尻尾とハズレくじ
お待たせしました。
ちょっとお疲れモードなので、休み休みの執筆になります。
「あら、二人ともサリーさんに遊んで貰ってたの?」
「あっ、おかあさん!」「おかーさん!」
程よく疲れてきたところに、母さんがゆったりとした歩調で大きなお腹に手を添えながらやって来た。
この頃にはもうじき生まれてくる子が男の子か女の子なのかどっちが良いのかや、どんな名前が良いかを連日話し合ったり、大きなお腹を触って動くのを感じたり話し掛けたりするのが日課になっていた。
あちこち歩き回る母さんを、父さんは心配もしたけど、じっとしているよりも歩いて運動をし体力の低下を防いだ方が良いと、診察しに来る産婆さんに言われた事で、母さんはなるべく動くようにしていた。
「あらあら。二人ともすっごい汗を掻いたわね。って、サリーさん、泥々じゃない! まさか……」
母さんが周囲の足下を見渡した後、僕と妹を目を細めて見る。
「あなたたち、やったわね? 駄目じゃない、魔法は使わないって約束したでしょ?」
「……ぼく、しらないよ~?」「スウちゃんもしらな~い!」
「全く、約束を守れない子にはおやつは無しって言ったわよね」
「「えーっ!」」
母さんの無慈悲な言葉に、僕たちは悲鳴を上げる。
そこにサリー姉さんが見かねて待ったを掛ける。
「まあまあ、そんな大した事はないし子供のやった事だから、あたいは気にしないよ」
「いえ、そういう事じゃなくて……。はぁ、次にやったら本当におやつは無しよ? もう良いから二人ともお風呂で汗を流して来なさい。サーファさんにお湯を出して貰ってね。サリーさんも汚れを落として行って。そのまま帰したらミストさんがビックリしちゃうわ」
「ああ、確かに。流石に嫁いで来て直ぐでいきなり泥まみれで帰ったりしたら余計な心配を掛けるね。じゃあ、二人と一緒に汚れを落として来ようかね。ああ、お湯はあたいが出せるから任せな」
トントン拍子でサリー姉さんと一緒に汗を流す事になった僕たちは、早速風呂場に向かい服を脱ぐ。
すると、一緒に脱いでいたサリー姉さんがビクリと動きを止めてギョッとした目で妹を見た。
と同時に、僕たちも目を見開き口を開けてサリー姉さんを見上げた。
「ちょっと、スーちゃん! それはどうしたんだい!?」
「ふぁ!?」
突然手を取られ言い迫られた妹は、その迫力と何を言われたのか理解出来なくて言葉が出てこなかった。
しかし、その視線で何を指しているのかをやっと理解した妹は一生懸命にそれに答える。
「んとね、ん~と……まりょくやけど、だって」
「魔力火傷? 痛くはないのかい?」
「うん、いたくないよ?」
「そう、かい。痛くはないのかい。良かった。でも、魔力火傷なら治療すれば治るだろうに、何で放置しているんだい?」
サリー姉さんのその難しい言い回しに首を傾げた妹だったが、何となく意味を理解したのか間を置いてそれに答える。
「んとね、なおんなかったの。オーちゃんのまりょくがつよいからなおんないんだって」
「はあ? オーちゃんの魔力が? 一体どんな三下の治癒士に頼んだんだ? って、軍属系の貴族の家なんだから軍の治癒士、それも上の方の人間に診て貰って、だよねきっと。じゃあ、それでも治せないって……オーちゃん、あんたの魔力って……」
徐々に声が小さくなり何やら考え込みだしたサリー姉さん。
その目が僕に向くと、汚れた服を脱いだサリー姉さんのある一点を見ていた僕もその視線に気が付いて視線が合わさるが、僕の視線はまた元に戻った。
「おばちゃ……おねえさん」
「……ん? ああ、何だい? って、あんたどこ見てんだい」
僕の視線の高さが気になったのか、サリー姉さんが怪訝な顔をする。
それに気も付かずに、僕はサリー姉さんにくっついている見慣れない物体を目で追いながら質問する。
「その、うしろのピョコピョコしてるのはなに? あたまもなんかとんがってるよ?」
「うしろの? 頭? ああ、なんだ。女の大事なところを見てたんじゃなくて後ろを見てたのかい。これは尻尾と耳だよ。言わなかったっけ、あたいは猫獣人さ」
「ねこ、ちゅーちん?」
「ねこ、ちん?」
この後、僕たちが獣人の事を知らなかったのを察したサリー姉さんに、汗を流して貰いながら獣人の事を教えて貰った。
ピョコピョコ動く尻尾と耳、面白い!
妹も目を輝かせ、ピクピク動く耳やピョコピョコ動く尻尾を見上げていた。
僕にも尻尾、生えてくるのかなと当時は真剣に考えたものだ。
◇
「何? 伝染病? しかも治癒魔法隊が既に対応していて応援を必要としてる?」
うわぁ、これってやっぱり不味い奴だわ。
仕方なく報告と応援依頼を纏め役の先輩隊員に言ったら、あれよあれよと今回の遠征組の司令官役である火魔法小隊の小隊長の元まで連れて来られてしまった。
周りには朝礼の為に集まりつつある分隊長たちが集まりつつある中でのこの報告だ、gkbl。
おれの話を聞いたD隊の隊長の表情がみるみる変わっていく。
あ~、やっぱりハズレを引いたな~。
「今は対症療法で繋いでいる状態で、このままでは村が全滅するって……」
「話は分かった。が、それは我々軍の仕事ではなくてここの領主の仕事だ。それは分かるな」
「……まぁ。でも、治癒魔法隊の連中が知ってしまったからには放っておけないって」
「まあ、そうだろうな。で、何故それを知ったんだ? それに、一般兵のお前が何故治癒魔法隊の遣いっ走りをしている」
あ~、これオーヴの方の事も話さないといけなくなったな。
悪いけど、言い出しっぺなんだからだから覚悟しておけよ?
「何だと? じゃああの中途編入してきたZ隊の新人が勝手に畑の改質をしているのか」
眉間の皺が深くなったD隊の小隊長が声を荒げる中、集まってきていた引率役の分隊長やベテラン隊員たちが顔を見合わせてボソボソと話しだす。
「そういや今さっき東の空が光ってたな」
「ああ、それなら俺も見たぞ。2、3回光ってたぞ」
「それって例の転属された新人だよな。光虫を連れ歩いてて、魔法を放つとその光虫が光るとか何とか」
「そうなのか? ペットを仕事に連れてくるなんて、今時の若い奴は常識がないな」
「てか、今さっき? 俺は結構早めに来てたけど、そん時にも何回か光ってたぞ? 土魔法ってそんなにも連発できるものか?」
土魔法を扱う魔法士は一発大きいのを発動させるか2、3回そこそこのを発動させると暫くは魔力切れで魔法は発動させる事が出来なくなるのが通例だ。
それが、短い時間に何度も魔法を放ったとみられる事に皆が首を傾げる。
その一方でおれはD隊の小隊長に絶賛無罪を主張していた。
「最初は剣の素振りの代わりに鍬を振るうと思っていたんですけど、大雨のせいで水の浸かった範囲が広いからって魔法でやるって言い出して。それに水が浸かる要因も何とかするとか大風呂敷を広げてたけど、どこまで本気なのやら……。で、やってる間にその子の母親の具合をメアを連れて見てこいと……あ、メアってのはS隊の隊員で……えっと、隊長?」
おれが状況を順を追って説明していくと、D隊の隊長の顔色が真っ赤に変わっていった。
「あんの馬鹿者がぁ! 土地に関する事こそ領主の仕事だろうが! 領主が手に負えなくなって初めて軍に依頼が来るのが一般常識だと言うのに! そんなにも領の運営に簡単に首を突っ込んでいたら大問題になるぞ!」
「え~っと、一応村長が領主に対策の請願に行ってるみたいなんっすけど、過去に一度対策をしてるからって追い返されたそうで……。それでオーヴがならばって……」
「そうなのか? ……はぁ。ここの領主は……確かなんちゃら男爵だったな。何て名前だったか……まあ、それは後で上にあげておくとして、医療系の治癒魔法士の手配を……ウェストフォース基地にじゃ時間が掛かり過ぎるな。イーストフォレスト基地なら早馬で半日あれば行って帰ってこれるな。よし、早馬を出すぞ! 各分隊長、話は聞いていたな。本隊は出発の準備を整えつつ暫く待機、村に向かわせる補助要員の選別を! それと、土魔法隊に出動の準備をさせておけ。後は……勝手に首を突っ込んだ大馬鹿者を連れ戻して出頭させろ!」
小隊長が指示を出すと、集まっていた各分隊長がそれぞれ動き出す。
「チッ、今年は南の連中を出し抜いて早く到着出来そうだったのに。また奴らにノロマだの何だの言われるのか」
「いくら距離が同じくらいだって言っても、あいつらは平坦路、俺らは峠を超えなくちゃいけないから当たり前なのにな」
「マジでくだらない事で上に立とうとするからな、あいつらは」
「本当に鬱陶しいよな。で、どうする? 相手が病人なら脳筋の連中は向かないだろ」
愚痴っていた分隊長たちも、次第に補助要員は何人必要でどの隊から何人出すのか議論しだした。
ふぅ、とりあえずおれの役目は終わったな……と思ったのも束の間。
ガシッと後ろから肩を掴まれた。
「お前は残れよ。まだ色々と話を聞かせて貰うからな」
「ええっ!?」
これで解放されると思っていたおれだったけど、そうはならない事にとんだハズレくじを引いたと項垂れるのだった。




