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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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幼い二人の大事件と新スライム対処法



 この日は珍しく僕も妹も早く目覚めて、兄たちの稽古する姿を見ながら真似をしていた。

 ただの素振りから始まり、傷だらけになった立木への打ち込み、そして兄たち二人での打ち合い……。


「えいっ、やー」

「ぇ~い、や~」


 それはとても格好よく目に映り、二人のテンションを上げた。

 そしてそれは兄たちが学校に行く時間になっても続き……。


「えいー、やあー」


 僕が妹の頭に向けて木の丸棒を優しくコツンと当てると、妹もそれを真似して竹の棒を振った。


「ぇ~ぃ、やぁ~」


 ところが、その竹の棒は勢いが衰える事もなく降り下ろされた。

 ベシンと鈍い音が二人だけになった庭先に鳴り響いた。


「いっ!」


 思わず当たった額を押さえて(うずくま)る僕を見てしてやったりときゃっきゃ笑う妹だったが、僕がいつまでも蹲ったままなのを見て、不安を見せる。

 そんな僕たちを学校に向かおうとしていた兄たちが見て、笑いながら通り過ぎて行った。


「にぃに? にぃにぃ!」


 大丈夫だと笑おうと、腕を揺すられた僕は額を押さえながら妹の方を向いた。

 しかし、そんな僕の顔を見た妹がみるみると顔を歪ませていく。

 そして、僕の目に映った妹は赤く染まっていた。


「なにこれ……」


 額から何か生暖かい物がドロリと流れているのに気付いたが、それが何なのかは理解できなかった。

 それは妹もそうだろうが、異常事態だという事は理解しているようで、事態にビックリして泣き付いてくる。


「にぃにー! にぃにー!」


 すると、その生暖かい物が流れ出す元を、小さな小さな手で妹が押さえてくれるのだった。







「昨日の影響で疲れが溜まってて外の景色を見ている気力もないし、その席を使っても良いわよ。良いわよね?」


 後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには真っ白で上等そうな生地に金糸で模様をあしらった制服を着た女性たち3人と男性2人の5人組がいた。


「おい、Z隊(ゼッタイ)がR隊に絡んでるぞ」

「マジかよ。我らが白銀の乙女()隊に絡むなんて、どれだけ屑なんだよ」


 周囲でざわめきが起こりだすんだけど、声を掛けてきたのは向こうからなんだけどと僕は周りに不満を持つ。

 そんな外野の声など気にせずに話し合いを始める白制服の人たち。


「まあ確かに、今日は日の当たるところよりは薄暗い席の方が眩しくなくて良いんじゃない?」

「先輩たち、今朝は遅刻寸前で駆け込んで来てましたもんね。昼休みは食べたら仮眠ですか?」


 最初に声を掛けてきた若い女性に、更に若く見える女性二人は同意するように答える。


「昨日は異例づくめでしたからね~。あんな治療、軍では他に前例がないでしょ」

「確かにな。でも、良いのか? 隊長や副隊長に聞かなくても」


 すると今度は若い男性が知ったかぶるが、少し年上の男性もそこには異論は出さなかった。

 そして反対意見は出さないまでも、女性たちにそれで良いのかと確認を取る。


「珠には良いでしょ? いつも空けておいて貰えるのは有り難いし、花を植えてくれてるのは嬉しいんだけども、いつも同じ場所ってのはねぇ……。レイラ隊長やシーファさんたちなんて外も見ずに早食いして直ぐに何処か行っちゃうし。席さえ確保しておけば何処だって良いんじゃない?」


 そんな事を女性が口にすれば、白制服の人たちはみんな納得の表情をする。

 とは言え、花は無意識に見る物だと思うんだけど……。

 だから、花が見えるこの席が気になったんだ。

 てか、僕は他に気になる事があった。


「白銀の乙女って何? 乙女なのに男の人もいるんだけど」

「は? そこ? 気になるのってそこなの?」


 Z隊で一番歳の近いハングマンさんが僕の疑問に突っ込みを入れる。

 いやだって気になったんだもん。


「白銀の乙女ってのは治癒魔法隊の別称だよ。それも随分前に付いた名だから、今の治癒魔法隊の人員構成には全く関係ないんだよ」


 だよね~、あんなオジサンに乙女なんて、誰も呼びたくないし。

 なんて考えてたら、そのオジサンから睨まれた。

 え、心が読める魔法でもあるの!?


「君が例のZ隊の新人君かい?」

「え? 例の? まあ、先日Z隊に配属されたばかりなのは僕だけど……例のって?」


 白制服のオジサンからの質問は何を指しているのかよく分からないけど、僕よりも後から入った新人はいないから僕の事だろう。

 しかし、その質問には何か含みがある。


「何だ、自分でやらかした事を理解していないのか。あの畑を作ったのは君だろ? 昨日の魔物(スライム)対応で他の隊が収穫や発掘の作業をしに軍に入った覚えはないとボヤいていたぞ」

「収穫? 発掘?」

「魔石のだ、魔石の。おかげで腰の痛みを訴える者が多数出て、我々は大忙しだったな」


 腰痛に治癒魔法を使う事はそう多くないのにとボヤく白制服のオジサン。

 成る程、豊穣の舞で広範囲に農地化したり魔力暴走で暴発して大穴が開いたところにスライムが掛かったのか。


「でも、収穫ってどういう事?」

「何だ、そんな事も聞いてないのか? スライムの組成の大半は水分だろう。あの柔らかい土に水分が染み込んで、魔石だけが残ったらしい。明日か明後日には王都から研究者が状況の確認に来るんじゃないかな」


 どうやら新しいスライム対処法を開発してしまったらしい。



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