遠くを見る両親と意味のない言い争い
「まあ、問題なく使えているようだから、むやみに禁止するのは止そう。しかし、この年で水魔法だけでなく治癒魔法も、なぁ……」
父さんがしみじみと抱き抱えた妹を見る。
僕の怪我を魔法で治してくれた妹は、僕と一緒にひとしきり泣いた後、ストンと寝てしまった。
魔法の行使で疲れ果ててしまったんだろうと父さんは言っていた。
「治癒魔法だなんて、まるで先輩の力を受け継いだようで……。あっ! 申し訳ありません、私ったら」
「いや、本当にそうであれば良いな。アーシャも喜ぶだろう」
時々こうして父さんと母さんは遠くを見ながら何とも言えない顔で話す事がある。
当然、僕にはそれが何を意味するのかなんて分かる筈もなく……。
そんな訳の分からない話よりも、父さんの腕の中ですうすうと寝息を立てる妹が心配でならない僕だった。
◆
「まさかあんな所で溺れる奴が出るとは思わなかったぜ」
末端の一文字以外は一言一句違わずうちの分隊長と同じ言葉を発して深く溜め息を吐くリオン。
「前代未聞、じゃない? 全身泥だらけで運び込まれて来た時はホントにビックリしたんだから。マーコレーさんの診察魔法とコーディさんの解毒魔法がなかったら今頃ここに来ている場合じゃなかったわよ」
ウンウンと首を縦に振るのはメア。
泥沼化した農地に倒れた僕がそこで溺れたという事は、その泥水を飲み込んでしまったという事で、早々にR隊のお世話になってしまったのだ。
まあ、初日じゃなかった事で良しとしとかなくちゃ。
「仕方ないだろ? 足が嵌まって身動きが取れなくなったんだから」
「じゃあ、そこでじっとしてれば良かったじゃない」
「魔物を目の前に、じっとなんてしていられないだろ」
「他に陸兵や魔法士もいたんだから、任せれば良かったじゃない。何でそうしなかったの?」
「誰もあの勢いを止められないと思ったからだよ。もしあの勢いのまま堤の上に行かれてたら、簡単に堤を越えられて救護所や町に出てしまっていたんじゃないかな、上の人たちは止められるって言ってはいたけど」
「え……」
僕の説明に顔を青くするメア。
メアのいた救護所にも護衛の兵たちはいたのだが、あれ程の大型の魔物は普段であれば想定しておらず、兵の数も少なかった。
もし突破されていたらと思うとゾッとする。
「て、堤の上の人たちで止められたわよね? ね?」
「いや、どうかな。目の前のおれなんか全く見てもいなかったし、ただひたすら堤を越える事だけを目指していたようにも見えたからな。その証拠に、オーヴやベクス先輩から攻撃を受けても見向きもしていなかったし。そもそも下っ端のブラックドッグたちを足場にしようと指図していた節もあるんだろ? 中型を反対側の端に集中させていたのも、おれらの方の戦力をそちらに回させて戦力を薄くしようとしていたのかもな。そんな知恵の回る奴がいちいち堤の上に残ってる兵や魔法士を相手にすると思ってるのか? 一気に飛び越えて町に出るに決まってるだろ」
「そ、そうなの? でも、ならうちたちの救護所は無事だったんじゃ……」
「いや、あの位置だと下手すりゃ足場にされて建物ごとペシャンコだったんじゃねぇかな。おれはそう思うけど、オーヴは?」
「う~ん、その可能性もあったよね。堤の上から見たらちょうど良い足場にも見えるし」
R隊S隊の詰める救護所は堤の外側の下にある。
しかし、万一魔物が堤を越えた場合の防衛の為に少し離れてはいるが、あまり離れると負傷兵を素早く診る事ができなくなるのでそこまで離れている訳でもない。
そもそも大型の魔物が出る可能性のある時はC隊、B隊、A隊が出動する案件であり、ブラックドッグが相手の場合はそんな大型が出現する事は想定外だった。
「で、オーヴはどうしてあそこであんな魔法を放ったんだ?」
「ん? ああ、分隊長たちにも言ったけど、足場にしようとしたところを力の入り難い畑の土の柔らかさにすれば堤の上の連中も対応する時間が出来るだろうなと思ったからだよ。まさか魔力暴走して爆発するだなんて思ってもいなかったけどね」
「……本当に? 狙って魔力暴走させたんじゃないのか?」
「まさか。僕だって狙って魔力暴走なんて出来ないよ」
リオンの質問にそう答えた僕だけど、最期のは嘘だ。
魔力暴走に慣れてしまった僕は、時としてわざと魔力暴走を起こす事がある。
一般的に魔力暴走はコントロールが出来なくなって起こるから意図的に狙って起こす事は困難だと言われているけど、僕は小規模の魔力暴走をわざと起こす事が出来る。
ま、完全にコントロールしている訳ではないから内緒だけどね。
ただ、今回の件は完全にコントロール出来ていなくて、結構大きな爆発になってしまった。
おかげでカチカチに硬い岩場の破片が下に降りてきていた陸上一般兵たちだけでなく、堤の上に控えていた中衛の一般兵や魔法士にも軽い怪我をさせてしまったんだけど。
おかげで、魔物を倒す切っ掛けになったにも関わらず、たっぷりと叱られてしまった。
「ふ、ふははは! て事は何だ、君一人で魔物流出の危機を防いだって事か。面白いな、君は」
いよいよ明日の投稿は厳しいかも
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