疲れと火魔法小隊
「ねえ、まってよ~」
「ケンちゃん、はやく! たまごがなくなっちゃうよ!」
「ケンちゃん、はやく~」
スタスタと前を行く僕と妹に、ケントは徐々に追い付けなくなってきていた。
それに対して僕や妹は全然平気で、駆け出したいのをグッと我慢していた程だ。
これには訳があって、出掛ける前に母さんもサーファも口を酸っぱくする程走らないように言い聞かせてきたんだ。
それを守って歩いてはいたのだけど、サーファを交えて散歩した時と比べればかなりのハイペースで来ていたようだ。
「ボク、もうあるけなーい」
終いには座り込んでしまったケント。
三人で遊んでいる時にもよく見る姿だ。
だからと言って、まだ素直にそこで休憩をするという優しい発想になる年代でもなかった僕は、妹と共にケントに容赦なく発破をかける。
「えー? もうなの? たまごなくなっちゃうよ?」
「ケンちゃん、がんばって~」
「ん! ボクがんばるっ!」
当のケントも、そんな僕たちの声に直ぐに立ち上がって付いてくる。
そう、ケントの歩けないという言葉はただの甘えなのだけど、そうだと知ってか知らずか僕と妹はいつも通りに遅れて付いてくるケントに気も止めず、どんどんと進んで行くのだった。
◆
「えっ? いや、どうやったかって言われても……」
赤色の制服、火魔法小隊のD分隊の面々を前に、僕は昨日の説明を求められていた。
堤を飛び越えようとしたブラックドッグを妨害しようとして、足場にしようとしていた岩場に咄嗟に豊穣の舞を掛けたんだけど、それが魔力暴走を起こした。
それ以上でもそれ以下でもない。
昨日そう何度も報告した内容を再び説明するけど、D分隊の分隊長は到底納得していなさそうな顔だ。
もう基地に向かわないと遅刻する時間なのだけど、基地にはこちらで現場検証に立ち会っている旨を連絡しておくから心配しなくて良いと言われてこの仕打ちである。
「だからっ! どうやってこの硬くなった岩場にあんな穴を開けられたんだと聞いている!」
「そんな事を言われても……。単に魔力暴走でそうなったとしか……」
「俺たちが全員掛かりで爆破魔法を放ったのに、びくともしないのに?」
「威力のある分隊長が加わって魔力暴走気味にしたのにだぞ?」
「一体どんな魔法を使ったらあんな威力になるってんだ!」
「そもそも土属性のお前が爆破魔法を使うだなんてどう考えたっておかしいだろ!」
「いや、爆破魔法なんかじゃなくて農耕の魔法が魔力暴走しただけだってば!」
僕の回答に痺れを切らしたのか、それまで黙って聞いていたD分隊の隊員たちが僕に詰め寄ってきた。
こ、怖いよあんたら!
「まあまあ、待て。話を聞いていたが、自分たちの能力がこいつより劣っていただけって事もあるだろ。人のせいにしていちゃ何も身に付かないぞ?」
「何だと!? 俺たちがこいつより劣っているだと!?」
「聞き捨てならないな!」
「我々D分隊16人がゼッタイの新人一人に劣るって有り得ないだろっ!」
「ってか……誰だあんたは」
それまで僕に向いていたD分隊の目が僕の後ろに向く。
正直悪意まであった目が僕から逸れるのはホッとしたけど……ヒノマさん、付いてきちゃったんだ。
D分隊の分隊長に連れられて、今までいたシーラー魔道機の実験場から軍が管理している堤の前に場所を移した僕だったけど、ヒノマさんまで軍の管理地に入り込んでいた。
「ふむ……成る程、これは言う通り俺も知らない硬さになっているな。これはお前一人でやったのか?」
「ええっと、まあそうだけど……今はそれより……」
「いや、だからぁ! あんた誰なんだよ。ここは軍の管理地なんだぞ?」
「一般人が勝手に入ってきちゃいかん事が分からんのか?」
「早く出ていけよ。でないと、拘束させてもらうぞ!」
「ん? まあまあ。そう目くじらを立てなさんなって。ここは俺の顔に免じて一緒に解析をしていこうじゃないか」
「はあ? 何を言っているんだ、このオッサンは!」
僕が堤に補強魔法を掛けたものの誤って広範囲に掛かってしまった岩場を触って興味深そうに僕に問い掛けるヒノマさんを、D分隊の面々が詰め寄ろうとする。
しかし、ヒノマさんはそれを意に介さないでカチコチになった岩場を見上げ見渡している。
……この人、強いな~。
僕も学校や魔法学園で散々嫌味等を言われ続けてスルーする事を覚えたけど、こう面と向かって攻撃されるのにはいつまで経っても慣れない。
妹はそういうのには慣れてるみたいだけど。
しかし、その流れを止めたのは暫く首を捻っていたその分隊長だ。
「あなたはもしや……火の魔王の!?」
「え?」
「火の?」
「魔王?」
「おう、俺を知っているのか。そう、俺は……」
ヒノマさんがニヤリとした後、肩幅に足を拡げて左手を腰に当て、右手を左側の腰に回して……スカった。
何だかデジャヴを感じるこの流れは、マさんと同じあの格好良い自己紹介を?
「っと、そうだった。剣はやっちまったんだった。やっぱり格好を付けるには相応の剣は必要だな……」
あの一連のポーズをしようとしたのだろうヒノマさんの右手が宙を舞い、動きが止まってしまった。
何とも言えない空気が漂う中、一人ワクワクしていた僕は、そっと腰に差した新しい剣を抜いてヒノマさんに手渡すのだった。




