バレバレな内緒の魔法と鈍器
「あっ! ケンちゃんがころんだ!」
手にしていた籠をその場に置いて戻る僕と妹。
「わっ、いたそう」
「ね、いたい?」
「う、うぇぇ……」
擦り剥いた膝から血が滲み出すのと、ケントが泣き声を上げるのはほぼ同時だった。
「スゥちゃん、ケンちゃんにいたいのマオーしてあげて!」
「うん! ……ん~、いたいのマオー!」
妹が唱えると、温かい光に包まれたケントの膝の怪我が見る見るうちに塞がって綺麗に治っていく。
「……まだいたい?」
「ぐすっ……ううん、もういたくない。ありがと、スーちゃん」
「うんっ! よかったね!」
妹の治癒魔法に、驚く事もなくお礼を口にするケント。
この頃にはケントも、僕が幾度となくそれを受けていたのを目にしただけでなく、自らも受けた事があったのだ。
「じゃあ、このことはナイショね」
「うん!」「ウン!」
怪我をするような荒くて危ない事をしていれば、当然のようにサーファに叱られる。
今回は野菜の載った籠を持って走ったのがそれに当たる。
実際にケントが転んで怪我をしてしまった。
しかし、イチゴの誘惑には抗えなかったんだ、仕方ない。
満場一致でそれを隠す事にした僕たち。
しかし……。
「……ま~たこの子は。転んでお嬢様に治して貰ったわね?」
土が付いたままのケントの服を見たサーファには、何があったのかバレバレだった。
◆
「やあ、待たせたね」
そこにやっとオジサンの待ち人が来たのか、入ってきたその声にオジサンが片手を挙げてそれに応える。
てか、この声は……。
「ん? これはまた驚いたね。随分と若い子たちと座っているなと思ったら、オーヴ君じゃないか」
やっぱりマさんだ!
この相席を申し出てくれたオジサンの待っていた人がマさんだったなんて!
てか、いつもより随分と機嫌が良さそうな。
このオジサンに会うのが余程嬉しいのかな?
「何だ、知り合いだったのか。てか、そうか。あんな所で魔法の練習をしていたんだから、ダスマンと関わりがあってもおかしくはないか」
一人納得顔のオジサンだが、何か聞きなれない呼び方でマさんを呼んだよね。
ああ、きっとセカンドネームかあだ名なんだろう。
セカンドネームだったら格好良いな。
セカンドネームを持っている人はあまりいないから、ちょっと憧れる。
「なあ、オーヴ。この人は知り合いか?」
「ああ、お隣さんだよ。それで僕の魔法の練習を見てくれているんだ」
「え? 何がそれでなのか、よく分からないんだけど……」
さっきまで神憑り的に理解力を示していた二人だったけど、今度は眉を顰めて首を傾げる。
「最初の挨拶で、僕に魔力の暴走癖があるって言ったら、翌朝から魔法の練習に付き合ってくれる事になったんだ」
「だから……何でそうなるのよ。意味が分からないわ」
「全くだ。誰が好んで魔力暴走するような奴の魔法の練習に付き合うってんだよ」
そうは言っても、マさんが僕の魔力暴走を面白がって見てくれるって話だったんだよな。
そのお陰で、半詠唱での魔法の発動が出来る様になってきたんだよな、まだマさんに尻を叩かれながらだけど。
「う~ん、こりゃ研ぎも甘過ぎだな。この状態じゃ斬れなくても納得だ。手入れも自分でやってるのか? もう少し寝かさないと刃は立たないぞ? それに研ぎ過ぎで鞘がガバガバだな」
漸く不毛な二人の追及も終わった事で、オジサンがさっきの続きで剣を翳して真剣な目で刃先を見る。
耳が痛い話で、手入れはまだまだ勉強中だ。
しかし、研ぎ過ぎて剣が痩せ細って鞘の収まりが
「てか、実戦で剣を使ったのも、数える程しかないんだよね」
「数える程って……他に何を斬ったんだ?」
「え~っと、モグラと狸と野犬と兎かな。野犬は直接襲われて、野犬以外は育ててた野菜を食べられちゃって仕方なく、かな」
兎を斬った時はかわいそうだと妹に泣かれて大変だったけどね。
「……魔物を斬るのは今回が初めてだったんかよ。いきなりあんな馬鹿デカいのを相手にして、躊躇とかなかったんか?」
少し呆れたような表情をしたリオンが聞いてくるけど、あの時はそれどころじゃなかった。
「そりゃリオンが堤から落ちさえしなければ、僕だってあんな事はしなかったさ」
「なっ! まだそれ言うか~! お前の魔法で足元がツルッツルになってたのが悪いんだろ!」
「だからっ! リオンが滑り落ちたのが悪いんであってだなぁ……」
「あ~もうっ! ハイ、ハイ。もうそれは終わった事! おしまい! 分かったぁ?」
メアが僕たちの不毛な言い争いを止めに入るけど、確かにもう終わった事だ。
いつまでもウダウダとしていては大人とは言えない。
「で、どうなんだ? 君はこういうのには煩い方なんだろ?」
「ふむ。剣の切先は大分と短くはなっていそうだが、ちゃんと形にはなっている。問題は刃の部分だな。均一に研げてないせいで、真ん中ばかり減って湾曲しかかっている。しかも全く駄目な事に、上手く刃が付いていないな。これではただの鈍器だ」




