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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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大きなおなかと剣



「ねえねえ、なにつくってんの?」


 ソファーにゆったりと座る母さんの手元を見て僕が首を傾げると、母さんは作りかけのそれを広げて見せてくれた。


「ふふふ。ちょっと服を作ってるの。可愛いでしょ」

「ちっちゃいよ?」

「ちっちゃいね~」


 僕や妹が着るには小さすぎるそれを見て、僕たちは首を傾げた。

 妹に至っては、三歳の頃に作って貰った縫いぐるみの為の服かと勘違いしたくらいだ。


「あら、分からない? もうすぐ産まれてくる赤ちゃんの為の服よ」

「「あかちゃんの?」」


 僕も妹も、母さんの言葉に再び首を傾げるけど、そんな僕たちに母さんはニコニコとしながら大事そうに大きくなってきたおなかを優しく撫でる。

 そんな自分のおなかを見る母さんの目は、僕たちに向けるものと同じように見えた。







 ブゥワッと何やら火の鳥が背後に浮き出たような錯覚を覚え、僕も目を丸くする。

 ナニこれカッコいい!!


「あっ、このヤロウ。それは反則だろ。こんな狭いところでそんなものを出すとはっ!」

「いや、これをするなら最大限に効果を引き出さないとだろ」

「くっ、私が風属性で視覚効果を屋内でやるのは控えなければいけない事を知っていて……」

「そもそもお前は引退したんだろ? そこが現役との差だと思って諦めろ」

「ぐぬぅ……」


 どうやら目の錯覚ではなく、何やら無駄に緻密な魔法で一瞬だけ火の鳥を出現させたらしい。

 自己紹介を終えた二人が何だか意味の分からない言い争いを始める一方で、店内の客たちからはやんやと拍手喝采が起こった。


「スゲエ! 今のどうやったんだ?」

「おい、もう一度やって見せてくれよ!」

「火の魔王って、ダスウィンっていったっけか?」

「よっ! 神様、仏様、魔王さまっ!」

「カミさんがファンなんだ、サインくれよ!」


 酒も入っているここの客たちには、今の二人のパフォーマンスは大ウケしたようだ。


「へいお待ち。剣を見るのは許したが、剣を振り回したり火の魔法を店ん中で使うのは許しちゃいねぇぞ? もし怪我人を出したり失火させたりしたら責任は取れるんだろうな。上には子供たちがいるんだぞ?」


 店の大将がマさんの前に料理を持ってきてくれたのだけど、その大将がギロリとオジサンを睨み付ける。

 対するオジサンは乗せていた椅子から片足を下ろし、あ、ハイと素直に頭を下げた。


「いやぁ、年甲斐もなく調子に乗りすぎたな。まあ、追い出されなかっただけヨシとしとこうか。な、同士よ!」

「いや、一緒にするな。私は剣も振るってなければ、魔法も使ってない!」

「うっわ、そんな事を言うんだ。ずっと前に女たちの前で調子に乗ってパフォーマンスした時に、風魔法でスカート捲って大顰蹙買ったのは誰だったかなあ? 一緒に頭を下げて謝ったのは誰だったかなあ?」

「おい、どんだけ昔の話を持ち出すんだよ! もう時効だろ、時効! それにあの時はお前、大喜びしてたじゃないか!」


 同罪だから当たり前だとオジサンを非難するマさん。

 しかし、僕はある事に気付いた。


「もしかして……ヒノマさんはマさんの親戚!?」

「「……はあ?」」

「いや、二人とも家名がオウさんだし!」

「いや、それはだなぁ……」

「オウって家名は、そんなに多くはないでしょ? いやぁ、どんな関係なんだろうって気になってたんだけど、親戚なら仲が良いのも頷けるなぁ。あっ、さっきの火の魔法はどうやったの? 帰りに外でもう一度見せて欲しいんだけど、やってくれる? いや、楽しみだなぁ。あんな魔法、今まで見た事もなかったし!」


 ヒノマさんが何か言いたそうに口をパクパクさせたが、マさんがヒノマさんの肩を手で軽く叩いて首を横に振る。

 何だろ、アイコンタクトで会話が成立してるっぽい。

 流石は親戚同士だ。

 時々妹も僕が何かを頼もうとすると、言う前に気が付いてやってくれてたりするから、それに近いものがあるんだろうな。


「なあ、俺の事をヒノマだって……。てか、お前はマ? これはどうなってるんだ?」

「いや、最初の自己紹介でも今のをやったんだけどね、その時からこの調子なんだよ。私たちをからかっている訳ではないらしい」


 テーブルの向こうで、こちらに視線を向けながら何やらコソコソ話をするマさんとヒノマさん。

 一方で、横に視線を向けると口をパクパクさせながら目を丸くしているリオンとメア。

 さっきの火の魔法に驚きすぎたのかな?


「まあ、それはそれとして……この剣は直ぐにでも買いなおした方が良いな。ただの飾りなら抜かずに腰にぶら下げておけば良いだろうが、実用するんであればちゃんと斬れる得物でないと命に関わるぞ」


 気を取りなおしたヒノマさんが剣を鞘に戻しガタツキを確認する。

 かなり痩せ細った剣に対し、鞘は当時から使っている物らしくスカスカだ。

 そのままでは抜けやすいからだろう、抜け止めのバンドが後付けされていた。


「いや、お金がなくて……」

「ああ、さっきも引っ越しで云々と言っていたな」


 買いたくても直ぐには買えない。

分割払いで買うにも頭金は必要だ。


「ふむ。じゃあ俺のを一本やろうか?」


 僕の方を向いてポンポンと自分の腰に差している剣の柄を軽く叩くヒノマさん。

え? やろうか?

いやいや、その柄を見る限り、僕の安物の剣とは全く別物だと一目で分かるくらい立派そうな剣なんですけど!?


「良いのか? 剣は色々と拘ってたろ」

「いや、これはボチボチ飽きていた奴だし、そんなに高い物でもないからな」

「そんな事を言って、得物なしで帰りはどうするんだ?」

「そもそも俺には火の魔法がある。剣があったって、抜く前に俺の火が唸りを上げるからな」

「……剣は趣味か。相変わらずだね」


 マさんが顔を顰めてヒノマさんに問うけど、当のヒノマさんは気軽そうにそれに答えていく。

 とは言え、何だかおかしな話になりつつある。


「男ならこういうのにはロマンを感じるものだろ? それに、全くのお飾りでもないんだぜ? 一応ある程度は使えるように稽古はしているんだからな」

「はあ……。オーヴ君、有り難く受け取っておくと良い」

「……本当に良いの? 僕、本当に今はお金が殆んどないんだけど」

「ああ、やるやる。こんな役立たずな得物が原因で、知っている若者に死なれても後味が悪いからな」

「でも……こんな立派な剣をただで貰う訳には……」

「なら、酒一杯とつまみ一皿と交換でどうだ? そのくらいなら出せるだろ」


 こうして新たに剣を手に入れる事になったんだけど、本当に良いのかな?


「ところで、さっきから気になっていたんだが……首の後ろのは何だ? ペットか何かか?」

「え? 首の後ろ?」



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