花嫁行列と謎の妹
お待たせしました。
約1ヶ月振り……申し訳ありませんっ!
お詫びにもなりませんけど、今回はちょっとだけ長めですっ!
「ねぇねぇ、あれなぁに?」
しゃがみこんだ母さんを立たせるのにちょっと苦労した後、庭の散歩を続けていると何かに気付いた妹が垣根の外を指差す。
そこにはゆっくりとこちらに移動してくる人垣が。
「あら、もしかして……。二人とも、ちょっと見に行きましょうか」
お伺いの形を取る母さんだけど、興味を持った僕たちに拒否の選択肢はなく三人で向かってくる人の列の方へと近付いていく。
そこには……。
「ふぁ! きれい! ねぇねぇ、あれなぁに!?」
「ふふふ、やっぱり。斜向かいのスレンダーさんのところに来たお嫁さんね」
「「およめさん?」」
「そう。あそこにスレンダーさんのところのお兄さんがいるでしょ。あの人が近々結婚するって聞いていたけど、それが今日だったのね」
「「けっこん?」」
この時は僕も妹も、結婚が何かお嫁さんが何か分からず、目を瞬かせて首を傾げ、僕と顔を見合せるのだった。
「そうね、結婚ってのは好き同士な男の人と女の人がずっと一緒にいようねっていう約束をする事なの」
「ずっと一緒?」
「そう、何があってもずっと一緒。二人がお父さんとお母さんになっても、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、楽しい事だけじゃなくて喧嘩をしても病気になってもずっとずっと一緒。死んじゃうまでずーっと一緒にいようねって、とても大事な約束」
ずっと一緒の約束。
それを聞いて、僕たち二人は目をぱちくりと瞬かせて再び僕と顔を見合せた。
「ねぇねぇ、けっこんしたらおよめさんになれるの?」
「そうね、結婚式を挙げれば着られると思うわよ」
「ほんと!? じゃあスーちゃんもおよめさんになれる? スーちゃんもおよめさんになりたい!」
「あらあら。スーちゃんも大人になったらきっと素敵なお嫁さんになれると思うわよ」
「ほんと!? じゃあねー、スーちゃんおかあさんとオーちゃんとけっこんするっ!」
「あらあら。お母さん嬉しいけども、お母さんとは結婚できないのよ?」
「え~? どうして~?」
「お母さんはスーちゃんとは親子だからね。親子は約束しなくても親子、喧嘩しても親子、何があってもずーっと親子なのよ」
母さんと妹がそんな事を話している傍らで、僕はゆっくりと近付いてきたその一向の中の花嫁の姿に釘付けになっていた。
一般に出回っている白い服よりも遥かに突き抜けた白さのドレスに身を包み、それまで見た事もない華やかな髪型、化粧で整えられた顔は切れ目がちな目筋が紅く染められた唇と相まって、その姿を更に際立たせていた。
周りを取り囲んで一緒に進んできた人たちの手には花束が。
よく見ればすれ違う人や一向を見に出てきた人たちに花を一本づつ手渡している。
思わず花を貰った側も花を積極的に手渡した側も、満面の笑顔だ。
「あら、トワちゃん。見に来てくれたのね。はい、お花」
「おめでとうございます、ミストさん。お嫁さん、綺麗な人ね。良さそうな人じゃない」
近付いてきていた一向に母さんが拍手を向けていると、その中から見知った顔が満面の笑みで駆け寄ってきた。
僕たちも知っているはす向かいのおばちゃんだ。
おばちゃんが手にしていた花を母さんに一房手渡すと、母さんは祝福の言葉を伝えた。
「ありがとう、トワちゃん。まあ良い子ではあるんだけどねぇ……」
「あら、何かあるの?」
「ええ、聞いてよ。それがねぇ、あの子、今は随分と猫を被ってるけど……」
含みを持ったおばちゃんの言葉に、母さんが静かに食い付いた。
そんな大人の(?)会話には興味を持たず、僕たち二人の目はすぐそこまで近付いていた花嫁の姿に釘付けだったが、その花嫁がこちらの方に気が付いて足を止めた。
「お義母さん、お知り合いですか?」
「ああ、サリーちゃん。こちらははす向かいさんになるサムスウェーター子爵婦人のトワラリーヌさんよ。トワちゃん、うちの新しい家族になるサリスタシアよ。よろしくね」
「サリーと呼んでください、子爵婦人」
「あら、私もトワと呼んでちょうだい。うちは子爵って程堅苦しくはないし、私自身平民出だから」
「ええっと……良いんですか? お貴族様に向かってそんな風に……」
「良いの、良いの。ご近所さんに堅苦しくさは必要ないわ。堅苦しいのはお仕事上でだけで十分」
「じゃあ、お言葉に甘えて……。トワさん、こちらはお子さんですか?」
「ふふふ、二人とも貴女に釘付けね。三男のオーヴちゃんと長女のスフィアちゃんよ」
「二人とも、よろしくね。サリーとかお姉ちゃんって呼んでね」
中腰になって僕たちに声を掛けてきたお姉さんに対し、僕は顔を紅く染めて母さんの後ろに隠れる。
そして、妹もまた母さんの反対側から後ろに隠れた。
「あらあら、恥ずかしくなっちゃったの? まあ、こんなにも綺麗な人は初めてでしょうし、無理もないわねぇ」
「う~ん、子供には好かれる方なんだけど……この格好がいけなかったかなぁ」
真っ白なドレスの胸元を少し引っ張りながら口を尖らすお姉さん。
ここにいる誰よりも日にやけた健康的な肌が更に露になる。
母さんより慎ましいその胸の膨らみに僕の視線が釘付けになり、更に顔が熱くなるのを感じて漸く視線をそこから外す。
何か見てはいけないものを見たような初めての感覚に、僕は戸惑うばかりだ。
当のお姉さんはおばちゃんに止めるよう窘められ、後ろに隠れる僕たちにペロリと舌を出す。
「……今日一日は我慢なさい、サリーちゃん。本当はずっとおしとやかにしていて欲しいところなんだけど……無理よねぇ」
おばちゃんの大きな溜め息の理由は翌日に知る事になるのだけど、サリーさんはあまり堪えた様子もなく立ち上がると、母さんのお腹に視線を落とした。
「もしかして……もうすぐお産まれに?」
「ええ、もうじきこの子たちの弟か妹が。楽しみなのよね。ね~、二人ともお兄さんお姉さんになるからねから、ね~」
「あの~、ちょっと触っても?」
母さんに断りを入れたお姉さんは、おずおずとその大きなお腹に手を当てる。
「ここに赤ちゃんが……何だか不思議。女の人が子供を産むって、頭では分かっているけど……」
「あら、貴女だって結婚したんだから、その内に産む事になると思うわよ?」
「あ、あたいが!? 子供を?」
母さんに言われて目を丸めるお姉さん。
その後ろにはいつの間にか寄り添うように立っていた花婿のお兄さんが、顔を赤くして斜め上を向いていた。
「あら、私ったらついうっかりしてたわ。あなたたちにも、はい」
おばちゃんから花を一本づつ受け取った僕と妹は、何となくその場の雰囲気に気恥ずかしさを覚えたまま家に帰るのだった。
◇
「確かに、そう中途半端に出し惜しみされると気になるねぇ。まあ、何なら本人交えてぶっちゃけちゃえば良いんじゃないかい? おーい、そんなところで首を傾げてないで、こっちに来い!」
えーっ!! ミーシアさん何やってくれちゃってるのー!!
ただでさえ口にし難いのに、何でハードル上げちゃってるのよー!!
「え? 妹? 実の妹だよ? たぶん僕は父さん似で、妹は母さん似らしいんだ。小さい頃の僕は小さい時の兄たちにそっくりだって言われてたな~、髪の色が違うし今は全然似ても似つかないけど」
私が言い淀んでいたのは、兄妹で全然似ていないって事。
髪や目の色どころか、兄妹なら骨格が似るだろうから顔の輪郭だって似てくると思うんだよね。
ところが、どう見ても赤の他人にしか見えなかった。
本人とは交友がなく授業とかで必要事項しか口を聞いた事がないから、本人にそれを指摘した事は無かったし、他のクラスメイト達はその妹の容姿や頭の良さをべた褒めしてたから、その説を披露した事もなかったのよね。
ところが、蓋を開けてみれば私の女の勘は見事に大ハズレ、恥ずかしいったらありゃしない。
良かったわ、今まで他の人に言わなくて。
今回は勢い余って口が滑っただけ。
「……って、何だい? たぶんとか、らしいって」
「あ~、最近は二人とも誰にも似てないって言われるようになったから。と言っても滅多に会わない人から知らない親戚の人に似てるとか言われるかな?」
「ああ、親戚の色眼鏡あるあるだね。身近な人間の似てるところを無理やり当て嵌めようとする」
「おお、そりゃ田舎のジジババによく見られるのう。まあそう見えん事もないかのうというレベルの」
「いや、ドアードも偶にそういうところあるから」
うわっ吃驚したぁ、またもや分隊長が後ろから!
ちょっとマジで心臓に良くないから、私の後ろで気配を消さないで欲しい。
「で、どうやってその妹が一年の時から遠征に加わる事が出来たんだ?」
「え? いや、妹曰く、お願いしたら良いって言われたからだって聞いてるけど……」
「うっそだー! 私聞いたわよ、学園長を脅したって!」
「はあ!? 学園長を脅したじゃとぉ!?」
「いやいくら何でも学園長を脅しちゃ駄目でしょ」
「流石にそれはないと思うわよ 。入学したての一学生が学園のトップを脅すなんてぇ」
え~、全否定デスカ……。
「わ、私だって聞いた話だから本当にそうなのかまでは知らないんだけど、話を聞く限り信憑性が高いのよ。学園長室に乗り込んで行ったのを目撃したとか、満足な顔で出てきたとか、教頭に学園長がぼやいていたとか……そんな話を聞いたら信じざるを得ないでしょ!?」
「……マジか」
「信じられんのう」
「一体どんな脅し方をしたんだい?」
「……本当の話なら怖いでありますな」
「それホントなら良い性格してるわね 」
「てか、まさかオーヴの家ってかなり位の高い貴族だとか?」
Z隊のみんなの意見の締め括りはハングマンさん。
確かに、そんな我が儘とも取れる事をやってのけられるのは高位貴族の子弟くらいしか思い浮かばないだろう。
でも、そのくらいで折れるようじゃ、魔法学園の学園長は勤まらない。
不正が横行するような機関では国立たる威厳が失われる以外にも、卒業してから実際に現場に就職した時に何を学んできたのだという負のレッテルを貼られてしまい、学園の存続にまで影響が出てしまい兼ねない。
だからこそ、相手がどんな高位の貴族だろうが王族だろうが、成績には一切の手心は付けないのがマストであった。
そんな中でのオーヴの妹の蛮行が許された理由が全くもって理解出来ないんだ。
当然、学園の生徒たちにも同じような結論に至る者が続出したんだけど、それはあっさりと本人の口から否定された。
「いや、貴族って言えば貴族なんだけど、単に軍人一家の子爵なだけだよ」
「……子爵の息子じゃったんか、オーヴは」
「軍人一家ねぇ、それで一人前に帯剣しちゃってるのね 」
「それで躊躇なく魔物に向かっていったという事でありますか。納得であります」
「しかし軍人で子爵は、それなりの功績がないと至れないんじゃないかい?」
「あっ、確かに。普通なら一般の軍人は準男爵や男爵止まりですよね」
そう言えば、学園ではそんな話はあまり出回っていなかったな。
どれも有り得ない噂話ばかりだった。
一番有り得なかったのは、あの女……もとい妹が実は王様の隠し子じゃないかって噂。
夏でも長袖を着ているから、何かしら決定的な目印が付いているとか何とか噂が出回っていたけど、何やら酷い怪我の痕を隠してるって話だっけ?
流石に女の子でそんなのがあったら、気の毒で問い質せないよね。
「てかさ、うちの妹は本当にお願いして遠征に付いて来れるようになっただけだって言ってたんだけど」
「……それ、本当に信じてるの? 普通はお願いしただけじゃ叶わない事なんだけど」
「えっ? そうなん? でも、あの時は担任も普通に紹介していたよね」
「いや、そうなんだけどね、それはそれでそうじゃないと思うわよ」
「何だよそれ。よく分からないんだけど、うちの妹に限って人を脅すなんてする筈がないじゃん」
あ~駄目ダメ。
こんな言い方したからか、コイツ口を尖らせて不機嫌になっちゃったじゃない。
こんなんなったら、もうどんな指摘をしようが否定するに決まってる。
別にコイツを怒らせたい訳じゃない、あの妹がどんな手を使ったのかが知りたいのよ。
その方法によってはコイツの妹が危険人物なのかどうかが分かるって事だもん。
「まあまあ。教えてくれるかどうかは別にして、今度オーヴが妹さんに会ったらどんな方法で一年の時から遠征に同行させて貰ったのかを聞いておくって事で。それよりも、オーヴは夕飯を待っている間、ずっと剣を振っていたのか?」
妹の話はこれで終わりとばかりにハングマンさんが声を掛けて話を逸らしてくれたけど……、助かったぁ!
このまま話を続けてたらどんどん泥沼化しそうだったから、ナイスアシストだわ!
そんなの私だって望んでないんだもの。
それに、Z隊にはこれこっきりで関わらないようにしたいんだけど、学園新七不思議のひとつくらいは明らかにしてみたいもの。
新七不思議の半分以上はコイツと妹絡みなんだよね。
「まあ、半分はそうかな。もう半分は知り合いと軽く打ち合っていたけど」
「あら 。遠くで剣を打ち合う音がしてたの聞こえてたけどぉ、オーヴちゃんだったのね 。どこの誰とぉ?」
「いや、この前のブラックドッグの件で一緒に叱られてた一般兵の……。一人で剣を振っていたら交ぜろって」
で、振るだけじゃ詰まないから打ち合おうって話になったみたい。
流石は男の子、野蛮ね。
ま、軍人なんだからそれが当たり前って言えば当たり前なんだけど。
でも、魔法士ならもっと優雅に出来ないものかしら。
何の為の魔法なのやら……。
「さあ、飯も食い終わったし、もう寝る準備をしろよ。明日は昼までに目的地に入るからな」
周りの隊を見れば殆んどの天幕から灯りが消えていて、見回り番の焚き火だけになっていた。
晩御飯の作り直しに時間が掛かったから、ほぼ最後まで食べてたみたい。
他にも遅くまで晩御飯に時間を取られてた隊もあったけど、その隊も既に歯を磨いたみたいで静かになっていた。
……ほぼじゃなくて正真正銘の最後じゃないのよ。
はぁ~、これだからZ隊は……。
いや、今日はアイツのせいだよねっ!
溜め息を吐きながら分隊長の号令で片付けと寝る準備をして、漸く移動二日目が終わった。
折角の復活ですが、まだまだ暫くの間、執筆に時間が掛かりそうです。
片付け作業はコツコツ進めて8割が終わったのですが……何故か並行して土木作業が発生しまして……(謎
もうしばらくの間レスポンスが悪くなりますが、ご了承ください。
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