菜の花とヒノマ☆オウ
「あっ、いた。おかーさーん」
「おか~さ~ん」
リビングで一人、縫い物をしていた母さんを見付け、僕と妹が駆け寄る。
ケントを捕まえたサーファに菜の花のつぼみを渡した僕と妹は家の中を捜索して回っていて、お目当ての優しい微笑を湛える人物をあっさりと見付けたのだ。
そんな母さんに駆け寄る妹の手には、黄色い小さな花弁の開いた菜の花が一房。
「はい、おか~さん」
「あらまあ、綺麗ね~。ありがとう。お母さんにお花を採ってきてくれたの?」
母さんが満面の笑みで妹の頭を撫でながらお礼を口にすれば、妹はそれに笑顔で返す。
そんな妹と母さんの姿を見て自然と僕も笑みが漏れる。
僕も妹も、母さんの笑顔が大好きなんだ。
◆
「……ぷっ!」
「……くっくっくっ。ど、鈍器だって!」
メアとリオンが僕をチラチラと見ながら笑いを堪えている。
ちょっと失礼じゃありませんかっ!?
「まあ、元が元だったから。それでもまだマシになったくらいなんだけどね」
元は随分と刃先に至るまでボロボロで、刃も今以上に丸まっていた。
それと言うのも、上の兄が使いっぱなしで酷使したのが回ってきた為だ。
下の兄はお下がりのそれをそのまま稽古で使った後、魔法学園を卒業して軍に入る前に新しい剣を購入してしまった。
元々お小遣いを使わずに溜め込んでいた為に出来た芸当だけど、上の兄も僕もそれを真似る事は出来なかった。
お小遣いを使わずにおくだなんて、絶対に無理だって!
「これでマシか……。さっさと新しい剣を買うのを勧めるところだが、金は貯まってるのか?」
「いや、引っ越しで足りなかった物を買ったり、外食をしてたら殆んど使っちゃって……。王都にいた頃は寮だったから、そんなにも買い揃えなくても何とかやってこれたんだけど、一人暮らしになると何かと物要りで……」
「ん? 買い揃えるって、何が必要だったんだ?」
今度は注文を終えたマさんが顔を顰めながら聞いてきた。
「う~ん、食器類とか調理器具とか調味料とか……。他にも涼しくなってきたから服も欲しいし、収納箱も増やさなくちゃだし。部屋に魔照明や魔洗濯機なんかがあったのはラッキーだったけど、これじゃあ目標の冷蔵庫はまだまだ先かな?」
「あ~、一人暮らしをするならそのあたりは必要になるわね~って、魔洗濯機が最初から備え付けられていたの!?」
「そりゃ凄いな~。一人暮らしだと洗濯物は普通なら手で揉み洗いだろうからな。そこいくと寮なら共同だけど魔洗濯機が何台か設置してあるもんな」
「ご飯も寮なら休みの日でも出るしね」
「もっとラッキーだったのは、小さいながらも風呂があって魔湯機まで付いてたんだ!」
「まじかっ!」
僕の部屋自慢は、漸く一般家庭に普及しだした設備がそれなりに充実している事だ。
これは引っ越してきた当初からあった物だから、大家のマさんのお陰でもある。
感謝感謝だ。
「う~ん、そう言えば魔コンロは用意しておいたけど、他の物が足りなかったか。ちょっと軍の方と話をしてみよう」
え? 何を話すんだろう?
そう僕が首を傾げていると、リオンとメアが怪訝な顔でマさんに視線を送る。
「なあ、このオッサン、ただのお隣さんなんだよな。何で軍と話をするんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? マさんはお隣さんで大屋さんでもあるんだ」
「えっ、大屋さんだったの?」
「うん。今って寮が満員らしくてさ、今の家は寮の代わりだって」
「ふぅん。てかさ、マサンって名前なのか? 変わった名前だな」
二人が納得したようなしてないような微妙な顔でマさんの方を見るけど、マさんはマさんだ。
ところが、その名に意外な人物が反応した。
同席しているオジサンだ。
「おい、マさんってまさか……」
「ふむ。そう言えばまだ自己紹介がまだだったね。良いだろう、よ~く聞け。ある時は古い長屋の大家、ある時は会社取締役。して、その正体は!」
席から立ち上がり胸を反らすマさん。
そう言えば僕への自己紹介の時も何か格好良い表現をしていたけど、その再現か!?
おっ、出るぞ!
「魔☆王である!!」
案の定、マさんは勿体ぶりつつババーンと格好よくポーズを取った。
くうっ! 何かよく分からないけど、格好良い!!
リオンやメアだけでなく、店内の他の席の客も突然の出来事に動きを止めて目を丸くする。
「だあっはっは! まだその自己紹介をしていたのか! よし、俺もまだ名乗ってなかったな。いっちょ、俺もやるか!」
すると向かいに座っていた同席のオジサンもガタンと立ち上がり、見ていた僕の剣を手に何やらポーズを取りだした。
「ブレイズ帝国は元王族、炎を使わせれば大陸一」
椅子に片足を乗せ、僕の剣を軽く振り天井に当たらないよう斜め前に掲げ、顔と視線はその先に向けた。
「小さな火種から大火までも自由自在。火の魔☆王とは俺のこったぁ!」




