父の指導と堅地整成
「二人とも、こっちに来なさい」
朝、みんなと一緒に剣の稽古をしていると、父さんが兄たちに指示を出した後、僕たちに手招きをした。
僕と妹が父さんと共に練習台となっていた立木の前に移動すると、父さんはその立木を指差す。
「この木に打ってみなさい」
僕と妹は何でだろうと首を傾げるも、言われるがままいつも通りに立木相手に剣を振るった。
「……ふむ、オーヴ。軸足を前に出すのは良いが、体重移動がまだなっていない。体重の移動に合わせて身体をしならせながら剣を振らないと相手へ打撃を与えられないぞ」
僕の打ち込みを見て手を取ってアドバイスしてくれる父さん。
父さんからの指導は一番最初の時以来だ。
「魔物の頭蓋骨……頭は硬い。剣の刃が欠けるから、なるべく頭は避けるんだ。この木だって真っ直ぐに切ろうとしても傷を付ける事すら出来んが、横からならいつかはこの木も倒れる。分かるか?」
そして、父さんの教えは兄たちよりも具体的で分かりやすい。
父さんの示した立木には、正面の傷よりも横からの傷の方が多く深かった。
「……俺たちでも学校に行くまでは素振りしか教えて貰ってなかったのに」
まだ二歳の妹には僕の真似をさせておけば良いと思ったのか、直接妹に教える事はしなかったが、兄たちや僕には見せない微笑みを含ませて妹の頭を撫でてやる父さん。
そんな父さんや僕たちを見て、顔を歪ませる兄だった。
◆
「伝達! 目標が第一防衛線を通過!」
どこからともなく聞こえてきた遠吠えを合図に、犬のような鳴き声が雨が降りしきる中にもかかわらず無数に聞こえてきた。
すると、中央の方からブラックドッグが進攻してきた事を報せる伝達が、僕のいる堤の端にまで届いた。
「よ~し、では前衛隊盾は前に! 構え!」
陸上一般兵部隊の分隊長が号令を掛けると、盾を持った兵たちが前に出てその盾を堤の最前端に突き立てた。
次いで長槍、長剣を持った兵たちがその間を埋めていく。
堤の法面を見ると、この雨で溜まった水があちこちで小さな流れを作っていた。
これは魔物が堤に傷を付ける前に、流れる水で表面が削られるかも知れない。
「わぁ、やだなあ。これ、絶対僕の出番があるよ」
そんな僕の懸念は直ぐに訪れた。
「法面に破損あり! 補修を!」
「こちらも法面に破損だ!」
複数箇所で声が上がった。
隙間を縫って前に出ると、報告の上がった箇所以外にも土が流れている部分が散見された。
堤は緩やかな弧を描いていて反対側まで様子が見て取れるが、あちこちで補強の魔法が発動されているのが見えた。
当初の予定だと、今日の午後から僕の指導を兼ねて堤の補強作業をする事になっていたんだけど、魔物はこちらの予定に合わせてはくれない。
「おい、早くしてくれ! 魔物は待ってくれないんだぞ」
「あっ! ちょっ、待っ!」
モチつけ僕。
基地での練習ではちゃんと出来るようになったじゃないか。
「土ニ宿リシ秘メタル力ヨ。我ガ願イヲ聞キ届ケヨ」
詠唱の言葉はもう頭に入っている。
……いや、待て。
このまま詠唱を続けるのか?
僕は最近、マさんに見て貰いながらも魔力暴走をせずに発動できるようになってきたじゃないか。
ならば、こんな恥ずかしい詠唱なんてせずに、無詠唱でも問題なく発動できるようになっている筈だ。
魔力をもっと抑えて……もっと、もっと。
マさんなら今よりもっと抑えろと尻を叩いてくる。
……石ト石、根ト根、土ト土、互イニ繋ギ合いイ、結束シ、固マレ。
もっと、もっと、もっと抑えるんだ。
このくらいだなんて思っちゃいけない。
もっと、もっと、うんと魔力を抑えて……。
……己ガ為、ソノ形ヲ維持セヨ。
絞れ、絞れ、この魔法ならもっと絞らないと。
そう、もっと、水がひとすじ流れる感じでは多過ぎだ、一滴がやっと離れ落ちるくらいのイメージで……。
「堅地整成っ!」
僕がその魔法を発動させると、僅かにゴゴっと音を立てて土の表面の色が変わっていく……のだが。
「なあ、ちょっとおかしくないか?」
「ああ。硬化しているけど、範囲が……」
僕の魔法が無事に(?)発動して堤の法面を補強していくんだけど、何と言うか……その範囲が尋常ではない。
土魔法小隊の先輩が見せてくれた見本だと、人によってばらつきはあるけど平均すればせいぜい左右に15メートル程度だ。
しかし、僕が発した魔法は今も延び続けて40メートル以上に拡がっていく。
あ、50メートルを超えて隣のミーシアさんの向こうにいるハングマンさんのところまで届こうとしている。
「ん? おわっ!」
突然ドゴーンと向こうで爆発が起こる。
やっべ、まだ魔力を抑えきれてなかったみたいだ。
ハングマンさんが魔法を発動させるタイミングと重なって僕の魔力と干渉し合い、魔力が暴走して爆発が起きたらしい。
通常なら何人かが同時に魔法を放っても何事もない。
しかし、僕の暴走スレスレだった魔力にハングマンさんの魔力が乗っかったところでボーダーラインを超えてしまったようだ。
「こらぁ! 何してんだい! 今まで基地であんなにも見てやったってのに、何でまた暴走させてんだい!」
間にいたミーシアさんがこっちに向かって憤怒する一方で、爆発の起きた周辺では何人かが腰を抜かしていた。




