三人で稽古と光虫
「えいっ! えいっ!」
「えい! えい!」
「はぁ、はぁ、はぁ」
それ以降も、僕たちは毎日欠かさずに木剣を振るっていた。
晴れた日はケントも一緒だ。
しかし、ケントは毎日来る訳ではないからか、基礎も出来ていなければ体力も低い。
素振りを始めて早々に息を切らす程だ。
「オーくん、まだ、やるの? はぁ、はぁ」
「えいっ! えいっ! まだはじめたばかりだよ?」
「ケンちゃん、もうつかれたの?」
「っっ! ま、まだまだできるもんっ!」
平気そうな同い年の女の子に顔を覗かれ顔を赤らめたケントは、目を逸らしながら木の棒を振るのだった。
◆
「おう、あいつなら先に出社したぞ」
予定外な事態があっていつもの朝より少し遅い時間に部屋を出たんだけど、そこにいたのはいつものマさんではなくてヒノマさんだった。
昨夜はヒノマさんもマさんの部屋に泊まったのかと納得する間もなく、いつも一緒に練習場所に行くマさんがいない理由をヒノマさんが教えてくれた。
マさん、結構仕事が忙しいんだな。
僕がこの町に来た時も、何日も部屋を空けていたし。
「今日はあいつの代わりに魔法を見てやる。さあ、行こうか」
「えっ! でもいつものあの場所はマさんの会社の敷地で、マさんが許可を貰ってて……」
「ああ、心配するな。その辺はちゃんと許可を貰っといたから」
それならまあ良いかと思ったものの、社員付き添い無しで敷地内に入れるものなのか、況してや会社の実験場を社外の人間が勝手に使っても問題にならないのか……。
そんな不安を余所に、ヒノマさんは真っ直ぐにマさんの会社、シーラー社へと進んでいく。
「はい、どうぞ。左手の通路を真っ直ぐに進めば直接行けます」
僕の不安を余所に、門の守衛さんは僕たちの姿を見るなり名前の確認もせずに道案内までしてくれた。
あれぇ?
守衛さん、良いのかそれで。
まあ、ここ最近は僕がマさんと一緒に毎日のように通っているから顔を覚えられたのかな?
でも、今日はヒノマさんの後ろにいたし……よく分からないな。
「さぁて、じゃあどんな魔法を放つのか、一度見せて貰おうか」
いつもの実験場に着くと、ヒノマさんはまるでそこが元々自分のテリトリーであるかのように僕を急かす。
仕方なく僕はいつものように元草原だった農地に向かって魔法を無詠唱で放とうとする。
大丈夫、いつもマさんが見てくれている時と同じようにすれば魔力暴走なんて……んんっ!?
無詠唱で慎重に魔力を放とうとしたところ、僕の後ろから強烈な光が放たれた。
何だコレ眩しっ!?
思わず放とうとした魔力が少し引っ込んでしまうが、放とうとしていた魔法はそのまま僕が突き出した手から放たれてしまった。
あ、引っ込んでしまった魔力分、威力が小さくて発動しきらないかも…………。
と思ったものの、いつもの魔法はいつも通り(?)に発動した。
ボコボコと舞い踊る土の範囲は、僕が思っていたよりも少し広い範囲でだ。
あっぶな、もし光に驚いて魔力が引っ込まなかったら、暴走してたかもな威力だ。
てか、魔力って引っ込むんだ……知らなかったわ~。
「ほう? 土属性でこんな広範囲魔法が使えるのか。大したもんだな」
「いや、想定よりもちょっと広めになっちゃったんだけど。それも暴走寸前で」
「はっはっは! 暴走寸前だろうが制御できているんならそれで良いじゃないか。それより、そいつ結局飼う事にしたのか」
ヒノマさんが僕を指差して聞いてくる。
いや、正確には僕の首の後ろを指して、だ。
「いや、こいつ気持ち悪いから外に棄てようとしたんだけど、服を払っても剥がれないし手で摘まんでも取れないんだ」
「ま、それほど悪さするようなものでもないし、珍しいものだからペットにしてしまえば良いんじゃないか?」
そう言われるも見た目がどうも良くないそれに、僕は顔を歪めた。
昨夜、飲み屋でヒノマさんに指摘されて気が付いたそれは、普段の見た目が時々部屋に出る黒い奴に似た虫みたいな形の生き物だった。
ヒノマさんやマさん曰く、光虫と呼ばれる魔物の一種らしいんだけど、とても珍しくて滅多にはお目にかからないそうなんだ。
その珍しさ故に、ペットショップでは店頭に並べば高額になる事間違いなしらしい。
でもな~、見た目がこんなんだし……。
「てか、こいつこんなに光るんだ」
「はっはっは! 光虫だからな。魔力に反応して光るらしい……が、流石にこんなにも光るとは思わなかったな」
曰く、光虫は通常なら蛍のような光り方をするという話なんだけど、飼い方が難しくて蛍並の短命で死なせてしまう事が多いらしい。
数が少ない事もあって、その生態は殆ど分かってないので、どうしたら永く生かせられるのかも分からないそうだ。
……益々飼いたくないんだけど。
てか、蛍並の光り方だって言う割にめっちゃ光ったんだけど。
本当に光虫なの?
「お前を気に入って取り付いてしまったんだ、面倒を見てやれば良いんじゃないか?」
「面倒をって……何を食べさせれば良いのかも分からないのに?」
「まあ、果物や野菜、そこらの葉っぱ、肉なんかを少し与えてみて、一番食い付いた物を与えてやれば良いだろ。それでも死んでしまったら、そういうもんだと思っておけ」
「……僕が食べられる恐れは?」
「無きにしもあらずだが……ペットショップに並ぶくらいだからそれはないんじゃないか? そうなら昨夜の内に食い付いてるだろ」
うわあ、無責任発言だよ。
結局、剥がれないものはどうしようもないからと、僕はその光虫をそのままにする事にした。




