう、これは面白い。中々に興味深いな。駄々漏れの魔力分が上乗せされているだけでは無さそうだ」
平気そうだった。
それだけではなく、何が起きていたのかを考察しているみたいだ。
「どうやらオーヴ君の感覚と魔力の出方には大きな差があるようだ。君が考えているより遥かに多くの魔力が放出されてしまっている」
「あ、やっぱり」
そうでなければ魔力暴走する筈がない。
しかし普通に発動する時もあるのがよく分からないんだ。
「それは魔力を使い果たした後とかではないのかい? でなければ、魔力が糞詰まる何かがあるってところか。どちらにしても感覚を正すしかないだろう。どれ、私が口添えするから、魔力を絞る事に集中してみなさい」
おおっ!
こういうのだよ、僕が求めていたのは!
学校のように禁止する訳でもなく、学院のように誤魔化す訳でもなく、何とかしようとするその心意気!
やっぱりマさんはめっちゃ良い人だよ!
「それにしても、マさんはどうして魔力が分かるの?」
「ん? まあ慣れだ、慣れ。もっと慣れれば触らずとも相手の魔力が分かるのだが、私はそこまで魔力検知は必要としなかったからな」
なるほど、魔力検知か。
慣れれば出来るって事は、僕にも出来るようになるって事だよな。
さっきの防御魔法といい、マさんは中々にハイスペックらしい。
ひとまずの目標は普通に魔法を放てるようになる事だけども、その次の目標はマさんに追い付く事かな?
「さあ、魔力を絞る練習をしようか。先程の魔法は規模が小さすぎて絞るにはかなり難しいだろうから、もっと大規模な魔法から始めようか。そうだな、最初に見せてもらった土壌の踊り、だったかな? あれから始めよう」
いや、ドジョウの踊りじゃなくて豊穣の舞いだから。
でも大丈夫かな、あの魔法って結構広範囲魔法なんだけど。
「無詠唱で魔法を発動した事があるなら、詠唱出来る魔法を無詠唱するのもそんなには難しくないな。さあやってみなさい」
後方にある建物には結界、マさん自身は防御魔法と、魔力暴走に対するガードは心配無いそうなので、意を決して豊穣の舞いの無詠唱にチャレンジする事に。
詠唱内容に沿って頭の中にイメージを浮かべ……。
「ほれ、もう魔力が出過ぎている。絞れ絞れ、グッと絞れ」
肩に手を置いていたマさんが背中をバンバンと叩く。
えっ、もう魔力が出過ぎているって?
慌てて軌道修正し魔力の量を絞るイメージをする。
「まだまだだ。もっと絞れ、グググッと絞れ。まだドバドバと出ているぞ」
えっ、まだドバドバと?
どれだけ絞れば良いんだ?
「ほれ、僅かにしか絞れていないぞ! まだ川の流れくらいだから、それを蛇口から出る水くらいに絞れ!」
今度は背中じゃなく尻を思いっきりバンバンと叩かれる。
「もっとだ、もっと! まだ小川ほど流れ出してる! 感覚を正す為にやってるんだ、今までの狂った感覚は棄てろ!」
ええっ!?
もっとだって!?
てか、尻が痛いってば!
「そら、全然絞れていないぞ! ギュッと絞れ! ケツの穴をキュッと窄める様に、絞った雑巾を更に絞って出てくるくらいの水の量をイメージして絞れ!」
良い人だと思ってたマさん、スパルタでした。