ぼうけんしゃ?と未明の蛮行!?
雨続きで作業がストップして少し時間が出来たので、ちょっと頑張って書きました。
「やあ、おはよう。小さな可愛い隣人さんたち」
朝の稽古が終わり、朝食を済ませた僕たちが水の入ったじょうろを手に花壇の世話をしに再び外に出ると、門の外を通り掛かった見知らぬ女の人が声を掛けてきた。
それが誰なのか、僕も妹も分からずにお互い顔を見合せて首を傾げる。
「おや、分からないかい? まあ昨日は普段滅多にしない化粧を目一杯されて別人のような顔になってたからね」
「きのう?」
「……あっ! およめさん!」
妹がそう声を上げると、その女の人はニッコリと相槌を打った。
その別人とも言える程の変わりように、僕は記憶の中のおよめさんと目の前の女の人を見比べて目を瞬かせた。
はっきり言って昨日のおよめさんと同じなのは、日にやけた肌と高い背丈、あとは鼻筋くらいじゃなかろうか。
なんてったって、記憶の中のおよめさんはもっとシュッとしてキリッとしてほんわかしたとても綺麗な人だった。
ところが今目の前にいる人は、どことなく男性的な身体つきで勇ましく目付きが鋭い少し恐い雰囲気を纏っている。
目も顔の輪郭も昨日のおよめさんとは別人に見えるのだ。
そして何より、昨日の純白無垢な華やいだドレスではなく、肌の露出は多めなのに華やかさや飾り気のない茶や黒っぽい無骨な、服とも言えない服装を身に纏っていて、少しふくよかに見える顔や慎ましくも谷間のある膨らんだ胸が女性らしさを辛うじて主張している。
「あ~、昨日とは別人に見えるかい? あたいも昨日は自分が別人に見えたからね。これが本来のあたいだよ。化粧ひとつで目付きが変わって顔の輪郭まで変わっちゃうんだから、化粧の力は偉大だって改めて感じたね。お陰で昨夜は凄かっ……おっと、子供にはする話じゃないよね」
少し顔を赤らめてはにかんだその人の顔を見て、漸く昨日のおよめさんに僅かながら雰囲気が重なった。
ああ、昨日の白いおねえさんだ。
それにしても……と、僕は瞬きをし終えると、ある一点に目を奪われた。
「ん? ああ、剣か? こんなのあんたんとこじゃ珍しくも何ともないだろ。何たってあんたんとこは親父さん……っと、お父さんかな?や、お爺さんも軍の人間なんだろ?」
「……んと、おばちゃ……」「お姉さん、な。お・ね・え・さ・ん!」
「……おねえさん、は、ぐんのひと? なんかちがう……?」
「いや、あたいは冒険者さ。この剣で害獣や魔物を狩る、な」
「「……ぼーけんしゃ? がいじゅー??」」
おねえさん……サリー姉さんの言葉に、僕も妹も首を傾げた。
魔物は何度も恐いものだって聞かされていたけど、ぼーけんしゃやがいじゅーは初めて聞いた。
「冒険者ってのはな、軍とは違って自由に害獣……悪い動物や魔物を狩ったり、困っている人を助けたりする仕事なんだよ」
「「おお~…………ん??」」
分かったような分からないような微妙な状態に、またもや二人で首を傾げる。
理解するには知らない言葉が多過ぎた。
「あ~、まあ何だ。とにかく、剣を使う仕事さ」
「おおー!」
「スーちゃんねー、けんでおけいこしてるんだよー。オーちゃんもいっしょー」
「わわっ!」「「あっ!!」」
そうじょうろを持った手でゼスチャーするものだから、妹はサリー姉さんに入っていた水をぶっかけてしまった。
露出した肌に弾く水滴。
昨日のまばゆい純白の姿も美しかったけど、朝の光を浴びて光る水滴を帯びた健康的な肌がとても眩しく、且つ何かいけないものを見たような感覚になって、思わず顔が熱くなった。
「あははは、気持ち良いね! 少し寝不足でぼんやりしていたけど、やっと目が覚めたよ」
妹と一緒に僕も謝ろうとしたけど、サリー姉さんは笑って済ませてくれた。
今思えば、サリー姉さんが気を使ってくれたんだろう。
初夏の陽射しに暑さを感じる時期だったとはいえ、水をぶっかけられて良い気分になる筈がない。
それを笑い飛ばしてくれたのは僕たちが幼かったのと、ご近所さんになる家の、それも貴族の子だったからなんだろう。
「そんなの子供が気にするんじゃないよ。子供は元気が一番だからね。で、あんたたち剣の稽古をしてるんだって? こんなに小さいのに……お遊び、だろうけど流石は子爵家ってところだね」
「?」
「……ねぇねぇ、おねいさんはけんはじょうずなの?」
何が流石なのか良く分からずに首を傾げていると、目を輝かせた妹がサリー姉さんに質問を投げ掛ける。
僕たちからしたら剣を持っている大人はみんな剣が上手なんだと思い込んでいて、当然の答えが返ってくるものだと分かっているのに、妹はその聞くまでもない質問を投げ掛けたのだ。
何が言いたいんだろうと僕だけでなくサリー姉さんも首を傾げる。
「ん? まあ、それを生業にしているからね。少なくとも下手ではないつもりさ」
「ホント!? じゃあね、じゃあね~、――――」
翌朝から稽古相手が増える事になった。
◇
「あ~もうっ! 最悪っ!」
夜が明けて起床時間になり寝具から這い出た私は、重たい瞼を無理やり開ける為に流れる岩清水を掬って顔を洗った。
もう10月末、朝の空気は随分とひんやりしてきた事もあって濡れた顔に当たる風が冷たく感じ、漸く頭がシャキッと冴えてきた。
「どうしたんだい、ケイ? あんた、寝起きはそんなに悪い方じゃなかった筈だろ?」
一緒に着替えを終え顔を洗いに来ていたミーシアさんが、手拭いで顔を拭きながら声を掛けてきた。
「聞いてくださいよ~。あの馬鹿、夜中に私に抱き付いて来たんですよ! あいつ寝相は悪くないって言ってたし、それなりのスペースを取ってた筈なのに! あ~もうっ! また胸を触られた感触が蘇ってきた~」
「何だい、そんな事があったのかい。……そういや夜中に何やら騒がしかったような気もするねぇ」
「みんな、ぐっすり寝てましたもんね。私、思わずあの馬鹿を叩き出してやりましたもんっ」
天幕は一隊毎にひとつの割当で、男女別けられるのは上位クラスの隊くらいであとは混合。
新人研修の今回は特別で他の子たちは男女別の天幕が大半だったのに、私は古巣のZ隊が丸ごと行くという話になり、そこに同行する事になったのが運の尽きで、本来の男女混合の天幕になってしまった。
流石に着替えは気を遣ってくれて男の人たちは天幕を出てくれてたけど、行軍演習なんかでは有事にそんな事は言ってられないからと時間が優先されて着替えも男女一緒らしいのよね。
まあ土魔法隊はY隊もZ隊もその辺りは弛くて、今のところずっと別々で済ましてくれてるから助かってるけど。
で、天幕の中では、奥側を私たち女性二人に場所を割り振られ、入口に一番近いところを魔除け(?)にロドクアさん、イビキのうるさいドアードさん、隊長ときて、後は序列順にワスタークさん、ハングマンさん、そしてあの馬鹿の順に並んで寝たんだよね。
「まあ、胸を触られたくらいでそんな騒ぎなさんなって。軍にいたら男女混合で軽装で取っ組み合いをするなんて事もあるんだし。胸どころか股もバンバンまさぐられるんだからね」
「……噂では聞いてましたけど、それってホントなんです? 私たちもやるんですか?」
「あらゆる有事に備えて対人戦の訓練を、って事なんだけどね。まああたいたち後方部隊はせいぜい年に一度だよ。それも相手を選ばせてくれるから、女を指定したって構わないよ。男に逆指名される事もあるけどね」
「うげぇ。絶対拒否したいんですけど」
「あたいとしちゃ、真冬のクソ寒い中を短パン肌着でやらされる方が嫌なんだけどねぇ。ところで、その追い出したお相手が見当たらなかったんだけど。まさか何処かでハグレ魔物に喰われちゃってんじゃないだろうね」
真冬に短パン肌着姿を晒させられるだなんて恐るべし罰ゲームのような話に戦慄を覚えつつ、ふと周囲を見渡す。
そう言えばあの馬鹿の姿を見ていない。
でもまあ……。
「追い出した後、剣だけでも持たせてくれって懇願されたんで渡したから、それは無いんじゃないですかね。案外何処かで未だにその剣を振っているのかも」
あいつ、馬鹿だし。
そう心の中で思っていると、ミーティングに行っていた分隊長が何やら難しい顔をして戻ってきた。
「おう、やっと起きたか。今日の移動だが、予定より出発が遅れる。支度が出来た後は次の指示があるまで待機だ。たぶんうちの隊に出動要請が来るからそのつもりでな。ったく、あの馬鹿がまた何かやらかしたらしい」
頭をガシガシと掻きながら隊の男たちがいる天幕へと足を向ける。
「分隊長、あの馬鹿って、オーヴの事ですか?」
「ああ、そうだ。オーヴの馬鹿だ」
「やらかしたって、一体何があったんだい?」
「ハッキリとは分からないんだが、地元の畑に広範囲の農業系魔法を掛けたらしい」
「それって……」
「もしかして、豊穣の舞かい?」
「たぶんそうだろうな。目的の畑の範囲を越えて全く無関係な畑まで耕したとか何とか。更に……」
「更にって、まだ何か!?」
「無断でR隊員を連れ出したとか、領主案件に首を突っ込んだとか……はぁ……」
「……この後、確認に行くんだろ? お疲れさん」
ミーシアさんが大きな溜め息を吐いた分隊長の肩を叩いて慰めるのを見て、私も思わず溜め息が出た。
まったく何やってんのよ、あの馬鹿はっ!
事件は夜明け前の4時前、私も時々目が覚める時間帯の出来事でした。
てか、ホントこの短時間に何しとんねんな。
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