花摘みと魔力暴走失敗?
「つぎはきいろいおはなー!」
「こんどはしろいおはなー!」
「あかいおはなもー!」
木剣の稽古が終わった僕たちは、朝ごはんを済ませると家の中に飾るお花を摘みに庭をあちこちと走り回った。
普段ならいつもは母さんがそれをしていたのだけど、最近は大きなおなかを抱えていて、あまり動けなさそうだったからだ。
「ま、まってよ~」
「ケンちゃん、おそーい!」
「ケンちゃん、はやく~ぅ」
うちに来た時にしか稽古に参加しないケントは、僕と妹に置き去りにされる事が以前にも況して多くなった。
稽古のある天気の悪くない日は走り込み(という名目の追い駆けっこ)もしている影響だったのだろう、毎日する僕たちとの差がどんどんと開いていっていた。
しかし、元々僕たちよりも転びやすかったケントだったが、この頃にはその回数も減ってあまり転ばなくなっていた。
「オーくん、はやいよ。まって~。あっ!」
「あっ、ケンちゃんまたころんだ!」
「けんちゃん、だいじょうぶ~?」
しかし、全く転ばない訳ではない。
僕たちに追い付けなくなってきた頃になると結構な頻度で転ぶようになるケント。
直ぐに疲れちゃうみたいだ。
だから肝心のお花はケントには持たせずに僕と妹が持つ。
お花を持つのはボクの仕事だとケントはよく言うけど、直ぐに折れちゃうし。
さあ、今日も母さんやサーファは喜んでくれるかな?
◆
「魔力暴走するとどうなるんだ?」
光虫の件を一旦棚に上げて、魔法の練習に戻ると、ヒノマさんがふと思い付いたように聞いてきた。
「どうって、爆発するんだ」
「爆発って、ポンッとか?」
「いや、ドッカーンと、だね」
片手の掌をポンッと開いたヒノマさんに対して、僕は両手を大きく広げて見せた。
すると、ヒノマさんの表情が曇る。
「両手を広げたくらい……人一人を巻き込むくらいか? そのくらいは抑えろよ」
「いや、意図的にだとそのくらいを狙ってやる事もあるけど、無詠唱で広範囲を狙って魔法を放った時なんかだと暴走しやすいんだ。そん時はめっちゃ大きくなるかな?」
「めっちゃ大きく? ……爆発系の魔法並にか?」
「う~ん、口で説明するのは難しいなぁ。やっぱやってみた方が分かりやすいかな? でも、無詠唱での魔法行使はやるなって昨日お説教を喰らったばかりだし……」
昨日はそれで魔力暴走が起きて、何人かが怪我をしてる。
咄嗟の判断で起きた不幸な事故なんだけど、それを咎められた。
結果的にその魔力暴走があったが為に大型ブラックドッグを町に出さずに済んだからか、お説教と始末書を数枚書かされただけで済んだ。
それなのに、もう一度やって見せろと言う。
「責任は俺が持つ。まあ尤も、私有地克つ安全を確保しての魔法行使につべこべ言う奴がいたらの話だがな!」
それもそうかと考えを改める。
元々はマさんがそういう意図でこの場所を選んだのだ、今更な話だった。
僕は再び無詠唱でいつもの魔法を掛ける。
気持ち多目の魔力を心掛けて。
……って、多目?
今の僕では、無詠唱での魔法行使は思った以上に魔力を絞らないと魔力暴走を起こしてしまう。
なのに、絞るんじゃなくて多目の魔力を出そうとしてしまっている。
これは不味い。
僕の感覚で普通に魔力を出そうとしても大規模に魔力暴走を起こしてしまうのに、更に多くの魔力を込めようとしてしまっている。
早く魔力を絞らないと!
……って、うおっ!!
僕の背中でさっきよりも強烈な光が放たれる。
目、目がっ!!
思わず目を思いっきり瞑ると同時にか、僕の魔法が起動してしまった!
ヤバい! ヤバいヤバいヤバいヤバい!
目を開けられずともさっきまでの感覚で魔力が過多になってしまっているのは明確だ。
未だに瞑った瞼が強い光を遮っているのを感じているから、目を開けられない。
僕の後方にあるマさんの会社の建物にはマさんが胸を張る程の防御の魔法が掛けられているって話だけど、それがどのくらい強度のあるものなのかまでは試してないから分からない。
いや、もっと不味いのは直ぐ傍にいるヒノマさんだ。
こんな至近距離で、今から起こるであろう大きな魔力暴走をまともに浴びてしまえば、幼い頃の妹のように大火傷を負いかねない。
近くに大きな病院はあるだろうか。
いや、その前に軍の救護所に腕の良い治癒魔法士がいるだろうか。
いなければ基地のR隊のレイラ隊長にお願いしないと。
…………?
「あれ?」
爆発音がいつまで経ってもしない。
弱まった光虫の光を感じて目をそっと開けると、片手を僕の方に、もう片手を目の周りに翳したヒノマさんが元草原の方を向いているのが見えた。
周りを見てみると、ヒノマさんの反対側の軍の堤との境にある岩場やマさんの会社の建物に光が当たって眩しい。
そして元草原の方はまだ土が踊っていた。
「……魔力暴走、しなかったのか?」
「ああ、しなかったな。一時的に魔力が高まったが、その光虫が光りだすとそれも治まった。今のは本当に魔力暴走させようとしてあたのか?」
「……そのつもりだったんだけど。てか、今のはちょっとどころかかなりヤバかった筈なんだけど」
「まあ、途中の魔力の高まりから言って、かなりの大規模魔法でも放つのかと思ったくらいだからな。何でそれが収まったんだ?」
「いや、何でなのかはよく分からないよ。強いて言えば……こいつの光に驚いたくらいかな?」
背中に張り付いている光虫を体を捻って見ようとするも、襟の下辺りにいるそれを視認出来なくイラっとしていると、ヒノマさんは難しい顔をして腕を組んだ。
「う~ん、それは本当に光虫なのか。そこまで強い光を発するなんて聞いた事はないんだが……。もしかしたら特殊個体なのかも知れないな」
「特殊、個体……?」
「ああ、通常の個体とは違うのかもな。まあ、強く光る以外にも何か違うのかも知れないから、暫くは観察が必要だろうな。ま、頑張れ」
うわあ、無責任発言だよ。
結局、剥がれないのだからどうしようもないと、僕はその光虫をそのままにする事にした。
ん? 何かデジャヴが……。




