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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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並んで稽古と空席



 きゃっきゃと庭先に幼い歓声が響く。

 父さんの指示なのか、翌朝からは僕たち二人の稽古は随分と緩いものになった。

 時間も早朝じゃなくても良くなり、妹が眠たさで愚図る心配も無くなった。

 起きて妹が外に行きたがったタイミングで良くなった為、僕の稽古は妹次第となったのだ。


「にぃに、にぃに!」


 見て見てとご機嫌な妹が僕を呼ぶ。

 当然僕はその声に手を止めて振り向く。


「あっ、すごい! スーちゃんすごい!」


 最初の頃はぐるぐると振り回していただけだった妹の素振りは大きくブレてはいるけれど、いつの間にか縦向きに振られるようになっていた。

 たぶん僕を真似たんだろうけど、剣を振るというよりはフラついた薪割りみたいだった。

 それでも、2歳としてはすごい進歩だ。


「すぅちゃん、すごい?」


 ニヘラと笑みを漏らす妹。

 超ご機嫌であった。

 

「にぃにも~」


 今度は僕の隣に並んで竹の棒を構える妹。

 向かい合ってじゃなく、僕と二人で並んでやりたいらしい。

 勿論、そんな妹のリクエストに僕は快諾して二人並んで棒を振った。

 そんな僕たち二人をチラリと見ながら、兄たちが学校へと走っていった。







「でさあ、昨日ので腰が痛くてさあ」

「あ~、分かるわ~。ずっとしゃがんでいたからな~」


 ガヤガヤと和やかな喧騒に包まれているのは、ここウエストフォース基地の食堂(生命線)

 しかし、その和やかさは一辺に掻き消えて陰険な物へと変わるのが肌で感じた。


「おいおい、Z隊はまた何をしたんだ? あんな格好じゃ食堂が土埃で汚れてしまうじゃないか」


 昼食の時間となり食堂に来てみれば、僕らの姿に先に食堂にいた他の隊の人たちが注目してくる。


「そう言えばさっき、また爆発のような音と振動があったな」

「それ、最近王都から転属してきた新人が魔力暴走させたんだと。向こうで小隊長たちが話しているの聞いたから間違いない」

「はあ!? あの歳になっても魔力暴走だなんて、マジかよ。流石はゼッタイZ隊に入るような新人だな!」


 この基地に着任してから一週間。

 針のむしろ状態に、何とも言えない居辛さを感じる。

 午前中に僕は隊のみんなに言われて無詠唱魔法を実践する事になった。

 隊の訓練では最初のを起こしているが、幼い頃は無詠唱魔法で泥んこ遊びをしていた記憶がある事をポロっと口にした途端、なら無詠唱で出来るだろうと口々に言われて、ならばとやってみた。

 昨日もマさんに見て貰って出来たし。

 ところが結果は、見事に魔力が暴走して爆発が起き、隊員みんなが巻き上がった土を被ってしまった。


 因みにZ隊がゼッタイと呼ばれているのは……。

 ・26あるウエストフォース基地の分隊の末尾である事。

 ・土魔法小隊は戦場になる場所に予め堤を造っておく事がメインであり、対魔物、対人問わず実戦では殆ど活躍の場がない事。

 ・いざとなった時に自衛手段に乏しく、他の隊に護って貰う必要がある事。

 ・小隊の中の分隊間に本来は格差はない事になっているが、実際は格差があり、Y隊の下にZ隊がある形となっている事……という話らしい。


 要は場末な分隊で、誰もがZ隊にだけは絶対(・・)入りたくないと思っているから付いた呼び名だと言う。



 実際のところ、幼かった頃は魔力暴走を起こした後も家の庭で隠れてコッソリと何度も魔法を使って遊んでいた事がある。

 しかし、どうも新しい所に行くとそこに慣れていないせいなのか、魔力の暴走を起こしてしまうのだ。


 5歳から入った学校では、教師たちは匙を投げて僕に魔法禁止令を出した。

 その代わりに伝のあった魔法学院の教授に面倒を見て貰う事になったのだけど、折りにも魔法学院は詠唱で横並びになるよう教育方針を変えたばかりだった。


 授業の中で、みんなと同じように現象を習ってから魔法を発動しようとすると今回のように魔力暴走が起きるものだから、苦肉の策として頭の中を空っぽにして詠唱するようにした事で、ようやく普通に魔法を発動できるようになれたのだ。

 しかし、それを指導してくれた魔法学園の先生は直に定年退職して居なくなってしまい、実質上一年間にも満たない期間しか見て貰えなかったのだが。


 そんな事を思い出しつつ、またまた魔力暴走させた事に引け目を感じて小さくなり日替りランチのBセットを受け取ると、一番奥の角席がポッカリと空いているのが見えたので、そちらを目指して足を向けたが、Z隊の人がそれを止めた。


「おい待て待て待て。そっちじゃない」


 同じ隊のミーシアが首根っこを掴んで僕を止める。

 ぐえ。


「え? でもあそこが空いて……」

「あそこはA隊の指定席だから。間違っても座るなよ? 初日にも言っただろ」

「でもA隊って、いつもいないじゃない。なら使っても……」

「いや、今はスライムくらいしか出ない閑散期だから、王都まで訓練に行っているんだよ。ずっとここにいると腕が鈍るんだってさ」


 ミーシアに代わってハングマンが説明してくれる。

 A隊。

 首都本部でもA隊はあったが、それは少数精鋭のエリート集団で、次点のB隊員と比べても圧倒的な力量差を見せる化け物集団だ。

 昨日の魔物スライムの異常発生だけでなくここに来てからずっと姿を見なかったと思ったら入れ違いだったらしい。

 ならばと見渡せば、窓際の一角の席も綺麗に空いていた。


「ちょっ、待って待って。あそこも指定席だって言われただろ? あそこをぶん取っちゃうと、本人たちにじゃなくてここの人間全てを敵にまわしちゃうから!」

「え? ここの人全てを?」

「あそこは治癒魔法小隊の席なんだ。みんな世話になってるからって、一番気持ちの良い席を譲ってるんだよ」


 首都本部にはなかった地方ルールなのだろうが、なるほどその席からは見晴らしが良く目の前には花壇の花が活き活きと咲いているのが見えた。

 A隊の席確保はともかく、治癒小隊への粋な計らいは僕も賛同できる。

 いつ世話になるか分からないし、さっきも危うくみんなに怪我をさせそうだったしね!

 ランチの載ったトレイを手に窓際の席へ向けていた足を止めたところで、後ろから声を掛けられた。


「あら。別にその席を使って貰っても良いのよ?」



明日4月11日から投稿時間を11時に変更します。

よろしくお願いします。

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