想定外と伝染病?
お待たせしました。
走り書きに近いので、乱文になっているかも。
「よ~し、じゃあ次はお嬢ちゃんだな」
「スゥちゃん、がんばれ!」
「うんっ! スーちゃん、がんばるっ!」
サリー姉さんのご指名で、さっきまで僕にスゴいスゴいと目を輝かせていた妹が、僕の声援に自分もと気合いを入れる。
それを見たサリー姉さんは僕の時のように顔を弛ませた……のだが。
「さあ、いつでも掛かっておいで。……うっ! えっ? おっ!? ちょっ、待っ」
やはり父さんと対等に打ち合える大人が相手という事もあってか、活き活きと僕のよりも細い木剣を振っていく。
するとサリー姉さんは父さんと同じようにそれを難なく捌いていく。
すると、楽しくなったのかいつも以上に手数を増やしていく妹だったけど……。
「ちょっ、待て待て、ちょっと待てぇ!」
サリー姉さんに止められた。
頭の上にクエスチョンマークをいっぱい並べた妹に、ハァっと息を吐いたサリー姉さんが剣を離した側の手を額に当てた。
「この小さな体で、よくもまあこんな手数の剣が振れるねぇ。一手一手は軽いんだけど……全く、想定外だよ。ああ、悪い悪い。もっとお遊びな剣の稽古を考えていたんだ、ちょっと考えを改めるよ」
そう言ってもう一度息を吐くと、さっきまでの優しそうなオバちゃ……お姉さんの顔は消え、さっきと同じ何処かカッコいい真剣な顔付きに変わった。
「まさかこんなにも小さい子にまで本気スイッチを入れておかなくちゃ危うくなるなんて、ね。あたいも焼きが回ったってもんだ。流石は実力で子爵にまで上がった家の子息子女ってとこかねぇ。結婚して子を産んだら冒険者に戻ろうかと思っていたけど、簡単じゃないかも……。こりゃ考えを改める必要があるかもね」
そんな事を呟いたサリー姉さんは、僕の時と同じような低い構えを取って妹との稽古の再開を宣言するのだった。
◇
「あっちは二名、動けない状態だよ」
「あちらにも三名、やはり罹患しているようです」
「もう私たちだけでは手が足りないわ、応援を呼ぼうよ!」
おいおい何だこれ、何だか大変な事になってきちまったぞ。
夜が明けた今、おれとメアが来ていた村にはR隊の新入隊員たち六人が合流して各家庭を確認して回っている。
R隊は主に同じ治癒魔法部隊であるS隊の補助や軽傷者の手当てに当たる部隊で、S隊よりも人数は多く隊の中で班に分かれているという特殊な隊だ。
能力的にはS隊に及ばないまでも、その重要性はS隊に劣る事はない。
その入って半年あまりの新人R隊員たちが村の中を確認して回っているのだ。
全部で12軒あった村の家の内、既に10軒回って20人以上が何かここにしらの体調不良で寝込んでいる。
これはメアに言わせれば異常事態で、既に伝染病として考えて良い状態らしい。
「どうして分かったんだ? 最初にここに来た時、まだ夜が明けてなくて暗かったのに」
「あんたバカ? 向かって来る時に話を聞いたじゃない。大雨で水が浸かったって」
「いや、それは畑の話だろ? この村との間にあるおれたちが野営しているところには水が浸かった跡はなかったじゃん」
「だからぁ。あそこは少し小高い場所なのよ。それに広場になっているから日当たりも良い。すぐ乾いちゃうのよあそこは。でも村をよく見てみて。所々に水溜まりが残ってるでしょ。それに、家の壁も下の方に泥が付いてる。たぶん床下浸水しているのよ、水は捌けたみたいだけど」
言われてよく見れば、確かにどの家にも変な跡がある。
さっきそこまで気付かなかったのは、下の方は別の材質で出来ているからと勘違いしていたからだ。
ここのように下に土台がない家はかなり古く、最近のは土台がある。
何十年か前から耐震性だか通気性だか何だかで、その土台を重要視されるようになった。
※作者注:シーシェリオンが土台と呼んでいるのは基礎の事。この勘違いは本編には特には関係ないので、このまま進める。
色々と話を聞くと、何やら前世を覚えている人の知識が元で広がったらしく、家の造り自体もうんとグレードが上がって使い勝手が随分と改善した。
爺ちゃん家みたいな古い家は味があるけど、今時の家に住み慣れると古い家は時々だけで十分だよな、冬なんてめっちゃ隙間風が入って寒いんだもん。
そうそう、横文字なんかもその前世を覚えている人が広めたものだし、魔石で動く家庭用魔動機を初めとした魔道具や魔動車も彼らの知識によって広まりつつある。
魔動二輪、良いよな~。
あれは男の乗り物だ!(偏見
っと、今はそれどころではなかった。
結局この村の住人は3分の2くらいの人が体調不良で寝込んでいた。
おれたちを連れてきた子が病気に罹ってなかったのは運が良かったとしか言えないと、メアは言う。
それと、領主に直談判に行った村長も戻ってから病気に罹ってしまったらしいけど、今の症状から直談判に行く前から罹っていたかも知れないと言う。
「……どうしよう、みんなが寝込んじゃってたなんて」
学校に通う年頃とは言えまだ小さなその子が村の存亡を心配するのは異常事態だ。
しかし、それに対してメアは力強く答えた。
「大丈夫、うちたちがきたのだから。みんな助けるから、ね」
「……ホント? みんな良くなるの?」
「ええ、あなたのお母さんだって顔色が良くなったでしょ?」
ニィっと笑ったメアに、その子の暗かった顔が明るくなった。
しかし、おれは気付いた。
母親の顔色は良くなったけど、まだ治った訳ではない事を。
魔力を送っただけで治癒魔法はまだ使ってない事を。
メアが振り返っておれの耳元で声を殺して頼み込んできた。
「兎に角、人手が足りないわ。シーシェリオン、もうひとっ走りお願い。うち、この手の伝染病に対応できる魔法はまだ使った事がないの。うちの隊かイーストフォレスト基地の治癒魔法部隊へ応援を呼んで貰わないと、対症療法での場凌ぎしか出来ないわ。それと、いくら治しても原因と思われるこの土のままじゃまた再発する。土魔法か何かで消毒か改質して貰えるように話をしてきて欲しいの」
「土魔法……Z隊か。ゼッタイならちょうどみんな同行してきてるけど……ゼッタイにそんな対応が出来るんかな。そういえばゼッタイと言えば……オーヴの方はまだやってんのか?」
言い出しっぺの仕事振りがどうなっているのか気になって朝日の眩しい東を手を翳しながら見上げた。
「ねえ、あのお兄ちゃん、本当に畑を直してくれるの?」
「ああ。さっき何度かあっちの空が光ってたろ。あれはアイツが魔法を使ったからなんだ」
「あれ、朝日かと思うくらい眩しかったよね! 何だか神様か天使みたいだったよ。普通は魔法ってあんなに光らないよねっ」
オーヴと別れてこちらに向かう途中、オーヴが畑に向かって魔法を行使した時に光ったのをこの子もおれも気付いて見てしまった。
暗闇の中で突然の発光だったから、目が焼けたかと思ったぜ。
でも、その様子が後光が射しているように見えたのも事実で……。
「ああ、あれは首の後ろあたりに光虫がくっついているからだよ。それが魔法を放つ度に光ってるみたいだな」
「えっ! 光虫ってあんな光るんだ! 初めて見た!」
「いや、あんなに光るだなんておれも知らなかったわ。何度か光ってたから、たぶん他の畑もやってるのかな。それともアイツが言ってた原因を潰しに? いや、まさか。流石にそこまで魔力はないだろ。それこそ地形を変えなきゃ対処なんて無理だろうし、何人かでやらないと出来ない筈……だよなぁ」
「お兄ちゃんも水の魔法使ってたし、やっぱり魔法士ってカッコいいなぁ。よし、学校で魔法をもっともっと練習しておらも魔法士になろう!」
未来の魔法士の決意を目の当たりにしてホッコリとしていたけど、今はそれどころではないと気を改めて、おれは野営中の隊がいる広場へと再び足を向ける。
内容的に、たぶん上の階級の人に報告しなくちゃ駄目なんだろうなぁと思い至り、深い溜め息を吐くのだった。




