逃げ出す僕と比較は例えるなら……
暫く道伝いに進んでみたけど、見た事のない店ばかりだ。
「……こんなところ、しらない」
とは言え、知らないのも当然で、碌に周りを見ずに目的の店だけを探していたのだから。
「どうしよう……スゥちゃんもケンちゃんもいないし……」
兎に角、進めば知っている場所が出てくる筈だからとそのまま進む僕。
「 」
次第に鼻がつんとして目に涙が溢れてくる。
「スゥちゃーん、ケンちゃーん!」
泣き声で商店街を小走りで進めば次第に視線を集める。
「ボク、大丈夫?」
お姉さんが見兼ねたのか声を掛けて来たけど、僕は返事もせずにそこから逃げるように走りだしたのだった。
◆
「……別物って、どう違うんだよ」
Y隊の隊員の一人が、一瞬の静寂を破ってヒノマさんに問い質す、心底嫌そうな表情で。
どうしてそんなにも眉間に皺を寄せる程嫌そうな顔をしているのか、僕には分からなかったけど、ヒノマさんは何となく分かっているようだ。
「魔法の出来の良し悪しや魔力量の差ではない事は薄々感じているのではないか? だからそんな表情をしているんだろ」
「……ああ。先程ここにいる隊員全員で堅地整成を重ね掛けしてみたが、こいつの魔法の硬さにまで近付く事も出来なかった。これはもう、全く別の魔法と考えて良いのだろうが……それは新人のこいつに我々が……」
そのまま言葉を濁すY隊の分隊長。
う~ん、嫌そうと言うよりは悔しそう?
僕が首を傾げていると、ヒノマさんはY隊の面々にドヤ顔で語りだした。
「さっきの俺の魔法一発で吹き飛んだお前らの魔法と、残ったこいつの魔法の違いは硬さだけじゃない」
「は? 硬さだけじゃない?」
「どういう事だ? 硬さだけじゃないって」
Y隊の隊員たちが首を傾げつつ眉間に皺を寄せる中、僕も一緒に首を傾げる。
「そうだな、硬さだけじゃなく粘りもあるから耐久力がある」
「粘り?」
「ああ、粘りだ。それだけじゃないぞ」
「まだ他にもあるのか」
「おそらくお前らの魔法は魔力をセーブするのに薄く表面を覆っているのではないか?」
「ま、まあそうとも言うな。破られたらまた張り直さなければならない。何度も魔法を掛ける必要があるから、魔力を残しておく必要がある。おそらく、だからこそ堅地整成は表面を覆うよう開発された魔法なんだろう」
分隊長がそんな考察を口にすれば、隊員たちからはそうだったんだと感心する声が聞こえてきた。
へ~成る程ね、土魔法小隊では堅地整成を脈々と受け継ぐように昔から伝わってきてるって聞いたけど、昔の人たちはそんな事を思って開発してたのか。
こういう意味のある歴史って、知ると中々に面白い。
しかし、ヒノマさんは更に続ける。
「だろうな。魔力量が限られているからって理由で質より量を採ったんだろう。だが、それが今回の差に繋がったと考えられる」
「質より量……だと? そんな馬鹿なっ」
「堅地整成だってそれなりの魔力が必要なんだぞ?」
「ああ、何度も連続で掛けようとするとぶっ倒れそうになるしな」
「でも……確かに堅地整成は一時しのぎの術だと前に聞いた事がある」
「て事は、裏を返せば……堅地整成より強力な術があるって事か!」
「……てかお前ら、忘れたのか? イーストフォレストの堤の補強魔法の事。お前らも研修で行っただろ」
そんなヒノマさんの言葉に首を捻る隊員たちに、分隊長が苦言を呈する。
知らない筈はないだろうと。
すると、僕以外のY隊の隊員たちが、あっと思い出したように声を上げる。
え? 何? 何なのこの空気は。
「そう言えばそうだったな」
「あそこの堤の斜面はかなりの硬さだったよな」
「その為に、保守要員の土魔法隊員の配置がかなり広く取られてたから、オレ凄く驚いたわ」
「そうそう、こんなにも広く取っていて大丈夫なのかってな」
「実際のところ、あれでも余裕があるらしいけど、一度補修して補強するとダウンしてしまうって聞いた記憶が……」
「なんでそれを早く思い出さなかったんだよ。お前、まだ三年前の話だろ?」
「オレは15年前の話だわ、完全に忘れてた」
「俺は7年前……意外と忘れているもんだな」
自分もだと方々から同意の声が聞こえてくるのを聞いて、Y隊の分隊長が呆れ返った顔で溜め息を吐き、呟いた。
そんなんだからこのウェストフォースから抜け出せないんだよ、と。
「そろそろ俺も時間がなくなってきたから話を戻すぞ。でだ、お前たちの魔法だと、薄い上に脆い。まるでペラペラのガラスのように。だから俺の威力無視した弱い炎弾くらいで簡単に破る事が出来る」
「ガラス、だと……?」
「じゃあこいつの魔法は鉄板並みって事か?」
「ガラス呼ばわりは納得いかないが、結果が全てか……」
「ガラス対鉄板か……もう少し頑張って近付けてみようかな」
隊員たちが悔しさを滲ませつつも、向上心を垣間見せた。
たぶんだけど、Y隊とZ隊の差はこの辺りだろうな。
向上心のあるY隊と、自分たちが楽になるように僕を指導するZ隊。
ここに来てからのZ隊は、何となくだけどそんな感じだった。
が、ヒノマさんは追い打ちを掛ける。
「ガラスに例えるなら鉄板では済まないぞ? お前らのがガラスなら、こいつのは分厚い城塞の扉だ。因みに、こいつのが鉄板ならお前らのは紙だな」
な、なんだってぇ!?




