治癒魔法の発覚と救いの声
ぎゅっと目を瞑るのと地面に落ちる?のとはほぼ同時だった。
ドサッと自分が発した音が耳に入るのとほぼ同時にザザッと音がして、何故か真っ直ぐ下に落ちていた筈が横方向に向きが変わっていた。
「旦那さま!」
「ああ、心配はない」
放心して身が固まった僕の体が勝手に起こされる。
いや、身を起こす父さんに抱えられて一緒に身を起こされたんだ。
「にぃに、にぃに!」
木から落ちた僕は、妹に昔の呼び方で呼ばれるまで父さんに助けられたんだと理解出来ずにいた。
「……スゥちゃん」
「にぃに、いたいとこない?」
ペタペタと僕の体を触って確認すると、僕の腕を見てピシッと固まる妹。
僕も釣られて自分の腕を見ると、パッと見た目は良いけど、内側がズル剥けになって血が滲み出していた。
更に指先に痛みを覚えてそこを見ると、爪が剥がれて血が滴り落ちていた。
「うぇっ……」
木から落ちる時に枝に掛けていた手を擦ったのだろう。
その惨状を目に泣きそうになる。
母さんが慌てて駆け寄ってくるが、そんな僕を見ていた妹の方が早かった。
妹が涙を目に溜めて焦るように叫びだす。
「いたいのマオー! いたいのマオー!」
すると、僕たち二人は暖かな光に包まれていくと、いつものようにみるみる傷が治っていく。
今度はそれを見ていた父さんと母さんが固まる番となった。
「スフィアちゃん、今のは……」
目を見開いた父さんが、両手をわなわなと震わせながら妹に問い質そうとするが……。
「にぃに、もういたくない?」
「うん、もういたくないよ。ありがと、スゥちゃん」
「ぐすっ……。にぃにぃ」
「スゥちゃん……うぇっ」
妹の涙腺が崩壊したのを切っ掛けに、それまで我慢していた僕の涙腺も崩壊した。
そんな僕たちを見て、お互い顔を見合わす父さんと母さんだった。
◆
遡る事、15分。
「ったく……そもそもこんなにも遅くなったのはお前のせいだぞ、オーヴ。こんな時間になるまで叱られてしまったじゃんか」
「何だよ、僕のせいにするのか? それを言うなら足を滑らせたリオンが悪いんだろ?」
「それだって、オーヴの魔法のせいで足元が滑ったからじゃんか」
「それはリオンが盾を手放したのがいけないんだろ?」
「それこそオーヴが話し掛けてきたから怒られたんじゃんか」
「何言ってるんだよ、話し掛けてきたのはリオンからだろ」
ぎゃあぎゃあと道中で言い争う僕たち。
気が付けば日暮れの時間まで分隊長たちから聴取を受けていて、食堂の夕飯にありつけなかったのだ。
正当な理由があれば上司からの許可証を貰って食堂に出す事で時間外の食事が許されるんだけど、今回は貰える雰囲気ではなかった。
結果的に僕はブラックドッグのボスらしき個体に致命傷を与えた事になるんだけど、やれ命令を無視しただの、やれ他の兵たちに怪我をさせただの、やれ魔力暴走させただのと、まるで罪人扱いだった。
リオンも場を混乱させた一人として一緒に聴取を受けたんだけど、比率にするとリオンが三割、僕が七割だった。
何か納得いかない。
「あんたたち、仲が良いわね」
「「どこが!」」
「ほら。気が合ってるじゃない」
ジトッと半目を向けてくるのは何故か僕たちに付いてきたR隊のメア。
本人からは僕たちがひとつ年下なんだから名前に様付けしなさいと言ってきたけど、それを聞いて寧ろ様なんて付けたく無くなった。
でも、何で様付けしなきゃいけないんだと思ったら侯爵家の二女らしい。
そんなのは軍では関係ないけどね。
それを盾に、平民出身の上司からの命令を聞かないなんて事があったら、下手をすれば隊が全滅しかねない。
「それはそうと、本当にこんな時間にご飯の食べられるお店があるの?」
「あるよ。僕がこの町に来た日に実際に食べさせて貰ったから」
そして今に戻る。
「ほら見ろ。やっぱり食べられないじゃんか」
「やっぱり誰かに借りを作ってでも食べさせて貰った方が良かったかも。あ~、失敗したな~。付いてくるんじゃなかった」
リオンとメアが僕に恨み節を投げ掛けてくるけど、そんなの僕の知った事じゃない。
「てか、二人とも勝手に僕に付いてきたんだろ? それに、リオンは一緒に怒られていたから夕飯にありつけなかったのは分かるけど、何でメアは付いてきたんだよ」
「う、それは……治癒魔法で魔力が枯渇しちゃって寝ていたからよ。あっ、そうだ。そもそもそうなったのは貴方のせいじゃない! 貴方が魔力暴走させたって聞いたわよ。だから怪我人が沢山出て魔法の練習にって、うち一人で限界まで治癒魔法をさせられたんだから!」
成る程、僕のせいで怪我人が出て、その治療を一手に任されたのか。
だから全て僕のせいだと……。
……でも待てよ?
僕が聞いたのは、魔力暴走で爆発が起きて飛び散った石が当たった人が擦り傷を負ったって話だ。
それもせいぜい血が滲む程度の。
それに20人に満たない人数だった筈……。
てかそれって……。
「魔力量、少なくね? そのくらいでぶっ倒れたのって、僕のせい? それに魔力切れにならないように気を付けるのは魔法士の常識じゃね?」
「魔力暴走させた貴方には言われたくないわよっ!!」
「……あんたら、仲が良いな」
「「どこが!」」
「ほら、気が合ってるじゃんか」
僕とメアの声が揃うと、リオンが先程のメアと同じ突っ込みを入れてきた。
それこそこの二人の方が気が合うんじゃ?
「……やい、いつまでそこにいるつもりだ? 諦めてさっさとどこか行ってくれないか? 入口を塞いでちゃ客が入れねぇだろ」
おおっと、入口でワイワイぎゃあぎゃあ騒いでた僕たちに、大将がクレームを入れてきた。
至極真っ当な意見だけど、ここを退けば僕たちの晩飯の希望は断たれてしまう。
けど、そこに救いの声が。
「大将、その坊主たちを入れない理由は酒を飲みそうだからか? なら俺がこいつらが飲まないかを見張っててやる。俺も連れがいつ来るか分からんから暇なんだ、入れてやれよ。席なら俺のところが空いているしな」




