遊び友達と相席
「でね~、ぼくがきにのぼってつけたんだよ」
「えー! オーくん、すごぉい」
庭先にポツリと浮かぶ小さな影は、僕たち三人。
僕が括り付けた木の棒の付いた紐を見上げると、何だか僕が括り付けた時とは違うような気もするけど、きった気のせいだ。
……と思っていたけど、ずっと後で聞いた話では直ぐに庭師が丈夫な紐に括り付け直していたらしい。
「でもね、そのあとおちちゃった」
「えー! オーくん、いたくなかったの?」
「おとうさんが、ヨッてしてくれたし、スゥちゃんがいたいのマオーしてくれたから!」
全身を使って身振り手振りで平気だったと、その相手にアピールする僕。
この頃の僕たちは、時々ウチにやって来るサーファの息子ケントと共に色んな遊びを開発して遊んでいた。
「えっ! じゃあいたかったんだ……」
「うん、ちょっとだけね。こことここから、ちがどばーっとでたんだ」
「ひっ!」
僕の身振り手振りでケントが顔を青くする。
妹と同い年なのに僕よりも想像力が豊かで、こういった話には敏感だ。
「でもね、すぐにスゥちゃんがいたいのマオーしてくれたから、いたいのはちょっとだけだったんだよ」
だから大丈夫とケントに再び説明すると妹が照れた仕草をし、漸くケントの顔色も戻った。
僕たちと一緒に遊ぶ事も少なくないケントもまた妹の治癒魔法を知る一人で、その恩恵を受ける数少ない一人でもあったのだ。
◆
「ほうほう、そうか。子供の頃は魔法を禁止されて剣の腕を磨いたと。という事は君は魔法剣士なのだな? その歳でなかなか面白い人生を歩んでいるのだな」
待ち人来ずという事で、先にお酒が入った40歳くらいのその相席のオジサンは超ご機嫌で僕の話を聞いていた。
今まで僕の話が相手にウケた事は殆ど無かったから、僕も調子に乗ってペラペラと舌が回ってしまう。
「とすると、その妹さんも一緒に剣を?」
「うん。いつも二人で稽古をしていたから、妹もそれなりの腕だと思うけど、父さん以外に他の人と稽古をした事がないから実際にどのくらいの腕前なのかは僕も妹も分からないかな?」
オジサンから、酔っぱらい相手に敬語は不要だと言われて普段の口調で応じる僕。
「こいつの妹、めっちゃ可愛いんだぜ? んでもって、魔法の腕もかなりの腕前でさ。成績はいつも上位だったらしいしなぁ」
「え? そんなにも可愛いくて優秀な子なの? 一度見てみたいな~」
何かリオンが妹をベタ褒めで悪い気はしないんだけど、そんなにかな?
妹は至って普通だと思うぞ?
まあ、僕よりも魔法の使い方が上手いとは思うけど。
「今、魔法学園の三年生だから、今度卒業なんだよな。軍に入って来ないかな~。そうすりゃいつでも見ていられるのに~」
「うわっ、キモい。まさかつきまとったりしてないでしょうね」「んな事するかっ! ってか、剣の腕もあるなんて知らなかったな~」
「魔法が得意で剣の腕もあるなんて、完璧超人じゃ?」
「だろ? そうそう、腕と言えば片腕に火傷の痕があるって女子たちから聞いたな。あれって嘘だよな。ただの女子たちの妬みで拡がった嘘だよな」
一転、鼻息荒くリオンの口から吐かれた言葉に、僕のそれまでの心地よい気分が台無しとなった。
「……そんなのどうでも良いだろ? 本人のいないところでそういう話はしたくないよっ」
僕は口を尖らせた後、食べかけの皿にフォークを伸ばす。
肯定も否定もしないその言葉だけど、言外にそうだと言っているようなものだと後になってから気付いた。
「まああれだ。君の剣の腕は兵士の中でもそれなりだと思うぞ。大型のブラックドッグに一太刀入れられたのだろ? どのくらいの大きさだったのかは知らないが、軍でも大型だと言っていたのであれば、それは誇れるレベルだと思うな」
僕のせいで変な空気になった場を繕うオッサン、めっちゃ大人だ。
対して僕はこんな事で口を尖らせてるなんて、随分と子供染みている。
もう成人しているんだから、こういうのを直さないと。
でも……妹の事になるとついカッとなっちゃうんだよな~。
「しかし、サビアでもないのに大型のブラックドッグが出たのか……。前の魔物氾濫から13年、魔物が育つにはちと早い気もするが……」
「いや、前の氾濫からはもうすぐ15年じゃね?」
「……そうか~、15年だったか~。歳を取るとその辺が曖昧になっていかんな~」
ちょ、このオッサン、もう出来上がってないか?
僕たちが来るまでにどのくらいお酒を飲んでいたのか分からないけど、喋っている内に顔が赤くなってきているんだけど。
「で? 何でそんな功労者がお叱りを受けたんだ?」
「あ~、それな。まあおれは不注意で落ちたから仕方ないんだけどさ、オーヴとベクス先輩の場合は命令を受けずに勝手に動いたからなぁ。うちの基地としては結果よりも規律を優先させたんだろうってベクス先輩が言ってた」
「なんか納得いかないよなぁ……」
ポロっと不満を漏らすと、メアからジトリとした目が向けられた。
「当たり前でしょ? そんなにもみんなが銘々勝手に動き出したら命令系統の意味がなくなっちゃうじゃない。うちは見てないけど、いくら仲間が危機的状況だったからってみんながみんな勝手に動いたら、その内の何人かが死んでいたかも知れないし、全体に被害が及ぶかも知れないでしょ?」
叱られて当然とばかりにメアが捲し立てる。
勿論、言っている事は分かるんだけど、体が勝手に動いてしまったんだから仕方ないじゃないか。
何かおっかないから口にはしないけどね。




