禁止と治癒魔法の隊長
血塗れ事件のせいで、僕と妹の二人だけでの稽古は禁止された。
でもそれは、二人きりでなければ良いという事でもあった。
「スーちゃん、おけこしよ?」
僕は部屋での遊びに飽きて、窓の外の青空を見上げて妹を誘った。
しかし、この日妹は僕の誘いを初めて渋った。
「にぃに、ぃたぃたぃ、やっ!」
まだ記憶が新しく、真っ赤な血が鮮明に思い出せるからだろう、妹は僕を心配する。
「もういたくないよ。スーちゃん、いっしょにやろ?」
でも、痛かったのは直ぐに消えたから、僕はある意味直ぐに忘れる事が出来た。
「スーちゃん、いこ?」
「……ん」
僕は妹の手を取ると、棒を預けてるサーファの所へと足を運ぶ。
「まあ、お坊っちゃん。昨日の今日で、もう剣のお稽古をするんですか? じゃあちょっとだけ待っててくださいね」
それからというもの、剣の稽古をする時は大人たちや兄たちがお目付け役として付く事になったのだった。
◆
「レイラ隊長!」
歳は母さんと同じか少し上だろうか、定食の載ったトレイを手にした女性がいつの間にか直ぐそこにいた。
どこか母さんに似た感じだと思ったら、このレイラ隊長さんが小柄でほんわかした感じだからだろうか。
しかし、母さんと違うところもある。
どことなく母さんよりも気品があるのだ。
母さんは何となく貴族らしくないし。
シーファというお手伝いさんがいるのに、家事は一通り熟すし、僕らの服も作ってくれるし、花壇は土作りからやってるし、油断してるとその花壇に野菜が出来ちゃってるし、垣根の剪定も職人さんが来る前にやっちゃってるし、たぶん僕の知らない事までやってるような気がする……。
「いつもの席にいないから探したわよ。君が例のZ隊の新人?」
今日二度目の質問に僕は頷くけど、その隊長さんの目は細められ何かを考え込んでいた。
もしかして僕ってそんなにも噂になってる?
魔法の練習でうっかりとバカでかい畑を作っちゃっただけなのに。
「魔力暴走って……それであの大穴が? って、その歳になってもまだ暴走させてんの!?」
レイラ隊長と一緒に来ていた副隊長のティストーニアさんが僕の話を聞いてブフっと口に含んでいた物を飛ばす。
このティストーニア副隊長さん、母さんと比べると随分と格好良く見えるのは細身で背が高いからだろうが、今ので台無しだよ。
てか、昨日は僕、あそこで練習をしていたんであって……。
それにここ何日か、裏の練習場でもちょくちょくと暴走させてたし……。
って、あの爆発を火魔法とかだと思われてたんかな。
「とんだ新人ね。まあ、暴走を抑える事が出来る様になれば良い戦力になるだろうから、せいぜい頑張りなさい」
副隊長さんから叱咤激励が飛んできた。
他の隊では副隊長という役職は無いのだが、治癒魔法小隊は特殊なのだと後から聞いた。
それによると、本来の小隊長は軍医長も兼任していて普段は全く顔を見せずレイラ隊長さんに丸投げしているらしく、レイラ隊長さんは本当はR隊の分隊長ながら看護系を受け持っているS隊の面倒も見ている為、補助にティストーニアさんを副隊長として充てがっているらしい。
「ああそうそう、新人と言えば今度魔法学園を卒業してくる子の中に、治癒魔法が出来て優秀な子がいるんですって。うちに入って来ないかしら」
「隊長、たぶんそれは無理でしょ。いくら隊長が忙し過ぎるからって、そう簡単に人数は増やして貰えないでしょうし、そんな優秀な子なら王都の本部かイーストフォレストに持ってかれちゃいますって。それに人数が少ないのはS隊の方もですよ」
「え~!? そんな~。せめて常駐してくれる小隊長でも入れてくれないかな~」
「それこそ無理だと思いますよ?」
バッサリとティストーニアさんに切り捨てられたレイラ隊長さんは、ガッカリと肩を落とす。
そんなにも人数が足りないのに、寮の部屋数が足りてないのはおかしくないかなぁ。
「ふごっ。……あ、あれ? ここは?」
テーブルに突っ伏していたメアが、突然鼻が鳴りビックリして起き上がった。
いや、こっちがビックリしたわ。
「ちょっと、メア~。あなたそれで本当に侯爵令嬢なの?」
「まあまあ、ティカちゃん。昨日は魔力の枯渇まで頑張ったんだから、ちょっとくらいは良いじゃない」
「隊長。そのちゃん付けは止めてと前から言っているでしょう。有事の際にちゃん付けで指示されては示しが付かないって……」
「はいはい、分かりましたよ、ニア。私、呼び捨てはあまり好きじゃないんだけど」
「いや、私はティストーニアって名前が……って、有事の際にはこの名前は長たらしいですね。まあ略すのは目を瞑りましょう」
成る程、副隊長さんはニアって略称されてるんだ。
見た目も口調もキツそうなのに、名前はちょっと可愛いかも。
「で、新人君。あなたはその魔力暴走を克服したら、何か目標があるのかしら」
レイラ隊長さんが僕に問い掛けてくるんだけど、何だか先程から周囲からの目が恐い。
それがどうしてなのかよく分からないけど、その問い掛けになら僕は即答してしまう。
「僕は魔王を倒すんだっ!」
「……え?」
僕の答えに、レイラ隊長さんだけでなく他の人たちもポカンと口を開けた。
って、しまった!
僕のこの答えに賛同してくれたのは今まででも本当に少なくて、妹や母さん、サーファと魔法学園の同級生一人くらいだ。
同級生は例のクベ家のマさんの話をしてくれた人で、魔王を倒す話をした時は凄く乗り気で詳細にどうすれば良いのか二人で真剣に検討したものだ。
本当に良い奴だった……って死んではいない。
で、その四人以外の人たちはと言えば、殆んどが今のようにポカンと口を開けるか、大笑いしてくる……。
そう言えばマさんはどちらなんだろう、笑われたけど好意的にとられていたような気がするんだけど。
なので、僕はいつも別の答えを探すのに苦労する。
でもまあ、今ならこれかな?
「いや、今の目標は噂の冷蔵庫を買う事だ!」




