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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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二重奏とお隣さん



「に゛ぃに゛……に゛ぃに゛~!」


 三日目は午前中のみ前の二日間に行った測定を受けるのみで終わり、午後に家に帰ってきた。

 すると外にまで聞こえていた泣き声の主が、僕の姿を見るなり何度も転びながら突進してきた。


「スーちゃん!」

「にぃに! びぇーーん」


 いつも一緒だったのに、突然三日間もの間引き離された小さな兄妹が感極まって抱き合いながら泣き声の二重奏を奏でる。

 その様子を、学校から帰ってきたばかりの二人の兄が目を細めて見守っていた。


「……それで旦那さま、いかがでした?」

「あ、ああ。まだハッキリとはしていないが、やはりオーヴが原因のようだ」


 深刻そうな顔で父さんが母さんにそう告げていたのだが、妹と共に泣き続けていた僕の耳には届いていなかった。







「あ、おはようございます、今日はよろしくお願いします」


 今日はこの町に来て初めての休日。

 朝、いつもの時間よりほんの少し遅い時間に起きた僕は、いつもの軍指定の制服とは違う動き易い私服で朝の稽古を終えて支度をすると、入るのに邪魔だった部屋の前に伸びていた草をむしりながら、待ち合わせをしていた人物を待っていた。


「やあ、おはよう。待ったかい?」


 そして間もなく姿を現したのは、昨夕に会ったお隣さんだ。

 この町に来てからずっと隣の部屋は真っ暗のままだったのだけど、昨夜訓練から帰ってきた時に偶然バッタリと会ったんだ。


 ・

 ・

 ・


「ん? もしかして君が引っ越してきた子かな?」


 訓練から帰ってきてドアの鍵を開けようとしていたところに、ふと声を掛けられた。

 その声がした方を見ると、やはりその人も鍵を開けようとしていた。

 全く気が付かなかった。


「あ、お隣さんですか? 初めまして、この前隣に越してきました」


 先日、壁ドンをされた反対側の顔も知らないお隣さんと比べると、見た目からして知的で優しそうでダンディなその人に、最初の印象が肝心とばかりにちょっと背伸びしてよろしくお願いしますと挨拶をする。

 あ、壁ドンのお隣さんとは未だ顔を見てないけど。


「ほう、これは丁寧に。こちらこそよろしく」


 薄暗い中の挨拶だったし、挨拶の為の手土産も用意してなかったから、後日改めて挨拶しに伺いますと別れようとすると、更に声を掛けられた。


「君は軍に入ったばかりなのかね? 魔法士だとは聞いていたけど」

「え? 何でそれを……。そうです、僕は魔法士です。土属性の」

「ほう、土属性か。土は何かと難しいだろう。攻撃力が高い魔法を持つ者は少ないのに、何かと前線に置かれる立場だろうからな。まあ楯役と言えば楯役なのだが……」


 魔法士は基本、後衛からの支援職である。

 魔法を飛ばして遠距離攻撃をするのが専らの仕事で、前面に立たされるのが陸上一般兵部隊である事が大半だ。

 魔法職で前方に出るのは、自らの身体に強化魔法を施して攻撃するバトルジャンキーや、攻撃魔法を至近距離で発せられるトップクラスの人たちくらいだ。

 一般の魔法士では詠唱時間が掛かる為、魔法を発する前に相手に蹂躙されかねない。

 そんな中で土属性の魔法士は特殊な立ち位置にあった。


 基本的に戦闘が行われる前に戦い易いように戦場の起伏を作る等の下準備を現場で行い、戦闘中は中衛の位置で待機、下準備をしたところが破損すれば場合によってはドンパチする中でも現場まで出ていく必要がある。

 前回のスライム対応にあたっては、事前の土堤造りに始まり、戦闘中はその補修に奔走すると。

 他の火や水、風の属性魔法士は後方から魔法を飛ばしていれば良いのに、だ。

 つくづくハズレ職なんだな~、土魔法士は。


「だが、土属性の魔法士の仕事によっては、他の者の仕事を奪い取れる可能性はあると思うがな」


 ニヤリとするダンディ、ちょっと格好良い。

 でも、他の人たちの仕事を?


「土魔法も使い方次第って事だ。自分オリジナルの魔法を作り上げてる魔法士は少なくないが、土魔法だってオリジナルを作れる可能性はまだまだあると思うぞ?」


 その希望あふれる提案に僕は顔を綻ばせたが、それもすぐに失せる。


「ん? どうしたんだ? コツさえ掴めば不可能ではないと思うが……」

「いや、僕……魔力暴走の癖があって、普通に魔法を放つのも怪しいから……。本当は休みの明日も何処かで練習をしたいんだけども……」


 そう勝手に魔法を放って良い場所なんてそこいらにある訳がない上、僕の場合は魔力暴走の危険性がある。

 小さい頃は広い庭の端っこでコッソリとやってたけど、町の中の人がいるような場所ではおちおちと練習出来ないのだ。


「魔力暴走? ふむ、久し振りに聞いたな。ちょっと面白そうだ。よし、明日は朝から練習するのかい? 練習する場所なら良い所があるから案内しよう」

「え? ええっ!?」


 ぽんぽんぽんと話が進んでいって、あっという間に約束させられてしまった。

 ……いや、良いのかなこれ。



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